元銀行員の聞きかじり(第31回〜第40回)


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第31回 タコ社長の経営能力は?

 こんな仕事をしていますと、テレビ・映画・小説などでのお金にまつわる話が気になることがたまにあります。なかでも、私の大好きな『男はつらいよ』シリーズのとなりのタコ社長は最も気になる人物です。従業員5名程度の印刷業を営んでいますが、『寅さん』に絡む場面以外はいつも「お金が大変だ(=決済資金が足りない)」と忙しがっている印象しかありません。山田監督の典型的な零細企業の(愛すべき)イメージなのでしょうか?

 監督にすれば全く余計な詮索なんでしょうが、何回も同じ場面に会うと、つい「なぜ、いつもお金が足りないんだろう。もう少し何とかならないの」と考えてしまいます。印刷業は一種設備産業ですから、競争が激しく利益が薄いなかでも新しい機械をいれなければいけない、その(割賦)支払のため赤字とわかっていても受注するなど悪循環になりがちです。でもいつもは困らないですよね。機械を入れる時に支払いがいくらになるかはわかっているはずですし、そのため必要な売上も計画されています。その進捗を見ていれば、月末になって慌てることはないはずです(ただし、入金の遅れ、銀行融資のキャンセルなどの予期しない事態もあるわけですが…)。また、博さんという数字に明るいしっかりした人物がいますが、経営に携わっている様子もありません。そのあたりも人材活用の経営能力が必要とされるところでしょう。

 でも、タコ社長がいつも仕事に余裕を見せゴルフに行っているのでは、映画のアクセントにもなりませんね。

第32回 「自己責任の時代」とは「プロ不在の時代」?

 『耐震強度偽装問題』には、今日的な問題を感じます。資格を持つ人に、倫理上当然に求められている「安全・生命」がないがしろにされ、「ありえない」事態の発生をどうとらえていいのか、やりきれない気持ちです。

 「黙ってプロに任せておけ」ではなく、アマチュアが口を出す時代とはいえ、プロには「公開性・説明責任」が求められ、アマチュアとの差は歴然とあるはずです。このプロが(資格の有無にかかわらず)、誰かに言われようと言われまいと、「やるべきこと」をやる意識・気概を失ってしまっては、約束事で成り立つ社会が機能不全に陥ってしまいます。

 また、検査機関が巧妙な偽装で見抜けなかったとの発言も大変奇妙な話で、「じゃ、何の検査していたの」ということにもなりますし、今回の発見経緯が(検査機関の)内部監査ですので、単に自らの過怠を公表しただけとなってしまいました。マスコミ報道が「ぐるみ」偽造との指摘をすることもやむを得ないものです。少なくともお互いの緊張感がなく、本来の職務目的を忘れた事務処理となっていたと言わざるを得ません。

 例えば、世間相場からみて異常に安い値段のものを買うときに、「怪しい(鮮度が落ちる、まがいもの)」とか「上手い話には裏がある」と考えます。しかし、それを自己責任(リスク)といっても、それは通常に判断できるということが前提であり、まさにその判断材料を提供するのがプロの仕事なわけです。今日は、責任をアマチュアに負担させるのではなく、プロがより「精度高い」仕事をすることを求める時代なのです。今回の問題は、時代の変化がいびつな形で存在することの表われだと思います。

第33回 景気回復について

 謹賀新年。今年もよろしくお願いします。

 昨年来景況感が随分と改善してきました。それを象徴するかのように、株式市場もややテンポが速すぎるのではと思われるほど値を上げ、扱いを増加させています。上場会社の9月中間決算状況から、この3月決算が相当よい内容となることが明らかですので、この程度は当然なのかもしれません。しかし、景気の問題を考える上で、次年度以降も更に拡大していくのかということと、景気の改善をみんなが実感できるようになるかということが大切です。いくら株式や不動産が値をあげてもそれだけでは景気がよくなったことにならないことは、バブル期に高い授業料を払い身につまされたことです。今回は、確かに、銀行の「(不良債権問題による)機能不全」解消や一般企業の「リストラ(カットだけではない事業再構築)」効果によるものがあることは事実です。しかし、本当の好況となるためには、経済実態として『動く(=働く)お金』が増えているかが問題だと思います。このためには、必要最低限の支出しかしない『縮少均衡』ではなく、『動くお金』を増やすための余裕(=無駄遣い)の支出が必要で、これがなくては多くの人が『拡大』へとは向わないものです。こういった意味で「デフレ」解消も重要となります。利益が流通に偏在している傾向が、現在一層増しています。適正な利益がメーカー側にも存在しなければ、開発・研究の発展が困難になります。これが是正されると、更に景気回復の実感が出てくると思われます。

第34回 『後悔しない決断』ってあるの?

 私事ですが、娘が大学受験中です。とりあえず受かってもらわなければ困るんですが、(取り越し苦労かもしれませんが)複数受かった場合にもちょっと問題です。本人はやや気の多い性格で、必ずしも優先順位が一貫していません。当然、どこも一長一短があります。親としては「後から後悔しない様によく考えなさい」とアドバイスするわけですが、後悔しない選択なんて本当に出来るのでしょうか?

 自分を振り返ってみても、いくつかの決断が必要とされましたが、後悔しないことなどほとんどありません。「あの娘と結婚していれば」なんていうことも…(!?)。それもあり、あまり現実的じゃないので、最近では少しアドバイスを変えました。「どうせ、どちらにしろ後悔はするよ。後悔しても自分が納得できるように考えたら…」

 さて、経営者はまさに『決断の日々』です。後悔していては前に進めません。しかし、『後悔しない決断』と言い切るには、悩ましい問題も数多くあります。当然、その時点でベストと思われる判断をするわけですが、何を判断根拠とするかは、人それぞれにより違っていると思います。また、その後の評価が必ずしも「良いもの」とならないことも、我々は数多く経験しています。つまり、その時だけでなく、後日どう見られるかも重要な判断材料となります。あとになっても、その時点での決断の理由を同じように説明できれば、それなりの説得力(または、自分に対する納得感)を持つことができます。

第35回 「量的緩和」の解除について

 皆様も既にご承知のとおり、9日に日銀はバブル崩壊後一貫してとってきた「緩和」政策を転換しました。特に、デフレ対策としていた非常手段である「量的緩和」を止めることになり、いわば日銀の機能が「正常化」したと言えます。この間、『銀行の不良債権処理』がメインテーマであったことは間違いのない事実で、長い間経済をいびつな形にしてしまったことに一端の責任(感慨?)を感じています。

 これに対して、「住宅ローン」や「借入金利」があがる、との観測からこれをマイナスとして受ける向きもあるようです。しかし、3年固定の住宅ローンが1%となっていること事態が、あまり正常な金利状況ではありません。やはり、金利も(実質だけでなく)表面的にも適正な水準でなければいけません。

 倒産が多いことや起業が少ないのは、銀行借入ができなく、また金利が高いからだ、という意見には首を傾げざるをえません。むしろ、逆に金を借りやすくする(最近では「増資」など資金を作りやすくする)こと自体が、その企業体質を脆弱にする一面もあるように思えてなりません。

 企業は、従業員や取引先など多くの利害関係者がいますので、継続される事業でなくてはなりませんし、そのためには適正な利益が必要となります。このためには、ある程度の金利変動に対応できる企業体力が必要です。金利が安いからといってみんな借入金でやりくりできるような安易な状況が長く続くことは、企業を成長させる努力をしなくなるようなモラルダウンすら懸念されます。

第36回 事業計画は重要です

 4月になり、新年度に入った会社も多いことと思います。新年度となれば、新しい事業計画がスタートしています。「どうせ新規事業なんだから、やってみなきゃわからないよ」などと、事業計画が必ずしも会社全体に浸透されていないケースもあると思いますが、いろんな意味で重要なものです。

 まず、何かの施策を実施する場合にその目的が明確にされなければいけません。このためには、共通認識を持つ作業として、役割ごとの目標策定の議論を進めて行くことが有益です。その過程を通じて、他人の仕事ではなくそれぞれが自分の仕事として理解することができます。

 次に、この際には「やりっぱなし」になってしまうことが最もいけないことですので、成功と失敗の区分が客観的にも判断できるような指標を設定します。策定時に撤退コストまで考慮できれば良いのですが、実際はなかなかそこまで手が回りません。そこで、中途での「継続・中止」の判断ができるような指標にしておきます。これにより、途中での見直しが可能となり、体制の変更や目標修正などをすることとなります。

 資金が必要となる場合には、事業計画が銀行への借入れ申込みの資料となります。ただし、社内資料のままでは十分な理解が得られないこともありますので、表現を修正する必要があります。決算時などに経過報告をすることで、変動に対応してもらうことも容易になります。

第37回 消費者金融規制はだれのため

 いろんなマスコミが報道しているのでご存知と思いますが、クレジットを扱う側からも自己利益のためだけとは言えない反論があります。

 貸金に対する規制は、「自己破産」増大の問題もあり、ここ10年間ますます厳しいものとなっています。昨今の状況について、業界では「銀行以外金を貸すことはダメだいうことか」といった極論まで聞かれる次第です。銀行は銀行法によりますので、クレジット会社などとは規制がまったく違っています。さすがに、消費者金融を使うこと自体が問題だ、とは言われなくなりましたが、そもそも銀行は事業金融主体で、個人への十分な取組みができなかったことが、これまでの消費者金融業界拡大の大きな要因です。また、今回は大手のアイフルの問題だったのですが、本当に問題なのは、いわゆる「ヤミ金」といわれる規制外の会社です。従って、規制を強化することだけでは、根本的な解決とはなりません。むしろ強化が(利用を不自由にする結果)「ヤミ金」をはびこらせることにもなりかねません。

 消費者行政の問題もあります。「消費者は弱い、無知」を前提とした保護政策一本槍ですから、いつまでたっても自覚した消費者は育ちません。「お金が必要となること」は皆あるわけですから、要は自らコントロール出来るかどうかです。運転免許と同様に、学校などで講習を義務づけ「借入資格」を付与することなんかも考えてはいかがでしょうか。まあ、それにしてもプロである貸手の「貸さぬ親切」がより重要ということもありますが…。

第38回 村上ファンドの「言ったこと」「やったこと」

 ライブドアに続いてと言いますか、実質的に一体として「村上ファンド」が検察に摘発されました。『目立ちすぎ』の感は強いのですが、(マスコミでの取扱いはあるにしろ)自ら意図していたようですから、その点では反論できないかもしれません。

 村上氏の言う『企業価値の向上』には、当初よりずっと違和感がありました。確かに、具体的な指標として株価あるいは株式総額があることはそのとおりですが、これがすべてである(株価が上がればよい)という主張には、納得できません。結局「やったこと」は株価をあげさせて(!)売り抜けることにより売却益を出した、ことに尽きてしまいます。本来、ファンドはむしろ中長期的な成長に重点を置くもののはずです。短期的な観点を否定するものではありませんが、それだけであれば『仕手集団』と何ら変わらないこととなってしまいます。

 確かに「物言う株主」として、経営者に緊張を与えた点は功績と見られます。偉くなるほど緊張感のなくなるサラリーマン社長や世襲に安住している経営者もいなくはありません。『企業価値の向上』の責務を果たしていない経営者もいます。たとえば、「現金」は稼がない資産ですから、ただこれを積み上げるだけでは、十分な経営ともいえません。短期の企業価値と長期のそれとは自ずと違いがあり、これらを状況に応じてバランスの取れた経営をすることこそが、永続を前提とした『企業価値の向上』となると考えます。

第39回 社長の交代

 社長の最大の決断は後継者の選任、つまり自らの退場と言われます。サラリーマン社長のように「就任から考えていた」とまではいかないまでも、事業や社員のことを考えれば常に念頭においていることと思います(死ぬまで社長という方もお見受けしますが)。

 さて、社長の交代も実にさまざまですが、以前から不思議に思っていることがあります。それは、会長になる際に「社長を退任し」と発表しますが、「代表権をもったまま」会長になるケースなどは「会長へ昇進」じゃないの?と思うんです(社長兼務のときもおなじような印象ですが)。想像するに、部屋も変わらないでしょうし、任命者がすぐそばにいては、遠慮が働き、新社長が存分の個性発揮できないように思われます。また、会長もどう運営するかが心配でいろんな口出しをしてしまうことになるでしょう。お互いに遠慮するような関係では、会社運営は停滞してしますから、ここは自分の最大の決断を信じて、退くことが最善と思われます。

 上場会社で、決算日(3月31日)に会長と社長の退任を発表した会社がありました。業績予想も順調で、まだ年齢的にも問題はありません(なおかつオーナー一家でもあった)でしたので、周りは何が起こったのか、と不思議がり株価もいったん下がりました。その後、決算発表があり、心配したようなことはなかったので、風評はなくなりました。新年度を新経営陣でスタートするという考え方は理解できるにしろ、周囲にむやみな不信感を与えないという点で、株主総会での交代のほうが良いのではと思われます。

第40回 事故対応は会社風土そのものです
 
 事故対応で、企業評価が大きく変わる(場合によっては、企業の命運を左右する)時代になりました。以前ですと、現場責任者の対応で済ませてきましたが、すべてとまでは言わないものの、経営トップの対応が求められるようになってきています。『個人情報保護法』施行以降の情報漏洩問題もさることながら、やはり、“人命”に係わりかねないメーカーが特に注目されます。古くは、「雪印」ですが、最近でも「松下」「パロマ」などがマスコミでも大きく取り上げられました。
 
 リスクマネジメント専門家は「ミスは起こるもの」という前提での社内体制が必要と指摘しています。いわゆる“グローバルスタンダード”の影響から、発生したミス自体より、公表がフェアに行われたか、防止体制はどうであったか、今後の対応・対策の見直しは十分か、などがより重大問題として問われるようになっています。これを十分に説明できない場合、会社の信用度が低下し、事故の損害以上のダメージを受けることとなります。
 
 後日の訂正記者会見で、「情報が正しく伝わっていなかった」という『お詫び』は聞くたびに、痛ましい気がします。“悪い情報”が上には伝わりにくいのは、『保身が働く』組織の常です。経営トップが速やかに、かつ正確に把握するためには、組織制度だけでなく会社風土を制度に適応させなければいけません。よく“風通しのよい組織”が話題になりますが、理念だけで部下のモラルに頼るのはもはや無理です。実現のためには、「みんなの前でほめる」などのかなり意識的な運営が必要となります。



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