◆労災・通勤災害


03年5月創刊号

長時間労働と過労死認定基準の変更
〜 昨年の労災裁判から「使用者の安全配慮義務」を考える 〜

<過労死裁判の流れと平成13年12月通達>

 電通の青年労働者の自殺を過労自殺とした判決(平成8年)以来、過労死裁判の流れは変わったといえます。平成13年秋から平成14年秋までの労災裁判を振り返ると、脳・心臓疾患関係の行政取消訴訟が多いことが特徴で、しかもすべて行政判断を取り消す判決が出されています。

 厚生労働省は脳・心臓疾患における“業務上か業務外か”の認定基準を一部変更しました。長期間にわたる疲労の蓄積を評価する期間を、それまでの発症前4週間から6ヵ月間とし、恒常的な長時間労働等の負荷を過重労働としました。平成13年12月12日付の通達(基発第1063号)は次のようにのべています。

 「@発症前1ヵ月ないし6ヵ月にわたって1ヵ月当 たり…おおむね45時間を超えて時間外労働時間が 長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強 まる…、A発症前1ヵ月におおむね100時間また は発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間にわたって、1ヵ 月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認 められる場合は、業務と発症との関連性が強い」

 脳・心臓疾患が"業務上か業務外か"の行政判断の狭さが、司法による逆転判決によって否定されるという顕著な傾向が、上記通達の背景にあります。

<研修医の突然死に巨額の賠償命ず>

 急性心筋梗塞による死亡が使用者による安全配慮義務の違反によるものと認められた事件に、関西医科大学の研修医が突然死した事件があります。判決は、大学付属病院の研修医が、一般企業における新人研修的な性格をもち、その研修医と大学病院との間に労働契約関係と同様の指揮命令関係があるとして、大学の安全配慮義務違反を認め、1億3532万円という巨額の賠償を命じました(14年2月大阪地裁)。

<労災保険の加入と民事損害賠償>

 労働者を一人でも雇用すれば、労災保険に加入することが事業主に義務づけられています。正社員の人だけを加入させると勝手に決めているケースがありますが、法律上は準社員・パート・アルバイト・嘱託等もすべて「労働者」ということになります。

 もし未加入で災害が起きた場合、@過去最高2年の限度で保険料が遡及して徴収され、A徴収保険料金額の1割の追徴金が徴収されます。労働者側からみると、事業主が労災保険に加入していようがいまいがまったく関係なしに給付されるのです。

 また、業務上の災害で障害が残った場合などの民事訴訟では、本人が「故意に事故を起こした」と言わない限り、会社は絶対に慰謝料を支払うことになります。

 使用者には「安全配慮義務」が厳しく課されているのです。



04年2月第10号

ある通勤災害事故と労災保険民営化論

【通勤災害の認定基準】

 Dさん(19歳)は、昨年末クリスマスの夜8時頃、会社からバイクで帰宅する途中、信号を直進していたところ右折するトラックに轢かれ、亡くなられました。遺族は障害をもたれ、生活保護を受けている母親です。

 会社はすぐ労働基準監督署に通勤災害の申請をしましたが、タイムカード打刻が夕方6時、会社退出が8時頃、「2時間、何をしていたのですか?」と問われました。「通勤」とは、「就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復する」こと。2時間が、「社会通念上認められる範囲の時間」であるかどうかです。聞き取りの結果、当初空白だった2時間のうち1時間半は業務上の打合せをしていたことがわかりました。認定されれば、お母さんに遺族年金(60歳以上又は一定の障害のとき)又は遺族一時金が支給されます。

【自賠責保険と労災保険の関係】

 業務に係る交通事故は、労災保険と、民間の自賠責保険両方の対象となります。そしてどちらが先に給付されたかにかかわらず、その価額の限度で調整されます(たとえば、労災保険が先に給付した場合、自賠責保険の保険会社にたいして、政府が請求権を取得する)。

 今回の事故では、加害者側が、Dさんに百%責任があると主張し、いまのところ自賠責保険の保険会社もなんら対応をしていません。こうした場合、労災保険の側からの給付を先行すると同時に、加害者側の態度如何によっては訴訟等も検討する必要があります。

【労災保険の民営化の危険】

 検討され始めた労災保険民営化案。しかし、@現在は勤務先が労災保険に加入していなくても補償されますが、民営化されると会社によっては認められないケースが出てくるでしょう。A過労死などの場合、労働時間の証明などで会社と争う場合も多く、民間に委託されれば顧客である企業寄りの判断が生じかねません。Bある治療を自賠責保険の対象としている保険会社と対象外としている保険会社も現実に存在しており、民営化によって救済に不公平が生じることも危惧されます。今回の事故からも教訓にしたい点です。



06年2月第34号

“顧客との野球の交流試合”〜練習中の怪我は労災か?


 当社では、得意先と野球の交流試合を定期的に行っています。従業員のなかから選手を選抜して、週に1回程度の練習をしています。先日、ある従業員が、練習中に打球を顔面に受け全治1ヵ月の怪我をしてしまいました。こうした場合、労災保険の適用が受けられるのでしょうか。

 運動競技会に参加して怪我をした場合、一般的には労災保険の適用はされません。それは、多くの運動競技会が、親睦などを目的に休日に自主参加で行われているため、労働災害の二つの基準である業務遂行性と業務起因性が認められないからです。

 運動競技会への参加が業務上災害と認定されるためには、以下のいずれにも該当することが必要です。

 @出場することが事業の運営のために社会通念上必要と認められること

 A出場が事業主の積極的特命によってなされたこと

 @の社会通念上というのは抽象的一般的な意味ではだめです。客観的にその必要性が認められるものでなければならず、例えば、競技会が定期的に行われていることや、会社のゼッケンをつけるとか宣伝効果のあることなどが明白でなければなりません。

 また、Aの事業主の積極的特命というのは、その競技会への参加を業務命令として出され、かつ、当日が出勤扱いとなっていることが必要です。就業時間後であれば、その時間に対する賃金が支払われていることが必要です。運動競技会等出場のための準備練習中の怪我の場合も上記に準じて扱われます。

 ご質問の内容では、得意先との野球の交流試合およびそのための事前の練習が営業活動上必要なものなのかどうかがわかりません。労働災害と認められるためには、そのことを客観的な事実で証明することが必要です。また、参加命令が具体的に出されており、かつ、その時間の賃金が支払われていることも必要となります。