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労使トラブル 110番

ママさん弁護士奮戦記
【大久保佐和子(おおくぼ・さわこ)】弁護士(第二東京弁護士会所属)
あかしあ法律事務所(新宿区新宿1-14-5新宿KMビル602)TEL:03-5369-0790
                   《1》
        2011年4月

  昨年夏に長女を出産し、今年1月から仕事に復帰しました。ようやくみつけた無認可保育園に娘を朝9時に預け、午後5時に迎えにいくまでの8時間という限られた時間内での仕事は大変ですが、どたばたと忙しい毎日にも慣れてきました。そんな矢先に、この大震災が起こりました。私は新宿にある職場にいて、結局交通事情が戻らず、当日は自宅に帰れませんでした。保育園にいた娘は、たまたまその日仕事を休んでいた夫が迎えに行き、連れ帰ることができました。

 翌日帰宅し、娘の顔を見て一息ついたのもつかの間、今度は福島原発の状況がどんどん悪化し、ついに東京都の浄水場からも、放射性物質が基準値を超えて検出され、乳児の飲用を控えるようにとの摂水制限が出されました。生後6ヶ月の娘が1日に飲むミルクだけでも、800CCの水を使いますし、離乳食にも使います。ペットボトルの水は、いくらあっても足りません。あわててスーパーなどに買いに行きましたが、まったく手に入らず、地方に住む親戚にもお願いしましたが、そこでも手に入りませんでした。私が水道水を飲めば母乳にも影響するのではないか、お風呂はどうなるのか。いつまで続くのか・・・、先の見えない不安で頭がいっぱいになり、情報を得ようとテレビ番組をはしごしましたが、学者によって微妙に話のトーンが異なり、どの情報を信じていいのか、どの情報もあてにならないのか・・・一般市民の私たちには判断もつきません。

 私と同じように乳児を育てている人は数知れません。さらに、妊娠中の人やこれから子どもを生みたいと願っている人など、この水道水問題をはじめとした原発問題にどれだけ悩まされていることか。冷静に行動しなければと思いながらも、ペットボトル入りの水を探し続けてしまいます。翌日には基準値を下回ったとして、都の摂水制限が解除されましたが、現在の福島原発の状況をみれば、解除にまったく安心はできません。

 確かに、過剰に反応し過ぎて不要な買いだめに走ることはよくありません。しかし、冷静に行動できるためには、福島原発で今起こっていること、そこから予想される今後の危険性の具体的な内容、程度、それに対して国がどのような政策を行い、行おうとしているのかが、私たち市民にわかりやすく、正確迅速に、全面的に知らされることが不可欠です。

                  《2》

       2011年7月

 娘が生まれてもうすぐ一年。先輩ママから聞いてはいたけれど、こんなに頻繁に病院に行くとは…。

 乳児が受ける(受けられる)予防接種は、とても覚え切れる数ではない。すでに7回の予防接種を受け、これからもいくつもの注射が彼女を待っている。
 生後2か月で咳が出始めなかなか治らなかったこともあり、数えてみると、お世話になったお医者さんは8人にもなる。新米ママの私は、どのお医者さんの話にもこれまでにないくらい必死に耳を傾け、娘の病状などを少しでも正確に把握し、大丈夫だと安心したい気持ちで一杯だった。多くのお医者さんは、丁寧に説明をしてくださって、今かかりつけでお世話になっている先生は、とても信頼している。

 でも、残念ながら、中には信じられないくらい冷たい対応のお医者さんもいた。こちらが、受診に至った経過を懸命に話してもほとんど耳を傾けず、「お母さんの言っていることはよくわからない」とか、検査は必要ないですかと聞いても「僕の子どもなら検査なんてしないね」と冷たく言い放って、具体的な説明をほとんどしてくれなかったお医者さんもいた。こちらは、生後間もない娘を病院に連れて行くだけでも緊張し、医者の言葉一言一句に耳を傾けているのに・・・悲しい気持ちになって病院から帰宅したこともあった。

 しかし、この経験をして自分の仕事を振り返る機会を得たことも確かだ。事務所の戸をたたき、弁護士に相談に来てくれる方は、私たち弁護士の言葉に一喜一憂しているのだということをもう一度考えさせられた。日常生活の中で病院に行かない人はまずいないが、一生弁護士などには縁のない人も大勢いる。法律事務所を訪れるのは、病院に行く以上に気が重く、大変なことなのだ。もう一度意識して依頼者の方と向き合ってみると、相談に来た方が緊張しながら話していることがよく伝わってくる。私たちの意見やアドバイスを真剣なまなざしで聞いてくれている。それぞれが、人生の中での一大事を抱えて相談に見えているのだから当然だけれど、少しでも緊張をほぐして、リラックスして話をしてもらえるようにしたい。そして少しでも元気なって帰ってもらいたい。そのためには、聞き手である弁護士が、たんに事務的に依頼者から話を聞くのではなく、話しやすい雰囲気をつくり、依頼者の気持ちを受け止める


                  《3》

       2011年10月

 子どもは頻繁に熱を出す。成長する過程で必ずかかる病気というのもいくつもある。娘が通う保育園の統計では、昨年の0歳児クラスの年間平均病欠日数は一人あたり40日を超えたとのことだ。

 保育園ではクラスナンバーワンの出席率を誇ってきた娘も、9月は2度高熱を出した。一度出すと意外と長引いて、いずれも1週間保育園にいけなかった。一番大変なのは娘なのだとわかっていつつ、「お〜い、そんなに仕事は休めないよ。勘弁してよう。」と泣きたくなってくる。熱がある娘を置いて仕事にいくのはこちらもとっても辛い。でも、仕事をしていれば、どうしても休めない日、というのは不可避的に存在する。

 今は、多くの自治体で「ファミリーサポート」などの名称で、保育園の送り迎えなどをサポートしてくれる制度もあるが、子どもが熱を出したときまで確実に預かってもらえる制度はほとんどない。病児保育を実施しているところは少なく、私の住む地域では、一日定員4名の一箇所しかない。足りる・足りない以前の問題というような数である。

 私の場合は、知人の紹介で、娘が病気のときでも都合が合えば預かってくれるSさんがみつかり、本当によくしてもらっている。先日など、娘を預かっているときに撮ってくれた写真をアルバムにしてプレゼントしてもらい、涙が出そうになってしまった。

 こんな温かい人にめぐり会え、私は本当についている。しかし、誰もがこんなめぐり会いをするとは限らない。Sさんだって用事がある日もある。誰もが安心して利用できる制度がやっぱり絶対的に足りない。

 私の小さいときはどうしていたのか母に聞くと、知人にお願いして何とか乗り切ったとのこと。30数年たってもほとんど変わらぬ現状に、悲しくなってしまう。

 「幼保一体」などといって、利益優先の子育て制度につくりかえようと企むのではなく、働く母親や父親が何を必要としているのかに真剣に耳を傾けて、制度づくりをしてほしい。


                  《4》

       2012年1月

 「年越し派遣村」ができた2008年末、大手自動車会社から派遣切りに遭い、今月いっぱいで寮も出て行くようにとの通告を受けた二人の青年が、派遣先であるこの大手自動車会社に対して直接の雇用関係の確認等を求めて裁判を起こした。私もこの事件の弁護団に加えていただいた。

 二人から聞取りをする中でわかったのは、彼らが非常に勤勉に働き、派遣先から望まれて働き続けてきたことだった。仕事の内容も働き方も正社員との違いなどない。トラックの製造ラインで、正社員と同じ作業服を着て、正社員と一緒に数々の部品を組み付ける仕事をしてきた。傍から見ると、誰が正社員で誰が派遣社員かなど全くわからない。大きく違うのは受取る給与が正社員より圧倒的に低いということ。裁判の中では、こうした実態や、被告らの派遣法違反の数々を尋問等を通じて明らかにすることができたと思う。その結果、この種の事件では高水準といわれる内容で、昨年夏に和解が成立した。提訴から2年が過ぎていた。

 でもやっぱりくやしい。二人は職場復帰はできなかった。勤勉に働いた二人の青年が、正社員を解雇するよりもずっと簡単な方法で職場を追われてしまった。2年越しの裁判をして違法な実態を明らかにしても、社員にはなれなかった。派遣法違反があっても、派遣法は労働者保護の法律ではないから…と裁判所は考えているようだ。

 二人の青年は、「(支援者や組合の人など)みなさんに出会えたのが何よりの宝」「解決できて本当に嬉しい」と言ってくれた。でも、真面目に働いた派遣社員が理不尽に職場を追われる現状はほとんど変わっていない。今年は継続審議となっている派遣法改正がどうなるのか、是非注目していただきたい。
 ちなみに、私はこの事件で弁護士になって初めての反対尋問を担当した。当時生後9ヶ月ながら、私の尋問練習に付き合ってくれた娘に感謝。今年もこんな母をよろしくお願いします。

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