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PART1:〜カウンセリングって何?〜

 最近はメンタルヘルス対策として、大手企業では社内にカウンセラーを常駐させたり、一部中小企業でも外部のカウンセラーと契約して、必要に応じてカウンセリングを利用したりしているようです。
 ところで、カウンセリングとは何なのでしょうか。
カウンセリングは日本語でよく「相談」と置き換えられています。一時期はそのように和訳されていたようですし、カウンセリングという言葉の語源には、相談という意味もあるようです。
 ただ、現代カウンセリング事典(國分康孝監修)によると「カウンセリングとは言語的および非言語的コミュニケーションを通して、健常者の行動変容を試みる人間関係である。」と定義されており、単なる相談ということでもなさそうです。

◆ 相談との違い ◆
 では、相談との違いは何なのでしょうか。
 一口に相談と言ってもいろいろな種類があり、ここでは「身の上相談」「コンサルティング」との違いを比較してみます。
 例えば、ニートの若者から就職についての相談を受けたとします。
 「身の上相談」の場合、相談を受けた人の経験や価値観から相談者にアドバイスをするため、解答も千差万別です。過去に同じ経験をした人であっても、その後自分で納得のいく人生を送っている人からは、「焦らずに自分の本当にしたいことを探しなさい。」というようなアドバイスになるでしょうし、過去の経験を後悔している人からは、「どんな仕事でも良いから、とにかく正社員の仕事を見つけなさい」というアドバイスになるのではないでしょうか。
 「カウンセリング」においても、まず相談者の話を聴くことは身の上相談と同じです。しかし、カウンセリングではその最中に人間関係の構築、表情・顔色・動作・口調などから内面を察知し、相談者に伝え返して確認する作業などを行います。その結果、相談者は今まで見えていなかった自分に気付きます。直接的な指導等は行わないので、その場で解答が出るわけではありませんが、相談者が自分の力で徐々に問題を解決して行くようにします。
 「コンサルティング」は、例えばキャリアコンサルタントに相談した場合、相談者の興味・能力・価値観・過去の経験・生育環境等をもとに、将来のビジョンを視野に入れてカウンセリングをします。その結果、相談者が何をしたいのかが明確になり、そこから相談者自身では見出せなかった可能性を引き出し、マッチングを行います。この場合もカウンセリングを行いますが、なかなか対等の立場にはなりづらく、どうしてもコンサルタント主導になりがちです。
 つまり、相談においては具体的な解答を出したり、それが難しくてもある程度の方向性を示したりすることに重きを置きますが、カウンセリングではプロセスに重きを置いているのです。

◆ 産業カウンセリングの目的 ◆
 さて、企業におけるカウンセリングとは、どのようなことを目的としているのでしょうか。
 一般に企業におけるカウンセリングを産業カウンセリング、産業カウンセリングに従事する人を産業カウンセラーと呼びます。産業カウンセリングの目的は「働く人の人間的成長を援助すること」です。それは単に不平不満の処理や、一時的な職場不適応の解決だけではありません。
 従来は従業員の不適応対策として実施されており、心理療法的側面や、適応相談的側面が強かったのですが、問題行動にのみとらわれず、より良い適応と成長や発達を援助することが、メンタルヘルスの保持・増進活動の中心となっています。
 つまり産業カウンセリングとは、働く人の生涯にわたる成長過程を通して、その人が効果的に機能できるように、個人的・社会的技能を身に付け、さまざまな問題解決や意思決定能力を発達させることを援助する過程と言えるでしょう。

 最後に、カウンセリングと言ったときに、いいイメージを持たれたでしょうか。あまりいい印象がないのではないかと思われます。
 実はカウンセリングの対象者は健常者(成長、向上が期待されている人)が主です。「ちょっと悩みがあって気が重いなあ…」と言うようなときに、気軽に行って見て下さい。
   




PART2:「うつ病」について

「東京都内の中小企業の従業員10人に1人が過去1年間に自殺を考えたことがある」――こんなショッキングな厚生労働省調査が報道されました(7月13日付朝日新聞)。
 今回は、最近増えてきているうつ病について述べたいと思います。

■うつ病までのプロセス■
 うつ病とはそもそも何なのでしょうか。
 うつ病までのプロセスとしては、過労やストレスを溜め込んでいくうちに、まず身体の不調が現れます。頭痛・めまい・動悸・下痢や便秘などに悩まされ、内科で診察を受けても異常なしと診断されてしまいます。
 その状態に悩みつつも、それまでと同じ生活をしているうちに、気分の不調が現れてきます。一般的な症状として、過度の落ち込み・行動力の欠如・判断力の低下などが言われています。
 気分の不調が現れていても、会社に出勤できるレベルであれば、うつ“病”と称されるほどのものではなく、最近では、単なる「うつ」や「抑うつ状態」と呼ぶようになっています。
 ただ、これを放っておくと、本当にうつ“病”になってしまい、最悪の場合、判断力の低下から自殺に至ることもあります。
 一方で、気分はそんなに落ち込んでいなくても身体の不調が続く「仮面うつ」というケースもあります。
この場合、症状を自覚したときには、既にうつがかなり酷くなっていることもあります。
 いずれにせよ、早期発見・早期治療が大切なのは、他の病気と同じです。

■うつになる要因■
 うつになりやすい性格的な要因としてよく言われるのは「生真面目・几帳面・完璧主義」です。
 しかし、実際には性格的な要因よりも、職場環境や家庭環境といった、環境要因の方が大きな影響を及ぼします。
 影響しやすい職場環境は「慢性的に忙しい職場である」上に、「職場内での根性論の横行」「もともと職場でのコミュニケーションが少ない」などが挙げられ、家庭環境では「家族の中にうつ病患者がいる」といったことが挙げられます。
 ただ、そのような要因を持っているからといって、ちょっとしたことでうつになってしまう訳ではありません。自分の性格をきちんと理解して、ストレスや疲労を溜め込まないようにコントロールしている人もいます。

■うつはどうすれば防げる?■
 本当は「うつはどうすれば治る?」ということに言及できれば良いのですが、これについては医学的見地からの考察も必要なため、予防方法について述べるにとどめさせていただきます。
 うつの予防はやはり「コミュニケーションをとること」でしょう。
 とは言っても最近はコミュニケーションをとることが苦手な人が増えていて、どうすれば良いのか悩むところだと思います。
 そこで、まずは「挨拶の励行」から実践してみてはいかがでしょうか。
 普通、挨拶をするときは声を掛けるだけではなく、相手を見ますから、その中で「今日は何かいつもと様子が違う。何があったのだろう?」と相手の不調に気付くのではないかと思います。
 そういう人に声を掛け、ゆっくり丁寧に話を聴いていけば良いのです。
 これだけでも十分にコミュニケーションはとれますし、個々の従業員としては「自分は職場に受け入れられている」という安心感が得られるものです。

■うつの発見には「ケチな飲み屋」■
 「うつは心の風邪」とよく言われます。
 風邪だと寒気がするとか、くしゃみが出るといった前兆が見られますが、うつ病も例外ではありません。
 うつ病の前兆として社内で見られる症状の頭文字を取って、「ケチな飲み屋」と言っています。
 「ケ」は「欠勤」、「チ」は「遅刻・早退」です。今まで無遅刻無欠勤だったのに、遅刻・早退や欠勤をするようになったということです。
 「な」は「泣き言」です。今まで精力的に仕事をしてきたのに、最近「もう無理」と言った、マイナスの言動が増えてきたということです。ヘルプサインを出しているとも言えるでしょう。
 「飲」は「能率の低下」で、「み」は「ミス」です。処理能率が低下し、今までありえなかったようなミスを起こすようになったということです。
 「屋」は「辞めたい(と言い出す)」です。

 あなたの職場に思い当たる従業員はいませんか?職場のメンタルヘルスの問題を、単に個人や直属の上司の問題ととらえるのではなく、会社経営、会社そのもののあり方の問題として考えなければならなくなってきています。
 




PART3:「職場内のコミュニケーション」

 前回は、うつ病の予防法としてコミュニケーションの重要性について取り上げました。今回は、コミュニケーションの内容について具体例を交えながら述べたいと思います。

■職場内のコミュニケーション見直してみよう■
 「自分は他者(上司や同僚、部下)とコミュニケーションをとれています!」と自信を持って言えるでしょうか?
 コミュニケーションは双方向であるのが本来の姿ですが、職場では一方的なもの(伝達・報告)になっていることがよくあります。
 また、忙しさのあまり、話を聴く時に相手の表情を見ないまま耳を傾けるだけだったり、メールで済ませて言葉を交わさないということもあるのではないでしょうか。
 このような状態をそのままにしておくと、少しずつ職場内が殺伐とした雰囲気になり、社員がうつ状態にかかりやすい職場になってしまいます。
 そうなってしまう前に、職場内のコミュニケーションを改善する手を打たなければなりません

■望ましい声掛けとは?■
 では、具体的にはどうすれば良いのでしょうか。
 そんなに堅苦しく考える必要はありません。その時々のニュースや世間話、相手の負担にならない程度の相談や愚痴など、ちょっとした交流ができれば良いのです。
 そして、そのような交流を繰り返すうちに、お互いに楽しい時間を共有できる関係性ができていけば、他者の変化に気付いて早めの対応ができますし、悩んでいる本人から相談を持ちかけてくることもあるでしょう。その時にゆっくりと話を聴いてやれば良いのです。
 ただ、声かけを間違えると、せっかくの努力が台無しになってしまいます。以下、具体例を挙げます。
@私的な話題の場合(同僚どうしの会話)
A:昨日、帰りに彼女にあったら、いきなり怒られてさぁ。内緒で合コンに行ったのがバレちゃってて。怒ると本当に怖いから、機嫌を直してもらうのに大変だったよ。
B:それは大変でしたねぇ。いきなり怒られるのはキツいですよね。
 私的な話の場合、聞き手は共感しつつも、興味本位に根掘り葉掘り聞いたりしないことが大事です。また、話し手も、相手の興味を引きたいがために無理にプライベートな内容を話したりせず、お互いに負担を感じない範囲で話すようにします。
A世間話の場合(同僚どうしの会話)
A:社会保険庁って、次から次へと何やってんだろうね。それでいて変な労働組合があるから仕事はろくにしてないし。こんな連中の給与に自分たちの税金が投入されていると思ったら腹が立つよ。
B:そうだね。あの労働組合の覚書は確かに問題だよね。でも、社会保険事務所で仕事をしている人たちは来所者に対して親切丁寧に接してて、一生懸命やっているみたいだよ。
 このような場合、親密になっていても、相手の話を聞く場合に、自分の意見と違っていてもいきなり否定せず、まず受け止めましょう。その上で、自分の気持ちを伝えましょう。
B疲労困憊から後ろ向きの発言が増えている部下を見た上司の声掛け(A:悪い例、B:良い例)
A:何でも後ろ向きに考えるからそうなってしまうんじゃないのか?早く病院にでも行ったらどうだ。
B:ここのところ無理が続いたんじゃないのか?辛そうに見えるけど大丈夫か?もし良かったら、いつでも話を聴くよ。
 早めに声を掛けるのは良いことですが、Aのように自分の考えを押し付けるような言い方では逆効果です。Bのように「必要な時にはいつでも話を聴く」という姿勢で声掛けを行いましょう。

■コミュニケーションの苦手な人への対応■
 最近はコミュニケーションをとること自体を苦痛に思う人もいます。そのような人と無理やりコミュニケーションをとろうとすると逆効果ですので、以下の点に注意する必要があります。
@本人が望むお互いの距離感を重んじる。
A本人のペースや考え方を尊重する。
B本人が話しかけてきた時はきちんと話を聴き、受け止 める。
C言語に表れない部分の変化にも注意を払う。
D内面や感情に触れる会話より、客観的な状況や事実に 関する会話にする。質問する際は「はい・いいえ」で 答えられるようにして、本人の負担を軽くする。
 これらの点を押さえて、コミュニケーションが生まれる環境づくり、あるいは本人がこれ以上コミュニケーションを苦痛に感じないように配慮した関わりをしていくことが大事です。

 コミュニケーションをとるということは、日常生活の中で自然になされることなので、今回述べたことも「この程度のことなのか?」と思われたかもしれません。しかし、簡単なようで案外難しくもあり、奥が深いとも言えます。
 今までの職場でのコミュニケーションの取り方を振り返り、早速、明日からでも実践していただければ幸いです。



PART4:「カウンセリング体験記 1」

 part1(第50号)でカウンセリングについて述べましたが、先日、実際にカウセリングを体験してきました。
まずは当日のやりとりをお届けいたします。ご覧下さい
(※実際は45分です。C=カウンセラー、O=私です)


C/どうされました?何かお悩みですか?
O/微妙な遅刻をしてしまうのです。今、何かに支障をきたしているというほどでもないのですが、このような状態が長く続いているので、立て直しておかないと、そのうちお客様にご迷惑をお掛けすることになるのではないかと思って来ました。
C/いいタイミングでいらっしゃいましたね。毎日何時ごろに寝て、何時ごろに起きているのですか?
O/午前2時に寝て午前8時に起きています。
C/睡眠時間は取れていますが、時間帯がちょっと遅い気がしますね。差し障りなければ起床から就寝までの標準的な生活パターンをお話し下さいませんか。
O/(前略)始業は10時なので、8時起床で間に合わない訳ではないのですが、ちょっとの隙間時間にあれこれしようとしてしまって、結局5〜15分位遅れてしまうのです。(中略)
 深夜にニュース番組を見ていて気になったことをインターネットで調べてしまうことが原因ではないかと思っています。そこから次々に他の事を調べてしまい、午前2時前になって、あわてて寝ます。
C/ついつい遅くまでインターネットをしてしまうのですね。早朝に目が覚めたりしますか?
O/5時頃に目が覚めることがたまにあります。
C/まず、寝る前のインターネットは控えた方がいいと思いますね。頭を使う作業をしていると、体は疲れているのに寝付けなくなり、疲労の蓄積につながりますから。
 早朝に目が覚めることを「早朝覚醒」と言います。これは「目覚ましをかけて起きる(自分の意思で起きる)」ということとは根本的に違っていて、どうしても早朝(4〜5時位)に目覚めてしまい、その後は浅い眠りになってしまうことを言います。早朝覚醒を起こすことで睡眠不足になり、疲れが取れなくなり、うつ病の原因になることもあります。
 日中に眠くなることはありますか?
O/あります。でも、昼食後に眠くなるとかその程度ですね。そういえば、電車での移動中に眠ってしまうことが多いですね。本当はその時間も本を読んだり、次の仕事のことを考えたりしたいのですが。
 時間がもったいない・惜しいって思っています。
C/時間をムダにすることがもったいないと思うのですか?
O/はい。時間があったら何かしなきゃ(何かやろう)
と思うのです。
C/そう思うのは、小さい頃のご両親の躾が影響していることが多いのですが、覚えはありますか?
O/いいえ。
C/あとは、他人が失敗しているのを見て「自分はこうなりたくない」という気持ちから思うこともあるようですが…。
O/そう言えば、夏休みの宿題を忘れてひどく怒られているクラスメートを見て、「自分はこうならないようにしよう」と思い、それが心に残っていますね。
C/そういう経験があったのですね。
 「時間をムダにすることがもったいないと思う」ことについてはどう思いますか?
O/う〜ん、なるべくなら、そう思わないようになりたい(ゆったり構えていたい)ですね。とは言っても、現実は少しの時間で出来ることをしておかないと、後でバタバタしてしまうから、やらなきゃダメだという気持ちが大きいのです。
C/そうですか。本当はゆったり構えていたいけれど、
それが原因で何かをし残してしまうことが許せないというのが、今のお気持ちでしょうか。
O/はい、そうなんです。
C/今は「自分への許可」が難しいのかもしれませんね。
 では、今日はここまでにさせていただきます。
 早速今日から、「12時までには寝る」「寝る前にはインターネットをしない」「体が疲れている時はすぐに寝る」ことを実践して下さい。(後略)

■自分の内面への気付きに■
 どうお感じになったでしょうか。
 私の主訴は「微妙な遅刻を何とかしたい」ということだったのですが、カウンセラーとの対話の中で、「時間がもったいないと思う」→「本当はそんなことは思わないでゆったり構えていたいが、今はできない」→「何かをやり残してしまうことを許せない自分がいる」という、遅刻するという行動にまつわる私の気持ちの面も、カウンセラーは掘り起こしています。私はそれによって「自分への許可が難しい」という自分の内面に気が付きまし このように、行動面と気持ちの面の両方からアプローチをしていき、解決へ向かっていくのです。

■カウンセリングの受け方■
 大きな悩みにも効果的ですが、モヤモヤ感がする時点で行くと、なお効果的だと思います。
 ただ、カウンセリングにおいては、相談者が自ら考え行動するというプロセスが必要ですので、ひどいうつ状態等により自分で考えること自体が苦痛になっている場合は、あまり向かないかも知れません。
 最後に、相談者もカウンセラーも人間ですから、互いに合う・合わないは当然あります。自分がこのカウンセラーとは合わないと思ったら、カウンセラーを変える勇気が必要です。



PART5:「カウンセリング体験記 2」

 前回の記事を読んで下さった方から「もう1回カウンセリングを受けた方が良いのではないか?」というご意見を賜りました。ありがたいご忠告ではありますが、前回及び今回の記事の目的は、私がカウンセリングを受けた記録を提供することで、カウンセリングというものを感じて(≠考えて)頂くことです。
 今回の記録も、記録に書かれている事実の把握より、カウンセリングはこのように展開されているということを感じて頂ければ幸いです。
(※実際は40分間です。C=カウンセラー、O=私)


C/その後、いかがですか?
O/インターネットで夜更かしすることはなくなったのですが、仕事が忙しくなったため、結果的に夜更かしになっています。
C/それは、自分で決めてやっていること?
O/はい。処理時間が予測できる仕事はしないのですが、時間を予測できない仕事に全く手をつけずにいて、後になってバタバタするのは嫌なので。
C/自分で決めてやっているのであれば、悪いことではありませんよ。
O/とは言っても、結果として遅刻してしまうので、それは悪いと思うのです。
C/どういう意味で悪いと思っているのですか?
O/月曜日には全員での掃除とミーティングがあるのですが、日曜日の夜に次の週のことがどうしても気になり、仕事を始めてしまうのです。その結果遅刻してしまい、申し訳なく思っているのです。さらに、来年から青年会議所の理事を引き受けてしまって…。
C/引き受けて“しまった”?
O/はい。今でも時間に余裕が無いのに…。青年会議所の活動は時間をかなり割かなければならないので仕事との両立が上手くいくのか不安なのです。
C/不安に思うのですか。今、あなたの気持ちの中で不安の気持ちは100を最高とするといくつ?
O/60位ですね。
C/「よし、やってやるぞ!」という気持ちは?
O/90位ですね。
C/ということは、不安と言いながらも、覚悟は決まっているのだと思いますよ。
O/そうですかね。自分では不安が先に立ってしまうので、これで良いのだろうかと思っているのです。そう言われるのは意外ですけど…。
C/あなたの中で、「よし、やってやるぞ!」という気持ちになっているのが、数字だけではなく、話しぶりからも伝わってきますよ。やはり遅刻のことは気になりますか?
O/気になります。自分が甘えていると感じるし、何よりも周りに対して申し訳ないし、示しがつかないと思っているのです。
C/お聞きした状況だと疲れるし、眠いのは当たり前で、眠いと感じるのは健康な証拠ですよ。遅刻するのは仕方ないけど「申し訳ない」という気持ちを自分の口から伝えるのを忘れてはいけません。
  遅刻はするけど、仕事も青年会議所もしっかり役割を果たすことで、周りに納得してもらえるようにやって行けば良いのです。あなたなら出来ますよ。(後略)

■カウンセリングの効果とは?>■
 私は今の段階では、カウンセリングの効果を、「受け止めてもらえたこと」だと認<カウンセラーの評価と今後の私への励まし>
 私は前回のカウンセリングで「このカウンセラーには何を話しても良いのだ」という信頼を持ちました。
 カウンセラーは、前回も今回も“聴くこと”を大事にしていることに変わりはありませんが、信頼関係が出来ていると判断したため、私の行動に対する評価と今後の私の行動への励ましを述べています。
 一見カウンセラーが評価しているように思えますが、(記録からは伝わりにくいのですが)私の言葉を使ったり、私の言葉を、真意を外さないように上手く言い換えたりすることで、実は私自身の下している評価だったということに気付かせてくれたのです。
 今回で行動面については、ひとまず決着がついた形になりました。ただ、前回の最後に出た「自分への許可が難しい」という自分の気持ちの面にまで話が展開できなかったため、次回は性格診断を行い、気持ちの面を掘り下げていくことになりました。識しています。
 ただ、何をもってカウセリングの効果があった(なかった)とするかは、一概に判断しにくいものです。その上、効果をカウンセラー、クライエント、第三者(上司・同僚など)のうち、誰の立場で判断すればよいのかという問題があります。それぞれの価値観や期待、理解度が異なるために、一致しないことがよくあるのです。カウンセラー、クライエント、第三者の判断が一致するときに、効果が客観的に表れていると言えるでしょう。
 また、効果の判断には時間の観点も必要です。カウンセリングは必ずしも即効性を持つものではなく、後になって効いてくることも少なくありません。実際に私の場合も、他人に見える効果はこれから表れると思われます。
 早急に結果を求めず、可能な限り、クライエント自身の効果の認識や実感を大事にしたいものです。



PART6:「やらされ感」について

 最近、仕事を「やらされている」という気持ちになっていませんか?
 ここ最近の人減らしで自分の業務量は増えたが、収入が増えない、おまけに目標を達成できなければ収入減もありうる…。これでは、仕事=ノルマになってしまい、「やらされている」と思うのも無理はありません。
 このような気持ちで仕事に取り組んでいると、「自分を動かすためのエネルギー」というものが余分に必要になるため、疲れやすくなります。
 今回は、どうすれば「やらされ感」を少なくできるかについてA君の例に添って述べたいと思います。

 食品卸売業の会社に勤めているA君(営業職)は、10月に入り、下半期の目標設定について上司と話し合いを持ちました。
 A君の会社では、成果主義の導入により、仕事の成果が厳しく問われるようになりました。そのため、上司と話し合い、自主性を尊重した細かい目標設定がなされるようになったのです。
 しかし、実際は上司の上司から言われた数字をそのまま割り当てられるだけで、話し合いはあってもなくても大して変わらないという状態でした。
 おまけに達成できなければ、即、給料や賞与に反映されるという不安から、A君の気持ちはすっかり重くなってしまいました。

1.気持ちは言葉から
 A君は現状の給料を維持するには、「目標を達成しなければならない」という気持ちになっているようです。
 この「しなければならない」という気持ちが曲者で、「やらされ感」につながってくるのです。
 まずは心の中で「目標を達成‘する’」と言ってみましょう。不思議なもので、言っているうちに気持ちも変わってくるものです。

2.プラスの結果を思い描く
 プラスの結果を思い描いて行動すると、自然に積極的になるものです。さらにはそれが好結果につながりやすくなります。
 A君は「目標を達成できなければ収入減だ」という考えが頭をよぎったのでしょうが、ここは「目標を達成すれば収入増だ」と考えるようにしたいものです。
 とはいえ、必ず好結果につながるとは限りません。そういうときには自分の行動を振り返って、良かった点と良くなかった点を洗い出し、次に活かせばよいのです。

3.将来へつながる目標を持つ
 目標とは「営業成績トップ」「早く昇進する」など、会社内のことに限るものではありません。「独立や住宅取得のために貯金する」ということでも構いません。
 A君の目標は半年後に達成するものですが、将来の目標を持つことで、半年後で終わりではなく、次があり、またその次があると考えるようになると思われます。
 それだけでも自分を奮い立たせることができるようになるのではないでしょうか。

4.自分の働く原点を考える
 A君は目標を達成できなかった時のこと(給料・賞与)を案じる余り、今までに仕事から得たもの(金銭面以外の報酬)が吹き飛んでしまっているように思います。
 そこで、今までの職業生活で、どういうときに自分が充実感を持ったり、やりがいを感じたり、喜びを感じたかを呼び起こし、「自分は何のために仕事をしているのか」を再発見してみましょう。

 以上、方法を述べましたが、これらのプロセスを経て、「他人に言われて行動する」から、「自ら主体的に行動する」へ変わってきます(個人差はありますが)。
 心の構え方を「守り」から「攻め」に転じて、自ら考えて動く人になることが、心の健康にも一役買うことになるのではないかと思うのです。

 一方で、マイナスイメージを抱く「やらされ感」を、このように受け止めている人もいます。

  私は今年で入社8年になります。若い頃は先輩や上司の指示で仕事をしていて、とても自分の意見を言えるような雰囲気ではなく、聴いてもらえる場もなかったので、『やらされ感』があって面白くありませんでした。
 また、上司や先輩を見て、『何が楽しくてこんなに熱心に仕事をしているのだろう?』と思っていました。
 しかし、自分が一つの仕事を任され、責任を持つようになると面白くなってきて、若い頃に『やらされ感』を持ってやっていた仕事が、実は自分を成長させてくれていたことに気付き、その時の先輩や上司の気持ちが分かるようになりました。
 今では当時の先輩や上司以上に頑張っているのではないかと思います。
 
「やらされ感」も時と場合によっては必要なことがあるということを、認識していただければ幸いです。



PART7:「時間に追われていませんか?」

 日々、仕事をしている中で、「いつも時間に追われて
いるような気がする」「いくら時間があっても足りない」と感じることがありませんか?
 とりわけ管理職になり、責任のある仕事や部下の管理を任されるようになり、いっそう感じるようになったという方も多いのではないでしょうか。

【自分の仕事を振り返ってみよう】

 今回は、以下の方法で自分の仕事時間について振り返ってみましょう。特に管理職の方にお勧めです。 
 では、次の作業を行ってみて下さい。

1.最近1ヶ月間にした業務を表に書き出します。できるだけ細かく振り返りながら記入します。
NO. 実施した業務
(中略)
40
※40まで記入する必要はありませんが、思いつくものを全て記入して下さい。

2.次に、書き出した業務を以下の4つのゾーンに分けます。(1の表の番号を下表に転記します。)
緊急 さほど緊急でない
重要 @ゾーン Aゾーン
重要でない Bゾーン Cゾーン

 例えば、クレーム処理のような緊急で重要な仕事は@へ、書類作成業務のように、緊急だがさほど重要ではない業務はBゾーンという要領です。

3.全部の振り分けが終わったら、どのゾーンにどれくらいの割合で時間を使用しているかを記入します。
 例えば、@ゾーンに60%、Bゾーンに40%といった要領です。

【仕事のバランスを分析してみる】

 @からCのゾーンについて説明します。
 @のゾーンは「緊急」かつ「重要」な業務です。例えば、明日使用する企画書や資料の作成、顧客との打ち合わせといった業務です。
 この割合が大きい状態が続くと、余裕がなくなってしまい、ストレスがたまりやすくなります。そして、ストレスが限界を超えると、Cのゾーンに逃げて身を守ろうとします。
 Bのゾーンは「緊急」だが「重要」ではない業務です。例えば、電話やメールへの対応や資料のコピーのような業務です。つまり、自分の主体的な仕事というよりは、他人からの発信への対応や、自分でなくても出来る仕事です。
 この割合が大きいということは、他人に振り回されていることが多いと言えるでしょう。
 Cのゾーンは「緊急」でもなければ「重要」でもない業務です。例えば、不要書類の廃棄や資料整理といった業務です。単調な仕事で、主体性が不要な仕事といったところでしょうか。
 この割合が大きい状態が続くと、他人に依存した仕事をするようになってしまう恐れがあります。
 最後にAのゾーン。「緊急」ではないが、「重要」な業務です。例えば企画や計画の立案や研修などです。「準備・計画」「将来への投資」と言えるでしょう。
 この割合が大きい=先手を打って行動が出来ているということです。ということは、継続的な業績を上げられる可能性があると言えるでしょう。

【「あらかじめ時間」で仕事にゆとりを】

 さて、作業の結果、@〜Cのバランスはどうなりましたか?
 良い悪いということではなく、自分の仕事のバランスを知り、Aに時間を配分できるように改善するよう意識することが必要だと思われます。
 そのためには、時間のやりくりが不可欠です。
 しかし、人は弱いもので、重要な仕事とは分かっていても、目の前の仕事に気を取られ、後回しにしてしまうものです。
 そこで出てくるのが、「あらかじめ時間」です。
 具体的には「毎週月曜日の始業から30分は週の計画を立てる」「毎週○曜日の13時以降に、最低1人の部下と面談をする」というふうに、本当にやりたいこと、やれば飛躍できるようなことを「あらかじめ」スケジュールに組み込んでおき、先手を打って実行して行くのです。
 このように時間を上手くやりくりしていくと、仕事全体にゆとりが生まれ、それが心のゆとりにつながるのではないでしょうか。
 ゆとりまでには至らなくても、時間に追われているという気持ちが薄くなるだけで、精神的にはかなり楽になるように思います。
 
 ストレスを少なくする方法の一つとして「あらかじめ時間」をお役立ていただければ幸いです。
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PART8:「境界性人格障害」について

 社会経済生産性本部のアンケート調査によると、この3年間に61.5%の企業で、「心の病」が増加していると回答しています。
 この調査は02年・04年・06年と実施されましたが、02年では「心の病」が増加しているのかどうか分からないと回答した企業が20.9%だったのが、06年では7.3%まで減っており、これまでメンタルヘルスの問題をあまり認識していなかった企業が、ここ数年間で自社の現状を認識したケースが多いと考えられます。
 さらに「心の病」の最も多い年齢層については61%の企業が30代と回答していました。これは02年の調査では41.8%であったこと、40代・50代以上は減っていて、20代はあまり変わっていないところを見ると、30代に集中してきていると言えます。

 さて、「心の病」と言えばうつ病を思い浮かべることが多く、うつ病の社員への対策はいろいろ講じられるようになってきました。
 ただ最近、「うつ病」だと思って一般的に言われる対応で接していたら、かえってこじれてしまったという話を耳にしました。
 その話を聞いていて、確かにうつ状態ではあるのですが、もしかしてうつ状態よりも「境界性人格障害」の方が問題で、それに焦点を当てた対応をすべきだったのではないだろうかと思いました。
 そこで、今回は「境界性人格障害」について述べたいと思います。

【「境界性人格障害」とは?】
 境界性人格障害とは言っても、もともと持っている性格上の癖のようなもので、普段は非常に高い適応能力を発揮している場合が多いので、日常生活を普通に送っている分には、なかなか分かりません。
 しかし、何かトラブルが起こったり、挫折をした時に、性格上の癖が出て問題を起こしてしまうのです。その性格上の癖には3つのポイントがあります。

@対人関係への強い不安
 寂しさに耐えられず、常に人とのつながりを求めます。その裏側には「いつか自分は他人に見捨てられてしまうのではないか」という恐怖に近い不安があり、相手をつなぎとめるために必死なのです。
 自分を受け入れてくれる(と思っている)相手を極端に理想化する傾向がありますが、期待するような形で自分を分かってもらえないと察すると、手のひらを返したように相手を貶めます。

A激しい感情表現
 イライラしていたり、不安な気持ちになっているのが、誰が見ても分かるような状態だったと思えば、ちょっとしたきっかけで気持ちが落ち着き、朗らかにしていたりします。

B衝動的な行動
 境界性人格障害の人は行動も不安定なことがあります。リストカットなどの自傷行為や、摂食障害、アルコールや薬物依存、自殺未遂を起こしたりすることもあります。
 自傷行為や自殺未遂はうつ病の人にも見られますが、これらの行為は、うつ病よりも境界性人格障害が問題になっていることの方が多いのです。

【望まれる対応とは?】
 境界性人格障害の人にうまく対応する方法はただ一つ、振り回されないことです。
 ただし、振り回されないために突き放したり、関わりを断ち切るというのは、ちょっと違います。
 まずは、本人と適切な距離をとることを心掛けることが肝心です。「つかず離れず、少し近め」といったところでしょうか。
 その上で、場合によっては、「私の対応はあなたにとって厳しいですか?」「今は、あなたを援助しようと思ってこう言ったけれど、どう感じましたか?」などと直接本人に尋ねてみることも有効なようです。
 ただし、「どうして」「なぜ」を多用すると、本人は責められているように感じるので、慎重に言葉を選ばなければなりません。また、怒りや失望の感情を不用意に表現するのも良くありません。
 以上の対応を一貫して取り続けることが大事です。
 本人を通院させたい場合は、性格面を指摘するのは避け、不眠や不安など、症状として自分で自覚でき、病院で診てもらってもいいと思いそうな点を指摘することが重要です。
 なお、職場など常に本人と接していなければならない状況にある場合、同僚・上司などが精神科などに出向き、適切な対応の仕方などのアドバイスを受けることをお勧めします。
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PART9:「欲求不満について」

【生きがいを求める心にある7つの欲求】
 神谷美恵子氏の「生きがいについて」(みすず書房刊)に「人が生きがいを求める心の7つの欲求」が述べられていて、人が生きがいを感じるのは以下の7つの欲求を満たしている時だと指摘しています。

@生存実存感への欲求
 審美的観照(自然、芸術など)、あそび、スポーツ、趣味的活動、日常生活のささやかな喜びなど、自分の生体験が満たされているという感覚への欲求です。

A変化と成長への欲求
 生活に変化が乏しくなり退屈を感じると、学問、旅行、登山、冒険など変化をもたらすものを求めるようになります。逆に心が病むと退屈を感じなくなります。

B未来性への欲求
 種々の生活目標、夢、野心など、これからの生活への前向きな展望があるからこそ、生きがいを感じられるのです。

C反響への欲求
 ここでいう反響とは、共感・友情・愛の交流や、優越または支配によって他人から尊敬や名誉や服従をうけること、または服従と奉仕によって他人から必要とされることを言います。
 私たちは、日々他人とのかかわりの中で生きているため、自己の生存に対する反響を求めることは、潜在的な欲求であると言えるでしょう。

D自由への欲求

 主体的・自立的に自由に動き回れる状況は、生きがいを感じるには不可欠です。

E自己実現への欲求
 自己の内部に潜んでいる可能性を発揮して、自己を伸ばそうとする欲求です。生きがいを求める心には、この欲求が大きな部分を占めています。

F意味と価値への欲求
 自分の存在に意味や価値を感じたいという欲求です。

【職場における欲求不満とは?】
 職場においても、前記の7つの欲求が満たされていれば、仕事に生きがいを感じられるのでしょうが、残念ながら、全ての欲求を満たすことは不可能です。
 人は自分の欲求を満たすために行動を起こします。しかし、何らかの原因でその欲求が満たされないと、不愉快な気分になったり、不安や緊張を感じます。
 職場に置き換えてみると、仕事の目標がかなえられると思えば、その欲求を満たすために具体的な目標を持って努力しますが、目標達成がかなわないことが分かると、意欲が目に見えて下がったという体験がある人もいるのではないでしょうか。
 この「意欲が目に見えて下がった」状態のことを欲求不満の状態と言います。
 職場で欲求不満状態の行動・言動には、主に以下のようなものがあります。
・自分自身を責めず、原因に付随した事柄をいろいろ 言う。
・他人に責任を転嫁する。
・負け惜しみを言う。
・困難さを誇張することで、あらかじめ言い訳をして 実際には何もしない。
・当初の目標に変えて、それに変わる実現可能な目標 と置き換える。
・趣味・芸術・スポーツなど、自分の興味のある活動 に没頭する。

【欲求不満状態の部下に対する上司の対応】
 欲求不満状態においては、様々な行動や言動が見られますが、それらの行動や言動が全てマイナスとは限りません。前向きな欲求不満から表れることもありますので、それは問題意識の表れとして取り上げなければなりません。
 その上で、以下の方法を組み合わせて使用すると良いでしょう。

T 欲求不満そのものに対するアプローチ
・部下の話に耳を傾けて、よく聴いてやる。(話をき ちんと聴いてやるだけで解消されることもある。)
・欲求不満の原因となっている障害が、取り除けるも のであれば取り除いてやる。
・部下の知らない情報を提供することで、欲求不満の 原因についての見方が変わるように働きかける。
・欲求不満の状態に耐え、前向きに努力する自覚を持 つように励ます。

U 欲求不満状態に耐える力を養うためのアプローチ
・周囲の人が迷惑を被った時には、本人に社会的圧力 を加える意味で、わざと放置する。
・使命を理解させ、あえて苦しい仕事を割り当てる。
・欲求不満行動を取った結果について、本人の自省を 促す働きかけをする。
・上司自身の欲求不満行動にまつわる成功・失敗体験 を、機会を見て話す。
・上司自身が耐える努力をし、手本を示す。

 最後に、これらの方法が功を奏すためにも、日々のコミュニケーションを大事にして、部下との信頼関係をしっかり築き上げて下さい。
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PART10:「メンタルヘルスの予防・発見・対応について@」

 この連載の中で、職場内、とりわけ部署・グループ内での声掛けとうつの予防について述べましたが、今回は全社的なメンタルヘルスの予防・発見・対処策について、2回に分けて述べたいと思います。
 ただ、一般的なことが中心になってしまうことは否めません。お読みいただきながら「自分の会社ではどうだろう?」と振り返り、今後の参考にして頂ければ幸いです。

【メンタルヘルス悪化の予防】
 メンタルヘルス悪化の予防は、早い話が「働きやすい職場を目指す」ことです。
 そのためには、以下のポイントがあります。
  1.労働時間管理の徹底
  2.余裕のもてる時間や空間の確保
  3.雇用契約や評価制度の柔軟な対応
  4.本人の適性や希望に添った人材配置
  5.納得感が持てる評価制度の導入
  6.キャリア開発の援助
  7.ハラスメント防止策の徹底
  8.専門機関の有効活用
 「過重労働」はメンタルヘルス悪化の原因として浸透していますが、最近「(社内での)ミスマッチ」が挙げられるようになりました。
 ミスマッチとは、本人のキャリアビジョンや適性に合わない職場に配置されることで、その結果、心身症状を発症してしまうことが増えてきています。
 予防するためには、上記3〜6が重要になってきます。これらはメンタルヘルスだけではなく、「ワークライフバランス」の面からも非常に重要です。
 また、作業環境はメンタルヘルスに大きく作用します。勤務時間中、継続的にストレスを受けるような職場(作業環境)においては、こまめに休憩時間を設け、ストレスから解放される状態を積極的に作ることが大事です。

【メンタルヘルス悪化の発見】
 予防が十分にできていても、メンタルヘルスを悪化させてしまう社員が出てくることがあります。
 その場合は、とにかく早期発見・早期対応をするしか策はありません。ここでは悪化を発見するポイントを挙げます。

@組織面から
  1.過重労働が続いていないか
  2.作業環境が劣悪でないか
  3.責任や仕事の範囲は明瞭か
  4.評価制度は機能しているか
  5.ハラスメントが発生していないか
  6.組織や担当業務の大きな変更はないか
  7.クレーム対応が集中していないか
 最近は企業合併や組織再編等で、風土ややり方の異なる企業(部署)の社員同士が机を並べて仕事をするということも少なくありません。
 そのような場合、合併(再編)後半年〜1年位の落ち着いた頃に、メンタルヘルスの悪化を訴える社員が現れることがあります。
 また、感情労働(医療・福祉職や苦情受付窓口など)をしている人は、自分の感情を抑えることが多いため、心のひずみが生まれやすく、そこに労働条件のハードさが加わって、メンタルヘルスの悪化が起こりやすくなります。

A個人面から
  1.人生の転機が重なっていないか
  2.家族関係で大きな問題を抱えていないか
  3.大事な人や物を失った直後ではないか
  4.身体の病気を抱えていないか
  5.孤立していないか
  6.仕事を抱えすぎていないか
 家を新築するということは良いことである反面、それまで住み慣れた環境を失うということでもあります。さらに、新築を機に両親と同居することになったため、嫁姑問題に頭を悩ませるようになり、メンタルヘルスが悪化し、仕事に支障が出てきたという話を聞いたことがあります。
 また、ある社員が持病に悩んでいるところに、上司から持病について暴言を吐かれたことで完全に参ってしまい、うつ状態になってしまった例もあります。
 「会社は仕事をする場所だから、社員個人の事情をいちいち聴いていられない。」と考える人も多く、それはその通りだと思います。
 しかし、会社が社員個人が抱える問題に目をそむけた結果、社員が自分の問題(悩み)にとらわれてしまい、仕事に対する意欲が薄れ、最悪の場合退職していくという状況に陥ってしまうのは、長期的に見て得策とは言えません。
 そのためには、社員個人の問題を可能な限り把握しておき、適宜相談に応じ、場合によっては専門機関を利用することが必要です。
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PART11:「メンタルヘルスの予防・発見・対応についてA」

【メンタルヘルス悪化のサイン】
 悪化を発見するには、前回で述べたポイントの他に、本人が発するサインを見逃さないことも重要です。ここではその代表的なものを挙げます。

Bメンタルヘルス悪化のサイン
  1.急に遅刻や欠勤が増えた
  2.顔色が悪く、表情が硬く乏しくなった
  3.急に痩せた(太った)
  4.精神的に不安定になった
  5.物忘れや居眠り、仕事のミスが増えた
  6.身なり・服装に構わなくなった
  7.業務上・業務外にかかわらず、事故やケンカ、怪我などが続くようになった
 以上のポイントは、普段接している人であれば「そういえば○○さん、最近…」と思い当たる節があるのではないかと思います。
 思い当たるということは、サインをキャッチできているということです。心配なことがあれば専門家に相談する等、早目の対応をしましょう。

【メンタルヘルス悪化者への対応】
 せっかくサインに気がついても、対応方法を誤ってしまうと意味がありません。個々に状況は違っているので対応のマニュアルはありませんが、原則はあります。以下、対応の原則を挙げます。
  1.“傾聴”が大事
  2.“一般論”や“正解”を求めない
  3.「私−社員・部下・同僚」ではなく「私−A君」で考える。
  4.臨床的判断や対応は専門家に任せ、労務管理の視点・枠組みに徹底し、対応する。
 サインに気付いたら、まず声を掛けて本人の話を聴くことから始まります。
 まず、声を掛けた時に何かを言いたげだったが、うまく言えないような場合や、負担感を感じているようであれば、その場では無理強いをせず、話を聴く気持ちがあることを示すにとどめます。本人の気持ちや間を大事にして下さい。
 本人が何か話したいようであれば話を聴きますが、一般的には傾聴という方法を用います。
 傾聴とは技術的な問題よりも、心構え(話し手を無条件で受け入れ、尊重する)の問題のほうが大きいものです。心構えが出来ていると、本人はより多くのことを話せるようになり、話している間に本人なりに悩みや不安の整理をして、答えを見つけていくのです。
 よって聴く側の心構えとして、説得するような態度で臨んだり、不用意に自分(=聴き手)の意見や気持ちを伝えようとしたり、相手を否定したり、評価したりするようなことをしてはいけません。
 一見相手のことを思っているようでも、自分の価値観の押し付けになってしまっていることが多いからです。そのような姿勢が見えると、本人は心を閉ざしてしまいます。
 2.の一般論や正解を求めることは、かえって本人の不安を強くしたり、落胆させてしまう結果になりかねません。
 最も気をつけなければならないことは、巻き込まれることです。本人の話をじっくり丁寧に聴くあまり、あたかも本人と同じ体験をしたかのような錯覚を起こし、聴いているうちに自分のメンタルヘルスが悪化してしまい、本人も自分も共倒れになることが見られます。これでは元も子もありません。
 本人の話を聴くにあたっては、本人の領域と自分の領域を区別し、本人の領域には踏み込まず、自分の領域でできることをするという立場に徹しましょう。
 また、責任感から、無理を重ねてストレスをためてしまい、共倒れになることもあります。
 自分のできる範囲(対応できる時間・具体的な対応策)はどこまでかを認識し、その中で対応を行い、その範囲を超えるような場合は、本人の同意を得て、適任者に任せていくことも必要です。

【採用時に見抜くポイント】
 最後に、「メンタルヘルスに問題がないかどうか、採用時に何とか見抜けないだろうか?」と最近よく訊かれるようになりました。
 不可能ではありますが、見抜くポイントを強いて挙げるとすれば、以下の3点だと思います。
  1.採用担当者が違和感を覚える人(社内の人間関係への影響や社風を考慮すること)
  2.作業テストをさせてみて、作業能力が学歴や所有資格、職歴と比して著しく劣っている場合(すでにメンタルヘルスが悪化していて、治療中の可能性がある)
  3.優秀でストレス耐性の高い人(パワーハラスメントの加害者になる恐れがある)
 3.については意外なような気がしますが、ストレス耐性が高いため、昇進して部下が出来ると、部下をストレスの高い状況に追い込む可能性があるという意味です。採用時よりも昇進後の行動に焦点を当てることが必要でしょう。
 これらはあくまで目安であり、絶対ではありません。
何とも歯切れの悪い物言いではありますが、それだけ人様の心は一筋縄にはいかないものだと受け取って頂ければ幸いです。
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PART12:「中小零細企業におけるメンタルヘルス対策@」

 少し前までは「メンタルヘルスの問題は大企業の話。中小零細企業は従業員とのコミュニケーションが取れているから心配ない。」と言われていました。
ところが現在、中小零細企業においてもメンタルヘルスの悪化が問題になってきました。
 中小零細企業が大企業と決定的に違う点は、メンタルヘルスが悪化した従業員を、企業内で配置転換するのが困難なことです。
 また、従業員の福利厚生にそれほど多くの費用をかけられないという問題もあるでしょう。
 今回から数回、中小零細企業におけるメンタルヘルス対策について考えてみたいと思います。

【T 労働時間管理から考える】
 今年4月から労働安全衛生法が改正され、全ての事業場において、月100時間超の残業をしていて、かつ、疲労の蓄積が認められる者については、医師による面接指導が義務づけられました。
 また、月80時間超の残業により疲労の蓄積が認められる、又は健康状態に不安を有する者についても、医師による面接指導が努力義務とされました。
 この法改正はメンタルヘルスに限ったことではありませんが、過重労働による健康状態、とりわけメンタルヘルスの悪化が看過できない状態になり、国として予防に本腰を入れ始めたことの現れと言えます。
 裏を返せば、一度健康状態が悪化すると、(特にメンタルヘルスに関しては)復調までに時間がかかり、それが労働力の損失になり、さらには経済的損失にまで及ぶと言えるでしょう。
 企業としても、過重労働は労使トラブルの元になり、不幸にして自殺者が出れば、社会的信頼を失ってしまいます。また、労災請求や損害賠償請求など、本来必要のない対応に時間を取られることになってしまいます。
 何より、せっかく育てた人材が活き活きと仕事ができず、能力を十分に発揮できなくなることが、一番の損失ではないかと思います。
 対策方法は、法令を遵守し、労働時間を正確に管理することに尽きます。例えば、以下の二つが挙げられます。
@個々の従業員の各日の始業・終業時刻を把握し、必要 に応じて実態調査を行い、実態を把握すること
A法定健康診断の実施等、労務管理上の安全配慮義務を 怠らないこと
 @は、みなし時間外手当を支払っている企業ではなおざりになっていることが多いと聞きますが、怠っていると安全配慮義務違反に問われます。
 実態調査に関しては、持ち帰り残業や所定勤務時間外に電話対応をしているなどの場合は要注意です。調査結果を踏まえ、業務分担の見直し等を積極的に行い、「従業員のことを大切にしている」という姿勢(行動)を示すことが大事です。
 法定健康診断についても、実施しないと安全配慮義務違反に問われます。
 メンタルヘルスについての項目は、法定健康診断には含まれていませんが、質問紙法のメンタルヘルスチェックもありますので、導入してみると良いでしょう。
(次号へ続く)
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PART13:「中小零細企業におけるメンタルヘルス対策A」

【U 管理者(上司)教育】

 中小零細企業においては「職場の中に全く話をしたことがない(顔を見たことがない)人がいる」ということは少ないと思われます。よってメンタルヘルス不調を抱えている従業員がいれば、周りの誰かが、何かしら気付いていることが多いようです。
 しかし、気付いているだけではダメで、適切な対応をすることが求められます。現実には、知識不足から不適切な対応をして、悪化させてしまうことも少なくありません。あるいは、メンタルヘルス不調を抱える従業員が自ら退職したため、問題を素通りしてしまったまま、現在に至っている企業もあるのではないでしょうか。

<継続的な研修で企業風土の改善を>
 メンタルヘルス不調を抱えている従業員には、正しい知識を持った上で対応することが肝要です。そのためには外部講師による研修などで正しい知識を得て、日頃からメンタルヘルスを意識することが必要です。
 ただ、実施にあたっては心理的な抵抗や戸惑いが見られ、一回きりではなかなか意識の定着には至りません。
 また、実際の対応では個々の従業員の意識や理解がストレートに表れやすいので、研修は継続的に行い、徐々に理解を深め、意識を定着させていくのが良いでしょう。
 特に最近は、度重なるハラスメントが原因でメンタルヘルス不調に陥るという例も増えています。ハラスメントは企業風土が大きく影響するため、企業風土の改善という意味でも、継続的な研修が効果的と思われます。
 ハラスメントは企業風土が大きく影響すると述べましたが、セクシャル・ハラスメントの場合、性別役割分業の徹底している企業に起こりやすいと言われています。
そのような企業においては「男性=戦力、女性=男性のサポート」と考えられがちです。
 また「男性は女性をリードして、女性は男性を立てて…」という教育が、かつては多くの家庭でなされていました。その結果、男女が対等に扱われることが難しくなり、セクシャル・ハラスメントが起こりやすくなります。
 これは従業員個人の考え方(認知)の問題にも及んでくるので、やはり継続的な研修が必要なのです。

<管理職への研修から始めよう>
 研修を行うに際しては、まずは管理職に対して行うことをお勧めいたします。
 中小零細企業においては、上司(管理職)が一人しかいない、上司は社長だけということも少なくありません。そのような場合、上司の対応一つで従業員のメンタルヘルスが悪化し、問題が深刻化・長期化することもあり、影響力は非常に大きいのです。
 研修内容には、メンタルヘルスの基礎知識や対応方法、話の聴き方や話し方など、様々ありますが、継続的に学習することが気付きを促し、まずは管理者自身のストレスの軽減につながります。
 さらに、実践していくことで、(上司の態度の変化が)部下にも良い影響を及ぼし、時間はかかりますが、企業風土の改善にもつながっていくでしょう。

(次号へ続く)
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PART14:「中小零細企業におけるメンタルヘルス対策B」

【V 欠勤・休職への対応】

 不幸にして、メンタルヘルスの不調による長期欠勤者や休職者が出てしまった場合の対応は、企業にとっても本人にとっても非常に重要です。
 まず、以下の事例から、気を付けるべきポイントを考えてみましょう。

 O社は給与計算・記帳代行請負会社です。月間・年間を通じて、業務の繁忙期がはっきりしています。従業員数は10人強で、20代〜30代の従業員が多い職場です。
 ある日、30代の男性従業員の様子がおかしいと同僚が気付きました。それまでは明るく真面目に仕事に取り組んでおり、同僚や後輩に指導をする姿もよく見られましたが、口数がだんだん少なくなり、表情も乏しくなり、服装もだんだん乱れていくのが、周りにもはっきりと分かるほどでした。
 心配した同僚が上司に相談しましたが、上司は「もうすぐ繁忙期にさしかかるから、今から休まれると困る。本当に辛ければ、本人から休みたいと申し出るだろうから、様子を見ていよう。」ということになりました。
繁忙期に入ると、案の定、彼が遅刻を繰り返すように
なり、午後出勤することも多くなりました。
 さすがに上司も見かねて、心療内科の受診を勧めました。彼も何かがおかしいとは感じていたけれど、どの診療科にかかれば良いか分からなかったので、上司の指示に従いました。受診の結果、うつ病により数ヶ月の休養が必要という診断がなされ、休職することになりました。
 上司としては、ゆっくり休養して復帰して欲しいという気持ちはありましたが、彼の担当業務を分かっている従業員が他にいなかったため、休職期間中もしばしば連絡を入れていました。
 そのため、彼は自宅療養中も電話に備えて待機している状態になり、その状態にストレスを感じてしまい、心身ともに休養することが出来ませんでした。
 当然回復も遅れ、ゆっくり休養すれば3ヶ月で回復するだろうと言われていたところが、半年もかかってしまいました。
 一方、彼の担当していた業務を何とかこなしてもらうためには周りの理解が必要だと思った上司は、彼の了解を得ずに、彼の病状を全員に伝えてしまいました。
 そのことを知ってしまった彼は大変困惑し、せっかく復職できそうなのに、退職を真剣に考えるようになりました。
 

 問題点に気が付いたでしょうか。この事例では、@休養が必要なことが分かっていながら、業務の問い合わせの連絡を会社から入れているため、本人が安心して療養に専念できない、A本人の了解を得ずに、病状等について他の従業員に伝えており、プライバシーへの配慮に欠けている。そのため復職に抵抗を感じている、B就業規則等に基づく会社の方針と、直属の上司の個人的な感情(繁忙期だから、休まれると困る)がごちゃ混ぜになっているため一貫した対応が取れず、その結果、病状が悪化・長期化してしまう、という問題点があります。
 このようなケースにおいてよく見られる問題点として、他には、C遅刻・欠勤を繰り返している場合に、その理由がわからないため、周囲が腫れ物に触るような状態になり、適切な対応が取れなくなる、D本人の同意を得てから医師に診せるなど、適切な対応がなされていないため症状が長引いてしまう、といったものがあります。
 対策としては、継続的な研修で正しい知識を身につけ、病状を理解し、本人の気持ちへの配慮、プライバシーへの配慮を怠らないようにしなければなりません。

<企業の方針や立場をハッキリさせる規程の整備を>
 一方で、いつまでも本人をフォローする体制を続けている余り、周りが参ってしまうことも少なくありません。そのためには就業規則に「休職制度」「復職後、欠勤を繰り返す者への対応」について規定しておき、企業として一貫した対応を取ることが重要です。
 具体的には、休職期間を具体的に定めます。そうすることで、会社としてフォローする期間が定まり、本人は療養に専念し、周りにも納得を得られやすいと思われます。さらに、休職期間中の処遇や休職期間の延長についても明確にしておく必要があるでしょう。
 また、メンタルヘルスの不調で休職した場合は、復職後に再発し欠勤を繰り返すことも少なくありません。そのような場合に、欠勤を休職期間として通算するのかどうかも、非常に重要なポイントです。
 多くの企業では、業務外傷病が休職期間を満了しても治っていなければ、一旦退職させるケースが多いのではないかと思います。その場合に、何も規定されていなければ、欠勤を繰り返されても対応できなくなってしまいます。
 手塩にかけて育てた従業員に対して、随分冷たいように思われますが、規程を整備することで企業としての方針や立場がハッキリします。それが従業員のためにもなるのです。
 万が一、労使トラブルに発展した場合でも、規程内容に合理性があり、規程に基づいた一貫した対応がなされていれば、企業の取り組みや従業員に対して行った配慮について、明確に主張することができます。リスク管理の面からも、就業規則を今一度、見直してみましょう
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PART15:「『躁病』について」

 職場でメンタルヘルス不調といえば、あまり例は多くないかもしれませんが、躁状態による不調もあります。今回はこれについて述べたいと思います。

【「躁病」とは?】
 躁状態では、以下の特徴が見られます。
@感情障害:上機嫌、爽快気分、楽天的になり、自我感 情の高揚に伴い、自己を過大評価する。好悪の感情を 露骨に表現し、他人に対し尊大・傲慢に接することも ある。
A思考障害:思考過程が促進され、観念が次々と湧き上 がる。その内容は楽天的・誇大的で、駄洒落が次々に 出てくる。自己を過大評価する余り、それが誇大妄想 に発展する。
B欲動障害:じっとしていられず、急き立てられるよう に動き回り、手当たり次第に何かしようとするが、完 遂できない。大声で絶え間なく喋りまくったり、睡眠 が極端に少ないにも関わらず、疲れを見せず精力的に 活動する。分不相応な高額商品を購入したり、見た目 が派手になったり、性的行為の逸脱も見られる。
C身体症状:入眠障害、早朝覚醒、熟眠障害などが見ら れる。頭痛、肩こり、関節痛、耳鳴り、頻尿、消化器 症状を訴えることもある。
 これらの症状は、特に軽度である場合は、(身体症状が現れていても)本人は活発であるため、好意的に見られることはあっても、病的状態だと思われることは少ないのではないでしょうか。
 だからといって放っておいて重症化すると、本人が社会的信頼を失い、人間関係を著しく損ね、うつ病よりも社会的予後が深刻とも言われます。早めに精神科医の治療を受けることが望ましいでしょう。

【躁状態の従業員へのアプローチ】
 職場に躁状態の従業員がいると、周りは戸惑いを感じることが少なくありません。
 周りの者の気持ちを傷つけるようなことを平気で言ったり、取引先から苦情が来ることもあります。
 上司が躁状態になってしまった場合、部下に無理な指示を出すことがしばしばあるのですが、部下は黙って現実的な対応をしなければなりません。
 さらに、そのような状態で契約した案件が、会社にとって利益をもたらさないこともあります。
 また、うつ状態とは違って行動的になるため、周りが目を配るにも限界があります。
 本人への対応は、原則として直属の上司が責任を持って行うことが必要です。本人との話し合いを行い、現状の確認を行い、本人および周りの者に不利益が生じていることに直面してもらうのです。
 この話し合いは長時間(1回あたり3時間程度必要とも言われる。)に及ぶ上、1回では結論が出ないこともあるので、根気強く行うことが必要です。

【面接時の注意事項】
 これはあらゆる面接場面に共通することですが、本人の自尊心を傷つけてはなりません。
 躁状態になったことで本人の自己評価が高くなっていることに対して、周りの者は批判的に対応しがちですが、本人は批判的対応に対して過剰な反応を示すことが多くあります。
 そして、躁状態になる度にその記憶がよみがえり、批判的対応をした人に対して攻撃的になりやすくなります。その感情は「根に持っている」と言われる位に持続します。
 また、躁状態において話される過去の話の一部は、かつて話されなかった個人の真実であるという点に注意が必要です。話しぶりが大袈裟だからといって、「妄想だろう」と切り捨ててしまうと、本当に解決しなければならない問題が背後にある場合に、それを見逃すことになってしまいます。
 本人は前向きで活動的であるようでも、裏には不安を持っていて、主張すればするほど不安が高じ、さらに(より強く)主張する傾向にあります。それを防ぐために周りの者は出来る範囲で本人の正しさを承認し、そのことにより、互いの消耗を予防する必要があります。

【復職について】
 最後に復職についてですが、躁状態は一般的には1〜3ヶ月で消失します。ただ、うつ状態の場合と同様に、本人の焦りに周りが同調し、早期の復職を望むことが少なくありません。
 そこで、従業員全体として、本人の復職を受け入れる準備が出来ているのかどうかを見極めなければなりません。従業員が本人の復職に不安を持っていることもあるため、復職までの間に何回か従業員と本人の交流の機会を持ち、従業員に「これなら大丈夫」という気持ちを持たせ、不安を解消することが必要です。
 そして、本人が復職に対しての不安を持てるようになった時が、躁状態が喪失し、復職して良い状態になった時期だと考えられます。ただし、不安が抑うつ症状に由来するものではないことが大前提です。
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PART16:「心理テスト(エゴグラム)について」

<エゴグラムとは?>
 人間の自我は大きく3つの部分に分かれます。3つとは以下の通りです。
・親(以下、P):幼いときに親から教えられた態度や 行動の部分
・大人(以下、A):事実に基づいて物事を判断する理 性の部分
・子供(以下、C):子供の頃の状態のような本能や感 情の部分
 この3つの部分の状態を知るために、数値化してグラフにして自我状態の働きを調べますが、その際に質問紙法の心理テストとして作成されたものがエゴグラムです。
 日本ではTEG(東大式エゴグラム)が広く普及していて、最近はインターネットでも詳細な情報が得られるため、体験された方もいらっしゃるかもしれません。

<エゴグラムの特徴>
 エゴグラムは正常・異常を判別するためのものではありません。ここが他の多くの心理テストとの大きな違いです。
 クライエントの人格・行動傾向を検査するのに適しており、結果の信頼性も高く、比較的容易に分析できるのが特徴と言えます。さらに、自己分析をしてよりよく自己実現するためのツールとして使用できるように工夫されていることも大きな特徴です。

<5つの自我状態>
 エゴグラムにおいては、自我状態を下の5つの要素に分け、各要素の点数が出ることで、心理的なエネルギーの割り振りを視覚的につかむことができます。
 (グラフ化するとより分かりやすくなりますが、独特の尺度を使用した専用紙があり、各要素の点数を横に並べて単純比較するということではないようです。)
@CP(批判的な親)
 理想・良心・責任・批判などの価値判断や倫理観など、父性的な部分を主とする。創造性を抑え、懲罰的で厳しい面が多いが、秩序の維持能力や理想追求など、肯定的な面も持っている。
ANP(養育的な親)
 共感・思いやり・保護・受容など、子どもの成長を促進するような母性的な部分を主とする。他人に対して受容的で親身になって世話をするが、過度になると親切の押し売りやおせっかいになってしまい、相手の自立や独立心を抑制してしまう恐れがある。
BA(大人)
 現実を客観視し、あらゆる角度から情報収集を行い、冷静な判断を下すタイプ。社会活動を行うに当たり、必要な要素である。この面が機能するとPの偏見やCの感情がコントロールされ、統合的で適応性に富み、想像力も高まり、自主性豊かな人間として活動できるが、過度になると情緒欠如・無味乾燥になる恐れがある。
CFC(自由な子ども)
 親の影響を全く受けていない、生まれながらの部分。自由奔放で、快感を求めて天真爛漫に振舞う。直感的な感覚や創造性の源で、豊かな表現力は周囲に明るさや温かさを与える。行き過ぎると、自己中心的でわがままになり、周囲との協調性に欠け、トラブルを起こしやすくなる。
DAC(順応した子ども)
 親たちの期待に添うように常に周囲に気兼ねをし、自由な感情を抑える、いわゆる「良い子」。本来の自分の感情を抑えたまま周囲に合わせるため、不満が鬱積した結果、屈折した甘えを示したり、爆発的に攻撃してしまうことがある。ただ、順応性が高く、社会環境への適応能力は高い。
 いずれの要素にも、点数が高くても低くても、それぞれプラス面・マイナス面があります。よって、点数で一喜一憂するのではなく、冷静に自分の特徴を把握することが重要です。

<決め付けは厳禁>
 注意しなければならないことは、エゴグラムは自己の気付きをするためのもので、結果はあくまでその人のテスト実施時の状態に過ぎません。自分の性格の全てが分かるものではないということです。
 また、結果は時々変化するものであり、絶対的なものではありません。1回の結果だけを見て、自分(他者)の性格の決めつけをしないように気をつけましょう。

<自己分析をして行動につなげる>
 自分の特徴が把握できると、先に述べた五つの要素のうち、どれが機能しやすくて、どれが機能しにくいかが分かります。
 それは自分の性格の特性や行動パターンの特徴、人間関係において取りやすい交流パターンの理解にもつながり、日常生活の中で、場面に応じての使い分けを自分で選択することが出来るようになります。
 そうすることでまた結果が変わってきます。半年〜1年くらいの間隔で受けてみて、自分がどのように変化しているかを確認してみることも効果的です。
最後になりましたが、自分のエゴグラムの結果を変化させることができるのは、自分自身です。結果はありのまま受け止め、プラス面は維持し、マイナス面を自覚して行動するよう、心がけたいものです。
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PART17:「交流分析について@」

<交流分析とは?>
 交流分析とは、精神科医であったE.バーンが開発した心理療法の体系で、「人と人とのやり取りの分析」という意味を持ちます。
 そもそもは集団心理療法の一つだったのですが、研究が進むにつれ、個人の精神療法にも応用されるようになりました。さらに、心理療法のみならず、人間関係や個人の発達理解、組織開発などにも広く応用されています。
 心理療法としての交流分析の特色は、一言で言えば、「人間の自律性の達成」にあり、その理論は、「自我状態の分析」「やりとり分析」「ゲーム分析」「人生脚本分析」の4つの柱から成り立っています。
 以下、今回から数回に分けて、4つの柱について述べて行きたいと思います。

<自我状態の分析>
 人間の自我状態には「親(Parent)」「大人(Adult)」「子供(Child)」があり、さらに、大人・子どもについては自我状態をどう使うかにより、「CP(批判的な親)」「NP(養育的な親)」「FC(自由な子ども)」「AC(順応した子ども)」に分けられます。
 今の自分の自我状態がどのように使われているかを、エゴグラムで調べます(※自我状態・エゴグラムの説明については、前号の記事を参考にしていただければ幸いです)。
 企業は生身の人間ではないので、自我状態を持っているとは言えませんが、自我状態を持っていると思わせるような側面はあります。
 例えば、社訓、就業規則等規定類は「親」の自我状態と共通する働きが見られ、技術開発・問題解決などには「大人」の自我状態が機能していると思われます。さらに、社内の人間関係や風土には、個々の社員の「子ども」の自我状態が反映しています。
 会社の特徴も、どの自我状態にエネルギーが行きやすいかを把握することで、分析し理解することが可能だと思われます。

<やりとりにまつわる3つの欲求>
 人がやりとりを行う動機は、3つの欲求からくると言われています(@刺激(ストローク)への欲求、A人生の立場への欲求、B構造化への欲求)。
@ 刺激(ストローク)への欲求
 人間が成熟するためには、愛撫・接触・音などの刺激が不可欠です。この刺激を「ストローク」と言います。本来ストロークという言葉は身体的愛撫(なでる、さわる等)を意味しますが、この他に励ましや賞賛、罵倒や非難など、人の存在を認めるすべての行動が含まれます。
 ストロークには、身体的・言語的・条件付き・無条件といった種類があり、それぞれに肯定的なものと否定的なものがあります。
 人は肯定的なストロークが不足すると、否定的ストロークで交流をするようになります。これが習慣化したものが、後で述べる「ゲーム」になります。
A 人生の立場への欲求
 交流分析では、人生早期に、幼児が親との関係で取る立場(ポジション)を重視し、これを基本的構えと呼びます。
 人は一度、ある決まった立場を取ると、それを強化することによって、自己の世界を予測可能な状態にしておこうとします。また、予測不可能なものに対しては否定しがちになります。
 この各人の構え(立場)は、「自分と他人」「OKかNot OKか」の軸で、図のように4つに分類します。図の「他人」を「社会」に置き換えても、分かりやすいかもしれません。

                〜OK牧場〜
他人はN o t O K 私はOK 他人はOK
自己肯定
他者否定

  B:排他主義

自他肯定

A:自他の調和・共存
   D:拒絶・閉鎖


自他否定
C:交流の回避   

自己否定
他者肯定
私は Not OK


B 構造化への欲求
 これは生活時間を構造化(場面設定)することによって、心理的安定やストロークを得たいという欲求です。
 ストロークを得たいのであれば、心の通う相手と共に居る(時間を共に過ごす)ことが必要です。しかし、肯定的ストロークが得られないと、何らかの社会的状況を作り、時間を構造化するようになります。
 時間の構造化には、表のようなタイプがありますが、親密性を避けるために否定的ストロークの交換が習慣化するとき、やはりゲームが演じられます。

(以下次号)
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PART18:「交流分析についてA」

【やりとり分析とは】
 やりとり分析とは、2人または2人以上のコミュニケーションの中で起きていることを、コミュニケーションがなされた時の自我状態(親=P、大人=A、子ども=C)に基づいて分析し、明確にすることです。
 そして、コミュニケーションの状態を理解し、職場の人間関係改善につなげていくのです。
 人は3つの自我状態を持っており、人はどの自我状態からでもコミュニケートすることができますが、相手も同様にどの自我状態からでも反応することができます。
<3つのパターン>
 やりとり分析は、以下3つのパターンに分けられます。
1.相補的交流
 これは、自分が出したメッセージに対して返ってきた反応が、予想された相手の自我状態からなされたものだった(期待通りの交流だった)場合のことを言います。図解すると下記の通りになります。




 例えば、同じ上司と部下でも、単に時間を聞いてそれに答えているような場合であれば@になり、上司が「批判的な親」の状態から叱責し、「子ども」の状態の部下が誤っている場合はBになります。
 矢印が平行であることが相補的交流の特徴ですが、平行である限り、その話題に関するコミュニケーションは延々と続く可能性があります。

2.交差的交流
 これは、自分が出したメッセージに対して返ってきた反応が、予想外の相手の自我状態からなされたものだった(期待通りの交流ではなかった)場合のことを言います。図解すると下記の通りになります。




 例えば、部下が「これから得意先に行ってきます。」と「成人」の状態で言ったのに対して、上司が「なぜもっと早く行かないのか。」と批判的な親」の状態から叱責し、部下が気まずくなって出かけたというような場合はAに当たります。
 交差的交流の特徴は、矢印が交差していることです。実際のやりとりでは交流が中断され、気まずい思いや肩透かしを食ったように感じることが大きな特徴です。

3.裏面的交流
 表面的な交流と潜在的な交流の両方が同時に行われている状態を言います。
 多くの交流は表面化した社会的メッセージが発せられているのと同時に、隠された心理的メッセージも発せられています。裏面的交流においては社会的メッセージと心理的メッセージがマッチしません。つまり、言っていることと本心とが別々になっている交流で、本心(自分で気付いていないことが多い)は心理的メッセージにあり、相手は本心を感じ取り反応するのです。図解すると下記の通りになります。




 例えば、「大人」の状態の車のディーラーが「大人」の状態の顧客にセールストークを行っていますが、裏では巧妙に顧客の自尊心をくすぐり、顧客の「子ども」の自我へ向けた誘いを同時に行っています。その結果、つい予算をオーバーした車を買ってしまうようなケースがAに当てはまります。
 裏面的交流においては、表面的なコミュニケーションだけに焦点を合わせていては、相手の行動を予測することは難しく、結果は潜在的レベルで決定されます。

【企業でのやりとり分析】
 企業においては、日々の場面で、肯定的な自我状態を使った相補的交流で円滑・快適に人間関係を築くことや、交差的交流を利用して口論や過度の饒舌を打ち切ることなどにやりとり分析を活用できます。
 また、やりとりのパターンを分析し結果を活かしていくことが、職場の雰囲気を明るくし、士気を高めることに役立ちます。
 そのためにも、失敗に対するストローク(ストロークの解釈は前回参照。)は必要最小限にとどめ、達成した仕事への肯定的なストロークを多くすることが鍵と言えるでしょう。
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PART19:「交流分析についてB」

【心理的な「ゲーム」】
 「ゲーム」は「表面的にはもっともらしい交流の繰り返しのように見えるが、その奥には隠された動機(本人が気付いているかどうかは別)を伴い、しばしば破壊的な結末をもたらす交流」と定義されています。
 反復され、ストロークは得られるけれど、不快な感情が残ることが特徴です。
 この交流にはそれほど害のない気軽なものから、自己破壊に至るような複雑で害を与えるものまであります。前号で述べた裏面的交流の中で特に習慣化されたパターンとなっています。

【ゲームの公式】
 精神科医であったE.バーンは、すべてのゲームは以下のプロセスで進行していくことを発見しました。

  @ひっかけ+A弱み=B反応
   →C切り替え→D混乱→E報酬

 例えば、以下のようなクライエント(=A)とコンサルタント(=B)のやりとりがあったとします。

A1.先生に何とかお力をお借りしたいのですが。
B1.何が起こったのですか?
A2.<事情を説明>
B2.こうしてみてはいかがですか?
A3.ええ、でも…。
<しばらくこのようなやりとりが続いた後>
A4.これはどうにもならないですね。もう結構です。
B4.私も精一杯考えているのですが…。
A5.結局、私は誰にも救ってもらえないのですね。
B5.何もしてあげられなくて、申し訳ありません。

 これを@〜Eの公式に当てはめ、心理的メッセージを添えると次の通りになります。(「」は自我状態。9月号参照。)

@=A1/何とかして下さいよ。もうお手上げです。
     「適応した子ども」
A=B1/私はコンサルタント。知識を他人に役立てる     のが仕事。Aさん、また大騒ぎして…。
     「批判的な親」
B=B2/「批判的な親」
  A3/「適応した子ども」
     (表向きは「成人」対「成人」のやりとりで     あるかのように見えるが、AはBの意見をこ     とごとく退けている。)
C=A4/あなたは専門家でしょう。何とかするのが仕     事じゃないのですか?
     「適応した子ども→批判的な親」
D=B4/(うろたえている。)
     「批判的な親→適応した子ども」
E=A5/最後に残ったのは怒り・絶望・不安。
  B5/最後に残ったのは不安・無力感・罪悪感。

【ゲームを打ち切るには?】
 似たようなやりとりが社内、あるいは家庭で繰り広げられていないでしょうか?特に社内の話し合いなどで、前述の「B2/こうしてみては?」⇔「A3/はい、でも…」のようなやりとりがよく見られるのではないかと思います。
 雰囲気が悪く、生産性が上がっていない職場においては、ゲームが行われている可能性が高く、それは企業の人的資源と時間の浪費につながるため、ゲームが行われている状態を放置しておくわけにはいきません。
 そのためにはどうすればよいのか…。
 前述のやりとりを見て気付いた方もいらっしゃると思いますが、どのやりとりにも「大人」の自我状態が表れていません。そこで、ゲームが行われていることに気付いた人が、「大人」の自我状態で交差交流(前号参照)をすることで、ゲームを打ち切ることが出来ます。
 例えば、B2⇔A3のやりとりであれば、Bが「Aさんはさっきからそういう言い方ばかりするけれど、それでは何も解決しないと私は思いますよ。」と「大人」のBから「大人」のAに伝えるのです。
 その際に否定的なことを伝える場合は、必ず「Iメッセージ(=私はこう思っている)」で伝えます。

 さらには、ゲームが行われる背景をきちんと見つめなければなりません。一般的に、個人や部署のチャレンジがきちんと認められない、あるいは不当に低い評価だったりすると、ゲームが行われやすくなる傾向にあります。
それを防ぐには、チャレンジ精神やそれに伴う自発的な行動を奨励し、結果と同様にプロセスを重視するやりとりを心がけ、実践することが必要です。
 また、日常のやりとりをひと工夫することで社員同士の親密感が増し、ゲームをしなくても本当の気持ちを伝えることが出来るようになり、その結果、職場のコミュニケーションが改善され、メンタルヘルスの向上にもつながり、さらには生産性・効果性を上げることにつながります。
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PART20:「ハラスメントについて@」

【職場におけるハラスメントの種類】
 「セクシュアル・ハラスメント」という言葉が初めて取り上げられてから20年近くになり、「セクハラ」という言葉も広く浸透しているように見えます。最近では「パワハラ(パワー・ハラスメント)」「モラハラ(モラル・ハラスメント)」という言葉をよく耳にするようになりました。
 「セクシュアル・ハラスメント」とは、時・場所・相手をわきまえずに行われた不適切な性的言動(行動)により、相手を不愉快にさせる行為を言います。
 「パワー・ハラスメント」とは、職権など力関係を背景に、本来の業務の範疇を超えた、人格と個人の尊厳を侵害する言動を継続的に行うことにより、就業環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えることを言います。
 「モラル・ハラスメント」とは「静かに、じわじわと、陰湿に、繰り返し」行われる精神的ないじめ・嫌がらせです。行為自体は例えば「無視をする」「わざと咳払いをする」「否定する」という、直ちに嫌がらせとは言いかねるような些細なものですが、周りにはその行為が嫌がらせだとはなかなか理解してもらえず、そうしているうちに本人は精神的な苦痛を感じ、参ってしまいます。
 職場におけるハラスメントは主に上の3つですが、ハラスメントに遭ったかどうかを決めるのは、あくまで言動(行動)を受けた本人です。例えば上司がAさんにハラスメントをしていたのにAさんは何とも感じておらず、周りで見ていたBさんがハラスメントだと感じ、不愉快に思うこともあります。この場合はBさんがハラスメントの被害者ということになります。

【ハラスメントのパターン】
 私がハラスメントについて具体的な相談を受けるようになったのはここ2年位の話です。専門相談員の方々に比べると、それほど多くの事例はありませんが、それでも、何となく解決していたケースを含め、ハラスメントには以下のようにいろいろなパターンがあるように思います。(※名称は私が勝手に名付けたものです。)
@単純型:問題の中には被害者と加害者以外には登場しないケース。あまり複雑にはならない。
A複雑型:問題の中に被害者と加害者以外に登場人物がいて、二次的被害が発生しているようなケース。
B伏線型:問題の本質は被害者の訴えていること(主訴)以外のことにあるケース。例えば「人事評価が不当に低いと思っている」ことが心の奥底にあるようなケースや、恋愛(不倫)関係が絡んでいるようなケース。
C誤解型:権利関係・義務関係をきちんと把握していないために起こるケース。クレームに近い面がある。
Dモンスター型:被害者の要求に際限がないケース。例えば「(加害者の)謝罪に誠意がない」とう理由で、一度双方で納得した解決方法では納得せず、新たな争いに持ち込むようなケース。
Eメンタルヘルス型:相談者あるいは被害者のメンタルヘルスが悪化しているために話がこじれるようなケース。相談者あるいは被害者に境界性人格障害などが見られ、専門家の対応が必要なケースが多い。

【社内でハラスメント問題を解決する場合の注意点】
 最近はセクハラ相談窓口に始まり、ハラスメント全般の相談窓口を社内に置いている企業が増えてきました。
 しかし、相談に携わる人々が各々の立ち位置を確認しなかったため、初動にミスが出てしまい、さらにハラスメントに対する経営者(管理職)側の理解不足が追い討ちをかけ、結果的に被害者の傷口を広げてしまったケースもあります。
 相談については、一般的に次のようなプロセスになっていると思われます。
  @相  談(相談者→相談窓口)
  A事実確認(行為者→相談窓口)
  B結果報告(相談窓口→管理職or経営者)
  C対  応(管理職or経営者→相談者・行為者)
 @の受付だけ相談窓口で行い、相談者からの聴き取りから後は外部機関に依頼する場合もあれば、@からCまで全てを自社で行う場合もあります。また、会社によっては経営者が相談窓口だったりすることもあるでしょう。
 @からCを全て自社で行う場合、相談に関わる人々に求められるものは、まず「話を聴く技術」なのは言うまでもありませんが、人生経験も重要です。それは単に会社に長く勤めているということではなく「普通の感性・感覚を持っている」ということです。
 その上で「危機管理能力」や「社内規程の十分な理解」も求められます。メンタルヘルスが悪化した人の相談に乗っている時には、相談されることが苦痛に感じることが往々にしてあります。相談を継続することによって自身のメンタルヘルス悪化等、身に危険を感じるような場合には、守秘義務が果たされることを伝えた上で、外部の専門相談員やカウンセラーなどに引き渡すことも必要です。また、社内規程を十分理解し、都度確認しながら、相談者の要求に対して出来ることと出来ないことを正確に伝えることが望まれます。

 最後になりましたが、ハラスメント問題は従業員個人の名誉や尊厳を傷つける問題です。人権尊重の視点から解決に当たるようにして下さい。
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PART21:「ハラスメントについてA」

 セクシュアル・ハラスメントについては、研究が進んできて定義も明らかになっており、法整備もなされてきましたが、パワー・ハラスメントやモラル・ハラスメントについてはこれといった定義もなく、何がハラスメントなのか区別することも難しいケースが多いのではないでしょうか。今回から、モラル・ハラスメントについて述べて行きたいと思います。

【職場におけるモラル・ハラスメントとは?】
 マリー=フランス・イルゴイエンヌ氏(フランス 精神科医)よると、モラル・ハラスメントとは「自己愛が変質者と言われるレベルにまで達した加害者」が、本人が意識しているかどうかは別として、周りに嫌がらせを行うことだと言われています。
 職場においては、働く場であるということと、複数の人間がいるということで、加害者があからさまに本質をむき出しにすることはあまりありません。それでも「会社の利益のため」という口実のもとに、加害者が機会を逃すことなく嫌がらせをする例は少なくありません。
 これに加えて、「人間関係の齟齬」や「労働条件の不備」、「システム上の不備」といった原因で起こるモラル・ハラスメントもあります。
 さらに、横暴な上司などが職権を利用して行うものもあります。中にはモラル・ハラスメントとは言えないものもありますが、相手を傷つけようとする意図を持って行われている場合や、その意図はなくても行き過ぎている場合は、モラル・ハラスメントに含まれるでしょう。
 つまり、職場におけるモラル・ハラスメントには、@純然たるモラル・ハラスメント、A状況や関係によるハラスメント、B職権濫用的なハラスメント(=パワー・ハラスメント)の3つに分けられます。
 実際にモラル・ハラスメントが行われる方法や、被害者が心身に受けるダメージの大きさは@〜Bのいずれにおいても変わりはありません。

【どこまでがモラル・ハラスメントなのか】
 「モラル・ハラスメントとは言えないもの」もあると述べましたが、モラル・ハラスメントであるのかどうかを区別しないと、対策を立てられなくなってしまいます。
 ここでは、モラル・ハラスメントと混同しやすいものについて述べていきたいと思います。
@ 仕事のストレスとハラスメント
 日常的にオーバーワークであるような場合、被害者がストレスにさらされていることに目をつむり、我慢し続けた挙句に抑うつ状態になってしまったようなケースを良く耳にします。
 抑うつ状態になった原因について、被害者に他に何も思い当たることがないということであれば、ストレスが原因だったということになります。被害者の抑うつ状態が解消され、オーバーワークが取り除かれ、職場の対応に問題がなければ、早期の回復が十分に可能です。
 しかし、被害者が加害者(仕事を命じた者等)に悪意を感じた(仕事に対する意地の悪い批判や、言葉や態度で明らかな侮辱を受けていた等の)場合、原因はストレスではなく、モラル・ハラスメントだったということになります。つまり、加害者に悪意があるのかどうかが、モラル・ハラスメントかどうかの決め手になります。
 抑うつ状態に至るまでのプロセスで、被害者は「自分はどんな悪いことをしたのだろうか?」という気持ちに苛まれ、状況を変える努力をしますが、結局はその努力も意味をなさず、自尊心や誇りが傷付けられ、ストレスによる傷付き方よりも深い傷を心に負います。
 この場合、回復に時間がかかるだけでなく、加害者の処分も問題になります。特に加害者を異動させることが困難な職場においては、被害者・加害者のどちらかを退職させることで解決せざるを得ないケースも少なくありません。
A 仕事上の対立とハラスメント
 職場では仕事上の対立が往々にして起こりますが、これは決して悪いことではなく、しかるべき対応がなされれば、組織を活性化させ、旧態依然としたシステムから抜け出すきっかけを与えてくれます。
 しかし現実は、もともと仕事上の対立であったものが、放置されている間に地下に潜ってしまい、健全な話し合いが出来るような状態ではなくなってしまうことが起こります。
 さらに進むと、それが私的な争いに変化したり、個人攻撃だけが行われる事態に陥ることもあります。このときにモラル・ハラスメントが起こってしまうのです。
 単なる対立とモラル・ハラスメントの違い、それは対立する者同士が対等であるかどうかです。対立の場合はお互いの関係は(職位に関わらず)対等ですが、モラル・ハラスメントの場合は、支配と服従の関係になります。つまり、加害者が被害者を支配し服従させることで、被害者の人格を奪うことが目的になっているのです。
 これが職位を利用して行われる場合は、いわゆるパワー・ハラスメントです。職務の範囲を超えていることは言うまでもありません。
 このようなことが起こる企業では、必要な変化や改革までもが阻止され、組織の停滞を招いてしまいます。
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PART22:「ハラスメントについてB」

(前号の続き)
B 職権の濫用とハラスメント
 職権の濫用とは、組織の上下関係を利用して、上司が部下に苦痛を与える行為です。横暴な上司の行為と言えば分かりやすいかと思います。それは誰の目から見てもはっきりと分かり、よほど要領よく逃れない限り、その場の全ての人が被害を受けてしまいます。
 上司の横暴が、部下を互いに反目させるような陰険なやり方になったり、個人的な弱点を突くような嫌がらせを行った場合、それは単なる上司の横暴では済まされず、モラル・ハラスメントに移行していると言えるでしょう。

C 一時的な攻撃
 攻撃が一回きりのような場合は、反射的・衝動的であることが多く、モラル・ハラスメントとは言えません。
 また、一回きりであっても、暴力的過ぎると相手にダメージを残すことがありますが、それはモラル・ハラスメントではなく、トラウマ(心的外傷)です。
 はっきりとダメージを受けたと思える攻撃は一回きりであったとしても、それがモラル・ハラスメントと認められる場合には、前段階に必ず意図的で執拗な攻撃が繰り返し行われているのです。

D 厳しい労働条件・劣悪な労働環境
 厳しい労働条件や劣悪な労働環境は、それ自体をモラル・ハラスメントとは言えません。
 社員全員がそのような状況で仕事をしているのであれば、集団で改善を訴えることも可能でしょうが、一人職場では、劣悪な環境に置かれていることがモラル・ハラスメントなのかどうかを自分自身で判断することが出来ないことが多いため、被害に気が付かず、訴えることもなかなか出来ません。
 加害者はそこに目をつけ、ターゲットを一人職場(あるいは閑職)に追いやった上でモラル・ハラスメントを行うのです。
 また、個人の事情を知りながら、意図的に考慮しないことも、モラル・ハラスメントと言えるでしょう。

E 職務上の正当な要求
 職務上の正当な決定による異動や配置転換とそれに対する服従や、仕事に対する評価や建設的な批判は、根拠が真っ当であり、嫌がらせ等の目的がないのであれば、モラル・ハラスメントと混同してはなりません。
 ただ、上司がやる気を起こさせるべく、少しきつく叱ったら、部下の成長への思いが込められていたにも関わらず、部下がハラスメントだと感じてしまったというようなケースもあり、モラル・ハラスメントとの見極めは非常に難しいところです。

<モラル・ハラスメントの原動力とは?>

 モラル・ハラスメントが行われる時には、原因が特定できることはあまりなく、むしろ感情的なものの積み重なりが原因であることが多いです。
 その「感情的なもの」は、大きく、@自分とは違うものに対する拒否感、A羨望・嫉妬・ライバル関係、B恐怖(不安)、C口に出来ない理由、の四つに分類されます。
 Cについてですが、会社が利益追求に走る余り、日常的に違法行為をしていることを知り、そのことを内部告発した社員に対して、経営者が(上司経由で)モラル・ハラスメントを行っていたというケースが当てはまります。つまり、ハラスメントを行った理由は「内部告発をした」ことですが、それを口外することは出来ない、あるいは理由がばれてしまうようなことがあってはならないという意味です。
 @からCのいずれも、加害者の保身が大前提にあり、その上で相手を型にはめる(自分を押し殺し、周りに合わせ、会社の望む人材になる)ということが目的となっています。モラル・ハラスメントはそのための有効な手段と言えるでしょう。
 ただし、モラル・ハラスメントを利用して行われた社員の均質化は、会社の活力低下を引き起こし、停滞を招きます。
 そうならないようにするには、社内での地位に関係なく、互いの人格を尊重することももちろんですが、モラル・ハラスメントについてよく理解し、日々の言動や行動について自己チェックを行い、モラル・ハラスメントに頼らないマネジメントが行われることが不可欠だと思います。
(次号へ続く)
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