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労使トラブル 110番
 このコーナーでは、実際に受けた相談例を多少アレンジして紹介します。
ご一緒に労務管理について考えましょう。(鎌田)

長時間労働と人間関係で顔面神経麻痺となった労働者に
追い討ちをかけた会社(08年1月)


【長時間労働と上司との人間関係で顔面神経麻痺】
 不動産会社で営業を務めていた25歳のIさん(女性)。下記の労働条件で雇用されました。
●所定労働時間:9〜21時(休憩2時間15分)
●休日:日曜日(月に1回休日出勤)
●給与:基本給17万円、営業手当7万7千円、特別手 当5万5千円、寮費の7割は会社負担
 *Iさんは、営業方針をめぐって上司と意見が合わず、ある日、お客様の前で上司から叱られ(恥をかかされ)、次第に上司に嫌悪感を持ち、入社3ヶ月目に顔面神経麻痺となり、入院治療も含め1ヶ月の休職となった。休職明け退職の意思を表明し認められた。
 *退職にあたって、会社は、@休職期間中の社会保険料の本人負担分、A休職期間中の寮費全額、B寮の清掃代、計14万円をIさんに請求した。会社は「休職中の寮費は本人が全額負担する規定だから」と主張。
 *Iさんは、残業代未払い約16万円と会社から請求されたお金(14万円)とを相殺したいと考えている。また、「自分が病気になったのは(長時間労働による)労働災害ではないか」という疑いを持っている。

【チェック・ポイントは?】

 最大の問題は、所定労働時間が「1日9時間45分、週58時間30分」で、月100時間を超える法定時間外労働だったことです。厚生労働省の過労死認定基準は、「発症前1ヵ月におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合、または発症前2〜6ヵ月にわたって1ヵ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合」です。長時間労働という基盤の上に、上司とのトラブルでIさんは顔面神経麻痺を発症したと考えられますから、労働災害として認定されうるケースです。また、最近、パワハラによる自殺を労災認定するケースも生まれています(平成19年10月18日労働保険審査会)から、単なる「上司とのトラブル」だったかどうかの検討も必要です。裁判になれば会社が負ける可能性大です。
 さらに、Iさんが未払い残業代について労働基準監督署に申告すれば、支払い命令が下されるでしょう。
 ところが会社は、これらの問題を慎重に検討せず、ただ機械的に寮費等の請求を行いました。この会社の姿勢にIさんは怒ったのです。
 結局、職場の他の同僚が労働基準監督署に残業代請求の申告を行った結果(会社はIさんも申告するのではと恐れ)、「14万円は支払わなくてよい」と態度が変わり、Iさんの気持ちもようやく収まりました。

【ワンポイントアドバイス】
@所定労働時間、割増賃金などの労働条件が労基法に違反していないかまずチェックしましょう。
A病気になった従業員に対しては暖かい配慮が必要です。くれぐれも「会社に切って捨てられた」という印象を与えるような機械的対応はしないように。
B「上司とのトラブル」はパワハラの可能性についても検討しましょう。


うつ病になった従業員を自殺に追い込んでしまった会社の対応
(08年2月)


【なぜ休職期間満了日に自殺したか?】
 小売業に30年勤めたWさん(男性。死亡当時の役職は課長)の話です。
●Wさんは5年間にわたり40万円の会社のお金を使い 込み、それが会社に発覚。Wさんは使い込みの事実 をみとめ、すぐに40万を会社に返却した。
●事件後、Wさんは陰に陽に店長からいじめ・嫌がら せを受け、自責の念ともあいまってうつ病を発症。
●会社はWさんを就業規則に基づき6ヶ月の休職とし、 休職期間の給与は支給した。
●休職期間満了の1週間前、会社はWさんに下記の文 書を郵送した。
 「貴殿の休職期間は平成○○年○○月○○日をもっ て満了となります。以後、治療のため出社できない 場合は、健康保険から傷病手当金を受けていただく ことになります。」
●Wさんは休職期間満了日に、自宅で自殺し、家族に 発見された。
 死後、ご家族は、Wさんの遺品の中から上記の会社からの通知文書を見つけました。また、主治医からは「(Wさんが)会社の人間関係に悩んでいた」と教えられ、Wさんが勤めていた店舗の元従業員から「店長のいじめは陰湿で、私もそれが嫌で辞めたんです」という話も聞きました。ご家族は当初、Wさんから話をよく聞けていなかった自分たちが悪かったという気持ちしかありませんでしたが、次第に「会社が自殺に追い込んだのではないか」と思うようになり、労災の疑いを持ち始めました。

【うつ病に対する対応は適切だったのか?】
 よく「うつ病は心のカゼ」と言われます。たしかに現代のストレス社会のもとでうつ病が増えているのは事実ですが、最悪の場合自殺を伴う怖い病気ですから、この言葉を“たいした問題ではない”という意味で理解すると大変なことになります。
 今回の場合、Wさん自身が起こした不祥事から事件は始まっています。しかし、その後の店長のいじめ・嫌がらせがうつ病発症の原因の一つと考えられます。この店長は他の従業員に対してもいじめ等を繰り返してきたようですから、会社として店長に対する適切な指導がなされていたかが問われます。また、会社は、休職期間の途中にWさんと会い病状を確かめるなどの努力をしていた形跡がありません。まして、休職期間満了の直前に出した一片の通知文書は、Wさんを「もう会社から見離された」という気持ちにさせたことは間違いないでしょう。
 結局、この事件は、ご家族が会社の会長・社長と話し合い、退職金の上乗せ(300万円)と葬儀費用200万円を会社が負担するということで収まりました。

【ワンポイントアドバイス】
@病気により休職となっている人には、担当者を配置 し、定期的に面談するなどして病状の把握や温かい 援助を行いましょう。
Aうつ病を発症した従業員に対する対応の仕方をはじ め、メンタルヘルス問題についての従業員教育は不 可欠です。
B日常的にいじめなどを行っている管理職等に対して はきちんとした指導が必要です。


従業員が退職届を出してきたら離職理由は「自己都合」か?
(08年3月)


【離職理由に納得がいかない】
 母子寮(社会福祉法人)に20年勤務していたFさん(43歳、女性)の話です。
●母子寮に住むある母親とちょっとしたトラブルが発 生し、解決の最中だった。
●法人は、一方的に母親の肩を持ち、Fさんに対して 退職か勤務場所変更の二者択一を迫った。Fさんは、 勤務場所変更の意思はなく、「トラブルを解決する まで退職しない」と表明した。
●しつこく退職を強要されたのでFさんは退職届を提 出した。会社が発行した離職票に「一身上の都合」 と書かれていたので、「異議あり」に○をしてハロー ワークに提出した。
●ハローワークから法人に問い合わせがいき、法人は 書面で経過を説明。ハローワークも一旦自己都合退 職と認定した。
●納得できないFさんは、事実経過をよく知る同僚に 「(Fさんの)退職届は自主的な意思で書いたもの ではありません」との書面を書いてもらい、それを ハローワークに提出した。1週間後、ハローワーク から「会社都合扱いと認定します」と連絡が入った。

【不法行為の成立を認めた裁判例も】
 雇用保険法によれば、退職願を提出したとしても、事業主から退職勧奨を受け退職した場合には「特定受給資格者」として手厚く保護されます。平成19年10月からは「家庭の事情の急変」や「通勤困難」など「正当な理由のある自己都合退職」も「特定受給資格者」の範囲に含まれるようになりました。他方、一般的な本人の責任による退職は、失業給付(基本手当)の給付日数も少なく、3ヶ月の待期期間が課されます。
 平成19年6月15日大阪地裁(ゴムノイナキ事件)は、顧客からのクレームが多かった従業員が、会社の上司から退職勧奨を受けて退職願を提出した場合に、会社が自発的な自己都合退職として処理したことで、会社都合退職の場合よりも不利益(基本手当支給期間の減少と退職金の減額)を受けたことについて、不法行為の成立を認め、会社に損害賠償を命じました。「(家庭等の状況から見て)まったく自発的に退職を申し出るとは考えがたい」「暗に解雇の可能性をほのめかしながら退職を勧め、決断を促した結果、解雇される前に退職する途を選んだものと考えるのが自然である」「したがって、甲の退職は、会社都合退職にあたるというべきである」と判じました。

【ワンポイントアドバイス】
@問題のある従業員や顧客とトラブルを起こした従業 員には、一つひとつ事実を確認しながら、丁寧に指 導します。事実の確認や指導を怠って退職勧奨や解 雇を行うとトラブルになります。
A退職勧奨自体は違法ではありません。ただし、あま り執拗に行ってはいけません。
B離職証明書の離職理由は慎重に書きます。わからな いときはハローワークに問い合わせましょう。


雇止めしたパート労働者があっせん申請し40万円を請求
(08年9月)


N社:先日突然、東京都労働局の紛争調整委員会から「あっせん開始通知書」が届きました。雇止めをしたパート労働者のHさんがあっせん申請をしたようです。
社労士法人オフィス・サポート(以下「OS」と略):「あっせん申請書」の「あっせんを求める事項及びその理由」の欄にはどのように書かれていますか?
N社:書かれていることは概略以下のとおりです。
1.最初3ヶ月で契約し、次に6ヶ月契約で更新した。他の労働者は10年、20年と雇用されており、雇われるときに店長から「長期にわたって働いてほしい」と言われたのに雇止めされたのはおかしい。
2.雇止めの理由は、「店長に挨拶しない」の一言だけ。私は挨拶している。
3.精神的苦痛に対し20万円、経済的損害に対して20万円、計40万円を請求する。
OS:雇止めの理由は「店長に挨拶しない」ということだったのですか?
N社:いえ、本当の理由は、同じ職場の複数のパートさんから、「Hさんとの間で個人的なことで意見の食い違いがあり、それを機会に話しかけても挨拶もしてくれないようになった。非常に重苦しい雰囲気なので退職したい」という相談があったので、本人に「挨拶をするように」と指摘したら、「挨拶しています」の一点張りで事実を認めようとしないので雇止めにしたのです。
OS:じゃ雇止めの理由をきちんと伝えられていないわけですね。ところで雇用契約書か労働条件通知書で、「契約更新の有無」「更新する場合の判断基準」はどう書きましたか?
N社:実は古い労働条件通知書をそのまま使っていて書いていないのです。
OS:それはまずいですね。いま厚生労働省などが出しているモデル書式には必ず「契約更新の有無」「更新する場合の判断基準」の項目があるはずです。今後はそれを使うようにしてください。そうすると、店長が、最初にHさんを雇ったときに「長く働いてほしい」と言った可能性は大きいですね。
OS:雇止めの理由をきちんと伝えていないこと、本人が契約更新の期待を持つ客観的事由が存在することなどから、和解のためには一定の金銭の支払いが必要になると思います。特定社会保険労務士としてあっせんの代理を行うことができますので、お引き受けします。

【ワンポイント・アドバイス】
@採用時の労働契約書(労働条件通知書)は現在の法律に適合した書式をつかいましょう。
A採用時に「長く働いてほしい」は禁句です。最初の雇用期間中によく見極めましょう。
B雇止めはなるべく最後の更新時に「更新は今回限りとする」旨合意して行いましょう。
C雇止めの理由はきちんと伝えましょう。


事業再編のため関連会社へ労働者を転籍させるためには…
(08年10月)


K社:経営上の事情で来年3月末をもって現在の会社業務の半分近くを関連会社に譲渡することになりました。それに伴い従業員の約半分(45名程度)を転籍させようと思っています。これから労働組合との交渉が本格的に始まるのですが、業務命令によって行うことができるのでしょうか。
社労士法人オフィス・サポート(以下「OS」):関連会社とは、子会社ですか?
K社:いえ取引先の会社です。すでに取引先4社と営業譲渡の合意はできています。
OS:法人格が別であっても、資本・役員・労務管理等で密接な結び付きがある場合には実質的に配転とみなされます。そうでない場合、一般に転籍とは、退職と採用が同時に行われる、つまり退職を伴うものですから、配転や出向と違い個々の労働者の個別的同意が必要となります。民法625条は「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」としています。かりに労働組合が承諾したとしても、個々の労働者には拒否権があるのです。少なくとも現行の労働条件が転籍先で確保されること、またはそれに代わる代替措置を考える必要があると思います。
K社:弊社は厚生年金基金に加入しており、確定給付型の企業年金にも加入しています。転籍先はいずれも厚生年金に加入しているだけで、それがまず一番大きな違いと思います。
OS:まず厚生年金基金と企業年金の、来年3月末時点の給付予定額と60歳定年時の給付予想額を、転籍対象となる労働者に示し、転籍先(厚生年金)の給付額との差額をどの程度まで補てんするかを示す必要があると思います。退職金も大きな違いがあると思います。
K社:そう思います。
OS:退職時点でのK社の退職金に加え、「K社の定年時の退職金」−「転籍先の定年時予定退職金」の差額を支給する必要があるでしょう。もちろん銀行の利率分の割引はかまいません。
K社:他の労働条件の問題はどう考えればいいでしょうか?
OS:転籍後の具体的労働条件の内容は、転籍先と労働者との間の合意によるもので、K社の労働条件がそのまま承継されるわけではありません。ただし、個々の労働者の同意を得る上では、転籍先会社ともよく協議し具体的な労働条件を事前に提示してもらい、それにもとづいて同意を得るための話し合いを進める必要があります。
K社:どの辺がポイントになるでしょう。
OS:もちろんいろいろな条件がありますが、やはり生涯賃金の差額をどう補てんするかが中心になると思います。補てんする財力にもよりますが、最大限の誠意を示すことが肝心です。また、転籍に伴う様々な負担を労働者が負うことになるわけですから、一時金のようなものを支給することも検討してみてください。

病気休職している従業員が休職期間満了になっても出勤してこない…
(08年11月)


Q ビル清掃をやっている会社です。清掃員をやっている従業員がうつ病になり、休職してすでに7ヵ月たちました。弊社の就業規則では休職期間が6ヵ月となっており、復職する予定の日が過ぎても本人と連絡がとれません。うつ病という怖い病気であり、またその従業員は労働組合に個人で加入しているので、どのように対応したらいいのか困っています。休職制度について留意すべきことを教えてください。

【休職制度と労務管理】
 休職制度は法律的に設置が義務付けられていることではありません。会社が休職制度を設けている理由の一つは、優秀な人材の流出を防ぐためと考えられます。病気になる従業員が生まれた場合、優秀な従業員をなんとか残したいと考えるのは当然です。
 同時に、一定期間は解雇を猶予するという意味を持ちます。「病気になる=就労不能=解雇」というのではあまりにも愛情のない会社になってしまいますしトラブルが発生するリスクもあります。従業員にとってもありがたい制度といえます。

【難しい「治癒」の判断】
 難しいのは病気が治ったかどうかの判断です。一般的に「健康時に行っていた業務を遂行できる健康状態に戻る」ことを治癒(ちゆ)といいますが、例外的に、完全には治癒していないが、「当初は軽易な職務に就かせればほどなく通常の業務に復帰できる」場合も含めるべきでしょう。もちろん、職種によって職場復帰の要件が異なり、スペシャリストの場合は会社側が厳格に対応できる一方、ゼネラリスト=一般職の場合は、労働者から軽易な職務への復帰を求められた場合、スペシャリストと比べ断り辛いといえます。また、「心の健康問題」を抱えた人の復職の場合は、リハビリ期間の設置なども検討し、より慎重に対処すべきです。
 復職にあたり医師の診断書の提出を求めるのが通常ですが、医師は会社の業務内容を熟知しているわけでなく、医師によっては患者に頼まれて「復職可能」と診断書に記入する場合が少なくありません。復職可能かどうかは最終的に会社が判断することですから、就業規則に、@「会社が医師と面談することに同意する」、A「必要と認めた場合は会社が指定した医師への受診を拒めない」などの規定があった方がいいと思います。

【休職期間満了時の規定の留意点】
 休職期間が満了しても病気が治っていない場合、解雇と規定しているのか、自動退職と規定しているかでは大きく違います。解雇と規定すれば、当然解雇権濫用法理が適用され、トラブル発生のリスクは高くなります。自動退職と規定しているのであればリスクはかなり低いといえます。
 なかには復職したのちわずかな期間勤務してまた休職するということを繰り返す従業員がいます。そうした事態に備え、休職期間の通算規定を設けた方がいいでしょう。たとえば、「復職後3ヵ月以内に、同一事由ないし類似理由により欠勤または不完全な労務提供が認められた場合は、休職にする。但し、休職期間は残存期間とする」という規定です。
 ご質問のケースは、休職期間が満了しその後も欠勤を続けているということであれば、たとえ労働組合員であっても就業規則の適用は免れません。うつ病ということですから、家族がいるのであれば家族とも話し合い、傷病手当金その他の給付の援助もしながら解決してください。もし退職ということであれば、トラブルを避けるため労働組合の上部団体にも連絡をしておいた方がいいと思います。


「検察審査会の日を有給にしてほしい」と言われたが…。
裁判員制度に備えて規程整備を(08年12月)


Q 会社の従業員が検察審査員(注)になったのですが、裁判所へ行く日は有給休暇を活用したいと申し出てきました。日当が出るのですから認める必要はないと思うのですが…。また来年から裁判員制度も始まるので、就業規則の規定をどうしたらいいかもアドバイスください。


【「公の職務」と有給休暇の利用】
 労働基準法第7条は、「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる」と規定しています。
 「公の職務」には、議員や労働委員会の委員、裁判等の証人などとともに検察審査員、来年から始まる裁判員も含まれます。
 たしかに検察審査員も裁判員も8,000〜10,000円の日当の出るアルバイトのような面もあり、それに有給休暇を付与するのは二重労働ではないかという意見もあります。しかし、そもそも有給休暇をどのような目的で利用するかは労働者の自由です(争議行為に有給休暇を利用することは、争議の内容によっては制限されるという裁判例はありますが)。御社の就業規則で裁判員等の職務に対してどのような対応をするのかについて規定がない場合、「有給休暇を使いたい」という労働者からの請求を断ることはできません。また、通常の有給休暇と違い公の職務の日程をずらすことはできませんから、時季変更権を行使することもできません。

【急がれる規程整備】
 もちろん検察審査員や裁判員のため従業員が会社を休む場合、年次有給休暇を使用するのか、特別休暇を設けてこれを使用させるのか、特別休暇は有給か無給かについては法律の定めはなく、扱いは各使用者の判断に委ねられています。
 会社の中には、@有給休暇で処理しているところ、A有給休暇とは別に「公務休暇制度」を設けたところ、B従前の就業規則の「特別休暇」の規定に裁判員や検察審査員などの例示を加える形で就業規則を改正して対応しているところなど様々です。また、有給にするか無給にするかもまちまちで、選択肢として@有給、A無給、B支給される日当と賃金の日額の差額分のみ支給するなどが考えられます。(なお、公務休暇や特別休暇で対応する場合、年次有給休暇の成立要件である「出勤率8割」の算定にあたっては、公の職務によって休んだ日は「全労働日」に含めないという対応になろうかと思われます)
 さらに、裁判の中で残酷な写真を見たり、有罪か無罪かのつらい判断をしたりするかもしれず、仕事に戻った社員が元気そうかどうか気をつける配慮も求められます。
 トラブルを回避し、メンタルヘルスにも配慮した規程の整備が急がれます。

(注)検察審査員
 検察審査会の構成メンバーで、有権者からくじで選ばれた11人が刑事事件についての検察の資料を読むなどして、検察官の不起訴処分の善し悪しを審査する。「不起訴不当」あるいは「起訴相当」の議決をした場合は、検察官が再捜査する。裁判員制度が始まる2009年5月以降、検察審査会が同じ事件で2度、「起訴相当」の議決をすれば強制的に起訴されるようになる。任期は6ヶ月、日当8千円。裁判員と同様原則として辞退できない。


「トヨタも解雇しているのだからうちでも」…経営難を理由とする人員整理の留意点(09年1月)

 40人の従業員の卸小売業です。法人設立後初めて赤字決算となってしまいました。同業者から「1ヶ月分の給与を出せば解雇できる」と聞きました。トヨタやキャノンも解雇しているし、うちでも数名辞めさせたいのですが…

【大企業との経営基盤の違い】
 トヨタ、キャノン、ソニーなどのリーディングカンパニーが昨秋から相次いで期間工、派遣労働者の解雇、雇止めを行い、解雇は正規労働者にも及び始めています。「年越し派遣村」がマスコミでも大きく取り上げられ、解雇された労働者が労働組合に加入したり、裁判を起こすなど社会問題になっています。経営難から「トヨタも解雇したからうちでも」と思っている中小企業経営者も少なくありませんが、冷静に考えてみる必要があります。
 労働争議になった場合、労働組合との交渉等にかかる労力、裁判になって会社が負けたとき(労働裁判は会社が負ける場合が多い)に支払うお金など、相当の負担を覚悟しなければなりません。大企業は、そういうコストを考慮に入れても内部留保等の資金力があり、また負担するコストを上回るコスト削減ができるという判断が前提になっています。中小企業には大企業のような経営基盤がなく、「労働争議=会社の倒産」という事態にさえなりかねません。

【解雇権濫用法理と整理解雇4要件】
 もちろん経営難に伴い人員削減せざるを得ないことが、とくに今日の経済状況の下では当然ありうることです。その際、「1ヶ月分の給与を払えばいい」と言うのは、労基法第20条の「使用者は、労働者を解雇しようとする場合は、30日前に予告するか、予告に代えて、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」(解雇予告制度)のことを指しているものと思われます。たしかに解雇予告もしくは予告手当の支払いがなされなければ法律違反に問われます。しかし、解雇をめぐる争いは「1ヶ月分の給与」の範囲にとどまるものではありません。かりに裁判になって、数年後に解雇無効の判決が確定した場合、その数年間の給与を支払わなければならないという場合も少なくありません。
 ですからやむを得ぬ人員削減であっても慎重を期す必要があります。経営者の方が必ず念頭に置いてもらいたいのは、労働契約法第16条(旧労働基準法第18条の2)と整理解雇4要件(あるいは4要素)です。

〔労働契約法第16条〕「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」
〔整理解雇4要件=整理解雇する場合の有効性の判断基準〕@経営上の必要性、A解雇回避措置、B人選の合理性、C労使間の協議

 いきなり解雇する前に、経営状態について情報を開示することも含め「客観的に合理的な理由」をよく説明すること、時間短縮や賃金削減、希望退職の募集などあらゆる措置を講じた上で最後の手段が解雇であること、不当な動機や目的をもった解雇ではないこと、よく労働者との話し合いを行っていることなど「社会通念上相当である」と認められるような措置をとることが肝心です。

【リストラ後の社員のモチベーションへの配慮を】
 経営者は当面のコストだけを考えていてはいけません。1人リストラをすると、「次は自分がリストラされるのでは?」などの疑心暗鬼が生まれ、会社の雰囲気が悪くなったり、他の従業員は「会社のために尽くしても無駄だ」とモチベーションを低下させる場合が多いのです。
 中小企業は1人の人材によって大きく経営が左右される面があります。果断な決断も、細心の注意も必要であるということをよく考えてください。



同業者に顧客情報を流出させていた従業員にどのような懲戒処分を行えばいいか?(09年2月)

 広告代理店を行っています。昨年当社を退職した元従業員が同じ業態の事業を立ち上げました。最近、お客さんから、「(元従業員が作った会社から)営業をかけられた。ずいぶんうちの会社の情報を知っていた。情報が漏れているのではないか」という連絡がありました。朝礼の場で注意を呼び掛けたところ、ある従業員から、その元従業員と当社の従業員数名が2ヶ月に1回程度飲み会を行っているという報告がありました。参加した従業員から事情聴取したところ、半分は事実を認め反省しましたが、残りの半分は虚偽の報告をしたり全面否定するという態度です。懲戒処分を考えていますが、アドバイスをお願いします。

【企業秘密に該当するかどうかを判断】
 企業秘密とは、不正競争防止法などで規定されていますが、@会社にとって利益となるものだけではなく、同業他社や競争会社が入手を望むようなものであり、A会社が「マル秘」とか「極秘」を押印するなどして管理しているもののうち、それが漏洩されることで損害ないし損失が生じるものといわれています。過去の実例では、製造・販売現価、製造技術に関する資料文献、顧客カード・顧客リスト、病院建設資金に関する借入れ及び弁済方法などが企業秘密として認定されています。
 一般的には顧客名簿や各顧客の情報は「同業他社が入手を望むもの」ですから企業秘密といえます。しかし、漏洩された機密の内容によって会社が受けるダメージが大きく違いますから、顧客情報がどこまで漏洩され、それが会社にどの程度のダメージを与えるものなのかも含めて企業秘密に該当するのかどうかを判断する必要があります。

【従業員にどこまで忠実義務を課せられるか】
 職上知り得た会社・顧客・関係者などの秘密や個人情報などを漏洩する行為は、重大な企業秩序違反です。
 では従業員にどこまで企業秩序遵守義務、企業秘密保持義務を課すことができるかという問題があります。会社役員の場合は、会社法355条で取締役の忠実義務が課されていますが、従業員にはこのような法律上の規定はありません。
 一面では、労働契約とは、従業員が労働力を提供し、会社がこれに対価である賃金を支払うという関係ですから、信義則上、付随的に発生する義務として忠実義務があるといえます。だから就業規則で、「従業員は業務上の秘密を漏らしてはならない」とか「職務上知り得た機密を漏らしてはならない」、これに違反すれば懲戒処分に付す旨を規定しているのです。
 しかし、従業員は全人格的に会社に従属するものでもありません。たとえば、元従業員と一緒に酒を飲みに行くこともあるでしょうし、その席で仕事の話をしてしまうこともあり得ます。

【漏洩の目的・回数・期間などを総合的に判断】
 以上から、会社の対応としては、@機密の内容、Aそれが会社にどの程度ダメージを与えたのか、B漏洩の目的、C回数、D期間などを総合的に勘案して、懲戒対象とすべきか、対象とするとしてもどの懲戒を選択すべきかを判断します。とくに重大な企業秘密の漏洩があり、いままでの貢献を帳消しにするほどの性質を有していた場合には、懲戒解雇もありえます。また、個人的な利益を得ることを目的として、継続的に企業秘密を漏洩していたという場合、企業秘密の内容から懲戒解雇が無理なケースでも、会社に対する重大な背信行為があったとして、信頼関係の破壊を理由に普通解雇ということもあり得ます。


転籍後に発覚した横領事件を事由とする懲戒処分と退職金減額はどこまでできるか?(09年3月)

(1)最近関連会社から転籍してきた労働者が、転籍元で横領を犯していたことが発覚しました。会社の就業規則では、懲戒解雇事由として「刑法上の罪を犯したとき」「会社の名誉・信用を著しく傷つけたとき」を明記しており、これらに該当する行為であることが判明しました。会社は懲戒解雇処分としたいと考えていますが、労働組合は「相当性の原則」から諭旨解雇にとどめるべきだと要求しています。
(2)会社が懲戒解雇したとして、転籍元においてはどのような懲戒処分が可能なのでしょうか。わが社(=転籍先)と転籍元とが同一の処分とすることは可能でしょうか。
(3)懲戒解雇処分するということになれば、退職金は減額もしくは不支給ということになります。この場合、転籍元における退職金は「既得権」として扱われ、全額支給されることになってしまうのでしょうか。もともと転籍元で犯した事件ですから、退職金が全額支給されてしまうというのは理不尽な気がします。なお、退職金規程では、関連会社から転籍した場合は転籍元の退職金そのものを引き継ぐという規定になっています。
 以上の点についてアドバイスをお願いします。

(1)懲戒解雇は相当か

 背任・横領は懲戒事由に該当します。とくに、@横領・背任が行われた期間、A横領・背任行為の回数、B会社の損害額、C自己もしくは他人の利益になるよう意図したか、D帳簿上の数字合わせなど、仕事のつじつま合わせにすぎないものかどうか、E会社の業種と本人が担当する職務は何か、などを基準に判断します。@〜Bの客観的事実を前提に、C及びDの状況によって懲戒解雇を選択すべきかどうかを判断します。Eについては、たとえばレジ担当が客の金銭を横領すれば、たとえ小銭であっても影響が大きく厳しい処分が相当という考え方です。また、横領額の全額返済や本人の反省など、いわゆる情状酌量の余地があるかどうかも検討していいでしょう。これらの点を総合的に判断し懲戒解雇が相当かどうか決めてください。

(2)転籍元でも解雇することはできるか
 雇用契約が存続している場合に初めて解雇することが可能になりますから、雇用契約そのものが終了してしまった転籍元が法的な意味で解雇するということはできません。裁判例でもそうなっているようです。ただ、転籍元が社内的に解雇扱いして、その旨を人事記録等に残したり、公表するという扱いをすることは可能です。

(3)退職金の減額はどこまで可能か
 通常、転籍の場合、退職する会社の退職金を一度清算・受領し(既得権の確保)、新たに就職する会社の退職金制度に加入するということになります。ところが関連会社間の転籍の場合、退職金通算制度をとっている場合が少なくありません。退職金通算制度には、@(転籍元の退職金は一度清算したうえで)勤続年数を通算し転籍先入社時においてすでに「勤続○○年」と扱う場合と、A転籍元の退職金そのものを転籍先に移管してしまうという2つのパターンがあります。中小企業退職金共済制度はAのパターンです。御社の場合もAのパターンですので、転籍元分の退職金についても退職理由によっては自動的に満額受け取れない(減額または不支給がある)制度のようです。現在雇用している会社(転籍先)の退職金規程に基づき支給・減額支給・不支給のいずれかを決めることになります。


職員採用時の健康診断にHIV、B型肝炎、C型肝炎の検査を実施する条件は?(09年4月)

医療機関の新人職員を採用するときに、一般の健康診断と併せてHIV、B型肝炎、C型肝炎感染の検査を実施していますが、ある職員から「本人の承諾なくできるのか?」という質問が寄せられました。他の医療機関は感染症検査を実施しているようなのですが、どうなんでしょうか。


(1)採用時健康診断の目的は何か
 
採用時健康診断の目的は、「採用を決定した者に対する適正配置、入職後の健康管理の基礎資料に資するためのものであって、採用選考時の健診を義務づけたものではない」というのが厚生労働省の見解です。つまり、「採用を決定した者」に対する健康診断なのか、「選考時」に行うものなのかによって扱いが違い、「選考時」に行う健康診断については、就職差別につながらないよう、応募者の適正と能力を判断する上で真に必要かどうか、慎重に検討すべきであるとしているのです。まず健康診断の目的を明確にすることが大事です。

(2)法定外検診には「合理的で相当であること」が求められる
 また、労働安全衛生法上の健康診断に該当しない法定外検診については、「合理的で相当であるかどうか」が問われます。合理的で相当であれば労働者は受診を拒否できません。判例(電電公社帯広局事件、最高裁昭和61年3月13日)でも、頚肩腕症候群の長期罹患者に対して、就業規則及び労働協約に基づいて、使用者指定の病院における精密検査を命じた件について、合理的で相当であるとして受診拒否できないとしています。

(3)HIV検査とプライバシー権
 HIV検査については労働者のプライバシー権との関係でかなり厳しい判断をしなければなりません。厚労省は、「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」(平成7年2月2日)で、採用選考等におけるHIV検査を戒め、労働者が本人の意思に基づいてHIV検査を受ける場合も、検査実施者及び事業者の秘密保持の徹底を説いています。また、HIV抗体検査陰性証明が必要な国への海外勤務の場合には、そのことを労働者に周知した上で派遣の希望を確認し、労働者が任意で検査を受診するよう説いています。判例(T工業事件、千葉地裁平成12年6月12日)では、使用者が定期健康診断時に労働者の同意なくHIV抗体検査を行ったことにつき、労働者のプライバシー権の侵害として不法行為と判断しています。
 さらにHIV検査については、陽性反応が出た従業員に結果を告知する者は、告知後の混乱やパニックに対処し得る医療者に限られるべきです。判例(HIV感染者解雇事件、東京地裁平成7年3月30日)は、使用者が従業員に感染事実を告知したのは著しく社会的相当性を逸脱し、従業員の人格権を侵害する不法行為であり、ましてそれを理由とする解雇は、感染が業務遂行に特別の支障にならないのであるから違法であるとしています。

 以上から、HIV検査については希望者のみ(同意を得た上で)行うこととし、告知については特別の配慮が必要です。B型肝炎、C型肝炎については、「合理的で相当である」ならば実施するという対応になろうかと思われます。

 作業間違いが多い労働者は、懲戒処分の対象か?
 損害弁償はどこまで求め得るか?(09年6月)


Q 運送の業務に携わっている期間雇用の従業員が、配達時の積み荷の降ろし間違いが多く、顧客に迷惑をかけるばかりでなく、赤帽やバイク便などで臨時の配達を行わざるを得ないなど不要な費用が発生しています。本人に悪気はないものの、何回注意しても反省する態度が見受けられません。そのため顛末書をとり、それでも改善が見られないようであればその先のなんらかの処分も考えています。
(1)減給処分をすることは可能でしょうか?それとも   給与額を見直すべきでしょうか?
(2)損害が発生した場合、給与から損害額の一定割合   を差し引くことは可能でしょうか?

(1)普通解雇を想定するか、懲戒処分を想定するかで   対応は大きく違ってくる

 このケースの場合、「その先」に想定できるのは、懲戒処分(懲戒解雇をふくむ)ではなく、能力不足を理由とする普通解雇と思われます。普通解雇は職務懈怠のような債務不履行を理由とするもので、懲戒処分(懲戒解雇を含む)はそれと違い就業規則に定められた懲戒事由に該当する企業秩序違反行為があったときになされるものです。普通解雇の有効性は、会社がいくら注意・指導・教育しても改善の見込みがない、教育的に別の職場に移して同じような実態であったなど、会社として努力を尽くしたにもかかわらず改善の見込みがないという事実が前提になります。ですから「顛末書」等の処分的な措置ではなく、「注意書」「指導書」のような具体的改善の指示文書を送付、改善のため本人作成のレポートの提出を命ずる、改善のための教育的機会の設定(教育用レジュメ等を残しておく)などが大事です。その上で改善が図られない場合に普通解雇という措置になります。

(2)減給処分か給与額の改定か

 減給処分というのも懲戒処分の一つです。現時点で本人は懲戒的行為を行っているわけではないので減給処分は妥当ではありません。むしろ公平な人事考課の結果として、給与の減額が妥当という判断であれば、本人の同意のもと給与額改定を行うことができます。期間雇用の従業員でしたら、契約更新時に改定を行ってはどうでしょうか。

(3)「損害賠償額の予定」は労基法16条違反

 故意または重過失であった場合、会社が被った損害を本人に請求することは可能です。ただし、そもそも事業を行う過程で従業員が過失を犯し会社に損害を与えることを会社は想定しているはずだという考え方から、全額の賠償を求めることはできません。過失の割合に応じた一定割合の弁償を請求することになります。また、損害賠償を予定する契約、たとえば「給与額から損害額の○%を控除する」という契約は、労基法第16条で禁止されています。あくまでも損害が発生する都度に賠償を請求することになります。