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消費税増税は不況に苦悩する中小企業への励ましか、追い打ちか

政府は10年度の経済見通しについて3年ぶりのプラス成長との見解を発表しました。この間の大手企業の株主総会でも、日産・ゴーン社長8億9千万円、ソニー・ストリンガー会長4億1千万円(他に4億円余相当のストックオプション)など、1億円以上の役員報酬が大きなニュースとなっています。上位20社の利益剰余金がこの1年間で1.5兆円も積み増しされ、世界的不況の嵐は過ぎ去ったかのようですが、中小企業の現場においては“別世界”の出来事としか実感できないのが実情です。

【“持ち直し”というが…】

 日本政策金融公庫の総合研究所が発表した「中小企業景況調査」(5月発表)によると、中小企業の景況について、前月と同じ“持ち直しの動き”との判断を示していますが、その内容を見るなら、中小企業経営においては依然深刻な状況が続いていることも明らかです。売上動向を示す売上DI(前月比「増加」−「減少」)は、昨年第1四半期のどん底から脱しマイナス幅が縮小したとはいえ、2007年4月以来一貫して前月を下回る「減少」超で推移し低迷しています。分野別で見ても、売上増を実感しているのはエコポイントや地デジを追い風にしている家電関連だけで、建設、衣生活、食生活関連では、“土砂降り”とも言うべき大幅なマイナスが続いています。

【切実な期待とは裏腹に】

 また興味深いのは、「今後の売上げ見通し」と実際の売上げに大きな隔たりがある点です。調査では「今後の売上げ見通し」について、4カ月連続で「増加」超と、中小事業者の切実な期待が色濃く表れた調査結果となっていますが、実際には「減少」超のままです。事業の立て直しと資金繰りに奔走するものの、なかなか報われず、期待を裏切られ続ける中小事業者の姿が垣間見られます。
 そしてその一方で、販売価格の「低下」と仕入価格の「上昇」が同時進行しているのも今年に入っての特徴です。一昨年秋のリーマンショック以来、販売価格と仕入れ価格がともに低下する“デフレ”局面に突入した観がありましたが、今年1月以降、販売価格は「低下」したまま、仕入価格DI(「上昇」−「低下」)がプラスに転じ、利益を出しにくい状態が続いています。仕入価格「上昇」の背景には、海外需要の増大などがあると思われますが、内需を支える中小企業にとっては、経営を圧迫する大きな要因となっています。

【消費税増税?……期待される「需要刺激策」とは】

 
4月に発表された信金中央金庫の地域・中小企業研究所の「中小企業景況レポート」でも、「大きな改善はみられていない」、今後は「小幅改善」(建設は「悪化」)とし、“デフレ不況下の中小企業経営”と題した特別調査の結果を合わせて公表しました。
 それによると、多くの中小事業者がデフレ不況からの回復を「政府による需要刺激策」に求め、大きな期待を寄せています(66.0%で2位以下と倍以上の差)。また、「当面は回復しない」との悲観的な見方が、小規模企業ほど高い比率になっているといいます。
 多くの中小企業にとって、体力はもうあまり残されていません。それだけに政府の経済政策への期待も高まります。そしてその柱は、国民の購買力強化による内需拡大であるべきでしょう。ところが、始まった参議院選挙では、与党も野党第1党も消費税増税の大合唱とは…。これではますます国民の購買力を削ぎ、内需を冷え込ませてしまうことにならないでしょうか。
 国民的な大議論と将来に悔いを残さない選択が、国民一人ひとりに迫られています。
(2010年7月)



消費税増税と法人税減税の果てに来るものは…

民主党代表選挙を受けて第2次菅内閣が成立しましたが、気になるのは、税のあり方に言及する菅首相の発言です。夏の参院選挙から代表選挙にかけて首相が繰り返し言及してきたのが、「消費税増税」と「法人税減税」です。
 そして、その理由として挙げられているのが、「消費税増税」は“歳出超過を補うため”、「法人税減税」は“企業が法人税の高い日本から海外に逃げ出さないようにして雇用を守るため”。はたして本当でしょうか?これで、日本の経済も国民の暮らしも本当に良くなるのでしょうか。

【“猛暑特需”ならず…21か月連続で前年同月比割れ】

 いま多くの中小企業が、不況から抜け出すどころか、円高による新たな不況への危機感を募らせています。小売業も苦戦を強いられており、今夏の猛暑による“特需”を見込んだものの、売上高は21か月連続で前年同月水準を下回る事態が続いています。朝日新聞の報道によれば、大手コンビニ幹部は、「『ついで買い』してもらうためにいろいろ仕掛けてはいるが、財布のひもはまだ固い」と嘆き、全国のスーパーマーケット等で構成する日本チェーンストア協会は「節約志向が続いている。猛暑でなければ、売上高はもっと落ちこんでいた」と、厳しい見方を示しています。こうしたもとで、「消費税増税」が行われたら、消費は一層落ち込み、国民の暮らしも日本経済も、取り返しのつかない打撃を被ることになるのではないでしょうか。

【「法人税は高い」のマジック】

 一方、「法人税減税」はどうでしょう?財務省が昨年末公表した「平成22年度税制改正の大綱」で興味深い資料を示しています。
 たしかに、法人所得課税の実効税率の国際比較では、日本はアメリカと並んで高い税率が課せられています。しかし、社会保険料の事業主負担という形で企業が拠出しなければならない資金はヨーロッパ諸国に比べるとはるかに低く、財務省資料によれば、これらを合算した企業の公的負担は、先進諸国の中でも中位程度であるとのこと。
 また、そもそも法人所得課税の実効税率についても、さまざまな大企業への優遇措置が施され、財務省の言う40.69%の実効税率も、経常利益上位100社の平均税負担の実際は30.7%程度に抑えられているという専門家の研究もあり、その要因として、@試験研究費税制控除、A外国税額控除、B受取配当益金不算入の3つがあげられています(『日本税制の総点検』勁草書房)。

【「市場縮小」こそ海外へ逃げ出す最大の理由】

 実際、日本経団連経済基盤本部長の阿部泰久氏も日本の法人税について「表面税率は高いけれども、いろいろな政策税制あるいは減価償却から考えたら、実はそんなに高くない」(『税務弘報』1月号)と述べており、企業の海外進出の動機は、税制の問題ではないとしています。経済産業省の調査でも、「現地の製品需要が旺盛または今後の需要が見込まれる」が海外投資決定の最大のポイントであると報告しています。
 需要低下を招きかねない消費税増税は、むしろ少子高齢化・人口減少が続く日本をよりいっそう魅力のない市場にしてしまう恐れがあり、これでは逆に、海外に逃げ出す企業が続出し、雇用機会を失ってしまうことになるのではないでしょうか。そして、海外に逃げ出すことのできない国民や中小企業は、いったいこの国にどのような希望をもてばよいのか。“経済音痴”と囁かれ、“イラ菅”とあだ名されるわが国政治のトップ。軽率な言動で取り返しのつかない政治災害を招来しないよう、国民の暮らしぶりや中小企業の苦悩を再認識してほしいと願わずにはいられません。

            (2010年10月)



異常円高で迎えた2011年
――中小企業はどう対処するか


 新しい年2011年の日本経済を占う上で、「円高」が一つの大きなキーワードになることは間違いなさそうです。年末発行の経済誌(紙)などでも、多くが「円高」問題を2010年の重大経済ニュースのトップにランキングし、今後の動向に注目しています。

【長引く不況のトンネル】

 昨年来急速に進んだ円高は、10月に1ドル=80円台と、15年半ぶりの高値を記録しました。これにより、リーマンショック以降ようやく回復の兆しを見せていた日本経済は、またもや急速な減速を余儀なくされ、中小企業は、ほとんど景気回復の実感もないままに不況のトンネルを突き進んでいます。

【「輸出」はダメでも、「輸入」ならいいか】

 円高により、大企業からのより一層のコストダウン要請に拍車がかかり、下請け中小企業にとっては、その影響は深刻です。すでに「国際競争力」の名で繰り返しコストダウンに協力してきた下請け業者においては、もはやギリギリの線で操業している状態ですから、これ以上の要請は、まさに死活問題です。
 一方、円高による「円高差益」が見込めるかのように見える業種の場合も、そう甘い見通しにはなりそうもありません。国民全体の購買力が低下しているもとで、低価格競争が常態化しており、その傾向が「円高差益還元」などいっそうの安売り競争によって「円高差益」分を越えて過度に進行する危険がつねに付きまといます。まして、直接輸入をして「円高差益」の恩恵を受けている事業者との競争になれば、多くの中小企業者はまったく太刀打ちできない事態になってしまいます。
 どちらにしても、体力のない競争力の弱い部分に負担の波は押し寄せてくることになります。


【付加価値獲得こそ時代を乗り切るエンジン】

 当面和らぐ気配のない異常な円高。その脅威にどう対処するのか。2011年は、中小企業に強く問われる年になりそうです。
 すでに使い古された感がありますが、この脅威に対抗するには、やはりそれぞれの商品やサービスにどうやって「付加価値」をつけるかが大事な課題になるのではないでしょうか。
 葛飾区でデザイン・広告業を営むT社では、従来の枠組みだけにとらわれず、積極的に異業種との交流を展開し、そのなかで新しいビジネスを生み出す努力を始めています。それぞれの事業者や業界が持つ得意分野を組み合わせたり、また共同で新しい商品やサービスを開発したりすることは、一朝一夕に奏功することばかりではありませんが、その意欲と努力が必ず実を結ぶと確信をもって挑戦することこそ、この難しい時代を乗り切るエンジンになるのではないでしょうか。
(2011年1月)



東日本大震災で何が問われているのか

【死亡・行方不明2万8千人超…史上空前の大震災】

 3月11日、史上空前の大地震と大津波が東北地方を中心とする東日本全体を襲いました。そしてその直後発生した福島第一原発の事故は、放射能汚染という新たな危機を引き起こし、いまだ収束の見通しは立っていません。
 この大震災での死亡・行方不明者が2万8千人を超え、半月を経過してもなお、その数は増え続けています。そして20数万人の人々が、避難所生活を強いられています。

【直接的被害だけで16〜25兆円というが…】

 内閣府は3月23日、この震災で損壊した建物や道路など直接的な被害が阪神大震災を大幅に上回る16〜25兆円との試算を発表しました。ただこれには、福島原発事故による計画停電や放射能汚染などの影響は含まれておらず、被害額はさらに膨大なものになるとのこと。
 また、企業の生産活動が停滞することで、11年度の実質GDPも0.2〜0.5%程度押し下げられるといいます。実際、日本を代表するような大企業が全国各地で操業停止に追い込まれました。これは、東北地方の各工場が直接的な被害を受けたことだけでなく、下請けなどの部品調達先が被災し、物流機能も寸断されて、生産のピラミッドが崩壊したことがより大きな原因だといいます。キャノンでは、今回の震災で九州のデジカメ工場が操業停止となっています。
 しかし、この震災による被害はあまりに巨大で、被害の全容はいまだつかみきれないのが実態です。
 たとえば、農水省によれば、岩手、宮城、福島の3県だけで2万haの田畑が津波浸水し、長期にわたって農業再開の展望を見いだせない事態といいますが、実態把握しきれない地域も数多く残されており、被害はさらに膨らむ見通しといいます。これに、原発事故・放射能汚染による農畜産物への被害も広がり始めており、農業分野だけでもどこまで被害が拡大するか予測できない状況です。

【生活と生活に密着した産業優先の復興を】

 今後、復興のための取り組みが本格化する上で、被害の全容把握と復興計画の立案、さらに何よりも資金的手だてが欠かせません。文字通り国家的な一大事業です。問題は、どのような優先順位で復興を進めるかでしょう。
 そしてそれは、その地に暮らしてきた人々の日常生活を取り戻すことであり、その生活に密着した産業を最優先に再建することから計画されるべきです。衣食住の安心が確保されてこそ災害による傷心をいやし、未来に向かって生きる希望や意欲を醸成することになるはずです。

【エネルギー政策の根本的見直しが迫られている】

 もう一つ、大震災は、原発に依存したエネルギー政策の是非、経済と社会のあり方を根本的に問いかけています。
 日本においては、1963年以来、55基の原子炉が全国各地に建設されてきました(世界3位・2008年現在)。政府と電力業界は、当初から安全性を疑問視する声に、「原発はクリーンで安全」と唱え続けてきたわけですが、今回の原発事故は、この“呪文”がまったく根拠のない“神話”であったことを白日の下にさらしたのです。
 今日起こっている事故を一刻も早く収束させることに全力をあげ、被害の拡散の根を断つとともに、除染をはじめとする対策の徹底が必要なことは言うまでもありません。
 その上で、原子力の利用がつねに放射能の危険と背中合わせであり、その危険を完全に排除することができない現状を直視し、原子力行政の見直しとエネルギー政策の転換が不可欠です。それには、供給側・需要側双方からの技術開発はもちろん、“24時間型”“大量生産・大量消費”というような経済と社会のあり方にもメスを入れる必要があるでしょう。
 太陽光発電など自然エネルギーを利用する技術は、未開拓・未確立の領域が多いとはいえ、日本が世界に誇る技術の一つです。エネルギー政策の転換には、これを戦略的に位置付け促進し、さらには経済と社会のあり方についての国民的合意形成というかなり長い時間が必要でしょう。しかし、そのための努力と接近こそが日本経済の新しい発展に寄与することになるはずです。
(2011年4月)


フクシマ後の2つの動きと日本の未来
【注目された電力各社の株主総会】


 大手企業の株主総会が集中する6月下旬、電力各社でも相次いで株主総会が開かれ、どの会場も過去最高の出席者数で白熱した株主総会になりました。原発の停止や廃炉、新増設の中止など、原発事業からの撤退や原発に依存しない路線への転換を求める提案が提出され、株主となっている自治体も賛成するという動きです。
 こうした提案は、従来ごく少数の「奇異な」主張として、マスコミもほとんど取り上げなかっただけに、東日本大震災と福島原発事故が与えた衝撃がいかに大きいかが分かります。

【議決権行使助言会社の「助言」】

 これら電力大手の株主総会をめぐっては、投資家向け議決権行使助言会社の態度が注目されます。「日本プロクシーガバナンス研究所」(JPG)は、電力各社の株主総会で「脱原発」提案に賛成するように「助言」し、その根拠として「一民間事業者の取り得るリスクの範囲を越えている」こと、これは「純粋な経済の話」としての判断だとしています。つまり、原発事業は、“投資の対象としてなじまない”というわけです。

【経済界や自治体の間でも】


 原発に依存しない日本の将来像を描こうとするとりくみは、経済界や自治体の間でも大きなうねりとなりつつあります。
 ソフトバンクの孫正義氏が提唱し、全国4分の3の道府県(35自治体・6月24日現在)が参加を表明している「自然エネルギー協議会」が7月にも正式発足する予定で、2020年までに日本の発電量に占める自然エネルギーの比率を現在の10%から30%に引き上げることをめざし、自治体や企業がネットワークをつくって協力し合うという動きもその一つです。

【城南信用金庫の「英断」】

 全国トップクラスの信用金庫である城南信用金庫では、ホームページに「原発に頼らない安心できる社会へ」と題する宣言を掲載。「原子力エネルギーは、私達に明るい未来を与えてくれるものではない」とし、自ら省電力と省エネルギーにとりくむと同時に「金融を通じて…省電力、省エネルギーのための設備投資を積極的に支援、推進」すると謳っています。吉原毅理事長は、テレビや新聞のインタビューで「(脱原発で電気料金が上がり、経済活動にも影響があるというが)適正に計算し直すと、原発のコストは高い」「純民間ベースなら原発事業に融資する銀行は一つもないはず」、「努力もしないで、原発はなくせないと言い張るのはおかしな話」(「朝日」6月29日付)と指摘しています。また、城南信用金庫の態度表明について、三井住友銀行の西川名誉顧問から「英断」と評価されるなど、期待が広がっていることも披露されています。

【古い詩を新しい曲に乗せて歌う人々】

 これに対して、政官財を中心に、原発をあくまで維持・推進しようとする側は、「原発=低コスト」論の大合唱で、防戦に躍起です。日本エネルギー経済研究所は「原発を停止したら電気料金は18%値上げになる」という試算を発表し、麻生元首相などは、原子力発電を太陽光発電で代替したら「電気料金が10倍に跳ね上がる」「工場は海外へ流出し失業者が増える」などと、恫喝まがいの主張を振りまいている有様です。
 しかし、こうした試算に何ら根拠のないことは、在野の専門家たちの指摘でも明らかです。毎年4000億円にも上る原子力関連予算や安全投資、使用済み核燃料処理費、廃炉費用、事故処理費用、賠償費用などをまったく計算に入れずにはじき出した架空の「低コスト」論がその真相です。

【“企業には理想もあるし、魂もある”】

 電力各社の株主総会での「脱原発」提案は、どこでも「少数意見」として否決されましたが、それはあくまで株主の中での話。最近の各種世論調査は、まったく逆の調査結果を示しています。将来の日本のエネルギー政策はどうあるべきか、東日本大震災と福島原発事故という深刻な犠牲の上に立って、重大な選択を迫られている歴史的な瞬間であるのかもしれません。前述のインタビューの中で、経済界の「異端児」か?の問いに答えた城南信用金庫の吉原理事長の「私は常識人です」「企業は…お金を稼ぐだけじゃなくて、理想もあるはずだし、魂もある」の決然とした回答が印象的です。
(2011年7月)


再生エネ法と閉そく感打破への期待

 3.11大震災から半年が経過しました。遅々として進まない被災地の復興や福島原発事故による放射能汚染の危険、時期を同じくして進行する異常円高…。いま、日本の社会と経済全体に閉そく感が広がっています。

【毎月1千件超 止まらない企業倒産】

 今年2月に5年5カ月ぶりに1千件を下回った月間の企業倒産(負債額1千万円以上)は、震災後ふたたび1千件を超えて推移しています(東商リサーチ)。2008年秋のリーマンショックによる世界金融危機以降、中小企業金融円滑化法や景気対応緊急保障制度などで、中小企業の資金繰りを下支えしてきましたが、不況の長期化は注入された外部資金をも枯渇させ、さらに震災がそれに追い打ちをかけています。
 7月度調査では、負債総額が減少しつつも倒産件数が減じない点について、「小・零細規模の倒産が中心」と分析し、また、震災後5ヶ月間の「震災」関連倒産が1995年の「阪神・淡路大震災」時の3倍超、243件にのぼっていることにも注目しています。そして、その懸念は8月度さらに現実のものとなり、4,330億円の負債で倒産した某牧場を含めて6カ月の累積が318件に達しました。

【加速する日本経済の空洞化】

 一方、震災によって大企業などの海外展開がいっそう強まり、日本経済の空洞化の加速化に警戒感が強まっています。宮城県の工場が被災し「巻き線コイル」の生産をマレーシアに移した村田製作所、地震などに備えて本社機能をシンガポールの現地法人にも持たせることにしたオムロン、大量の電力を使う炭素繊維の大規模工場を韓国に建設する東レ…。震災は、企業の海外展開の新しい理由づけともなっています。そしてそれに、異常円高が拍車をかけているのです。

【再生エネ法をテコに新たな産業と雇用の創出を】

 8月26日、再生エネルギー法が成立しました。太陽光や風力などの枯渇しない自然エネルギーによって発電された電力について、その全量を電力会社が固定価格で買い取るというもので、これにより新エネルギー産業分野での技術革新を促進し、原発への依存度の低下や地域経済の活性化、二酸化炭素排出量の削減などの効果が期待されています。
 環境エネルギー政策研究所の飯田哲也氏は、環境省が今春発表した「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」の報告やドイツの例などを引きながら、この法制度を土台に、技術革新と普及が加速すれば、コストも低下し、またコージェネレーション(発電と合わせ熱などのエネルギーも供給する仕組み)も組み合わせることで、十分に市場競争力も備えた産業になると指摘しています(「自然エネルギーの実力は世界が実証済み――日本で拡大しない要因は政治と政策の不在」)。
 小規模分散型電源が広がれば、従来のような大手企業が電力事業を独占する仕組みが崩れ、中小企業などにも参入する道が広がり、それらを軸にした地域経済の活性化や新たな産業と雇用の創出などにも可能性が開けてくるでしょう。
 実際、震災後この法律の制定の動きと合わせて、公・民を問わず全国各地で自然エネルギー開発への動きが広がっています。県民出資による共同発電所(太陽光)をつくり、生産電力の売却益を出資者に分配するという事業を立ち上げ、県がそれを後押しするという兵庫県の計画もその一つです。
 まずはこの新しい制度を土台に、日本国内での産業や経済に新しい発展の道筋をつける。ここにこそ蔓延する閉そく感を打破するための重要なカギがあるのではないでしょうか。

               (2011年10月)



トヨタの苦悩と野田内閣の処方箋

 未曾有の大震災と福島原発の深刻な事故、長期にわたるタイの大洪水被害、ヨーロッパの金融不安などで大揺れに揺れた2011年の日本経済。いったい新しい年2012年はどうなるのか、何としても明るい年にしたいものです。

【ドラえもんと「ハチロク」】

 日本のリーディング産業であり、そのリーディング・カンパニーとして君臨するトヨタが、昨年11月から興味深いCMを放映しています。
 フランスの有名俳優ジャン・レノ扮するドラえもんが、「車出して」とせがむ30歳ののび太(妻夫木聡)に「ダメ、だって免許持ってないじゃん」。そして最後に「免許を、とろう」のキャッチ・コピー。トヨタは年末の東京モーターショーでもかつて80年代に若者たちに親しまれたスポーツカーの愛称「ハチロク」をそのまま採用して、新しい小型スポーツカーを発表しています。若者の車離れを食い止めようという「Fun To Drive,Again」戦略です。

【業界トップとしての危機感】

 若者をターゲットにしたトヨタの戦略は、ある意味ではオーソドックスで正攻法な戦略といえます。少子高齢化が進む日本では、人口そのものが減少するとともに、若年層が急速に減っています。そしてその若者たちの間で顕著な車離れが進んでいるといわれているわけですから、自動車業界の危機感は深刻です。それは日本経済全体の危機感でもあります。
 これに対してトヨタは、業界のトップメーカーらしく、正面からパイ(市場規模)の拡大を図る戦略に打って出た、これが「Fun To Drive,Again」戦略です。日産やホンダなら、業界内部でシェア拡大やニッチ分野の開拓という戦略を採用する手もあるのでしょうが、業界全体の浮沈を担うトヨタには、パイ拡大の課題に立ち向かうしか道はありません。ここにトヨタの危機感と悲壮感がにじみ出ているといえるでしょう。

【「いつかはクラウン」を夢見れない時代】

 が、問題はこの先です。なぜ若年層の車離れが進んだのか、そして車離れが進む若年層にどうアプローチするのか、トヨタは果たしてこの問題に明確な回答を見出したのでしょうか。小型スポーツカー「ハチロク」を発表し、若者に「免許を、とろう」と呼びかけるCMを見る限り、その気配はありません。
 かつて借金をしても車を持つことにあこがれた若者たちを支えたのは、「いまは大変でも、まじめに働き努力すればいずれは…」という成長を続ける社会への安心感であり、それに根差した人生観でした。しかし今は、将来を展望できない不安定な非正規雇用と、社会から自分の価値を認められないというやるせなさの蔓延です。そして若者たちの財布から毎月かなりの額を費消させた車のローンに代わって、携帯電話や課金制のオンラインゲームの利用料がその座を占めています。「いつかはクラウン」を夢見れなくなった若者たちに「免許を、とろう」の呼びかけは、むなしく響くばかりです。


【「母なる海」を活力ある豊饒な海に】

 昨年末、苦悩するトヨタを援護するために、野田政権は自動車重量税の軽減やエコカー減税の継続などを打ち出しました。経団連など財界は、それでもまだ不十分と、取得税や重量税の全廃を要求しています。
 しかし、これで車が売れ、日本経済は持ち直すのでしょうか。野田内閣が自動車減税と抱き合わせで狙う消費税増税は、冷え込んでいる消費マインドをさらに打ちのめし、若年層をはじめとする低所得者層から車を購入する機会をますます奪うことにはならないでしょうか。
 アメリカ主導のグローバリズムに追随し、国際競争に勝ち残るために巨大な富を蓄積したトヨタをはじめとする日本の大企業は、同時に日本社会に大量の貧困層を生み出したのです。富の偏在と格差社会の進行です。しかし、この層こそ、かつて自らを育ててくれた母なる海であったはずです。
 トヨタの頭上に揺れるダモクレスの剣は、日本経済そのものの置かれた状況でもあります。脱出する道は、母なる海=国民に活力を与え、豊饒な海にすることです。税が持つ「富の再分配」という機能を発揮して。
 再び運転を楽しめる時代になるか。新しい年が始まりました。

               (2012年1月)

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