「戦後最長」記録更新する「景気回復」の中で苦闘する中小企業の課題を考える(その1)
今日の景気回復局面、中小企業や多くのサラリーマン世帯の実感を伴わないまま「戦後最長」記録を更新しようとしています。
【中小企業の業況は一服感】
独立行政法人中小企業基盤整備機構が発表した今年第V期(7月〜9月)の「中小企業景況調査」によると、中小企業全産業の業況判断DIは▲20.3で、「2期連続でマイナス幅が拡大」という結果でした。とくに製造業では、パルプ・紙・紙加工品、鉄鋼・非鉄金属の2業種が前期(4月〜6月)を上回ったものの、輸送機械などの他の業種のほとんどが前期を下回り、製造業全体では前期比▲3.6ポイント、2期連続でマイナス幅が拡大しています。
※「業況判断DI」とは、前期と比較して業況が「良い」という割合から「悪い」という割合を差し引いた数値で、この数値が▲20ということは、「良い」と答えた企業の割合よりも、「悪い」と答えた企業の割合が20ポイント多かったことを示している。
【借入金利DIは「上昇」超基調】
今回の「景況調査」では、中小企業の資金調達の中心的手段である金融機関からの借入金の金利に注目し、借入金利DI(「金利上昇」割合−「金利低下」割合)が2005年第W期(10〜12月)から一貫して「上昇」超基調にあるとしています。とくに前期と今期はDI値が急上昇し、過去10年来最高の数値となっており、全産業で20.6(前期比+9.9ポイント)、製造業で26.7(同+13.7ポイント)、非製造業で18.1(同+8.5ポイント)と、いずれも大きく上昇し、「借り難い」状況が進行していることを示しています。
調査対象の企業からは、「石油価格の値上がりから、配送費・包装資材費などが上昇傾向。また金融機関の金利アップから先行きが見え辛い状況となってきている」(製造業)、「金利が0.25%上昇した為、今後金利負担分の上昇をどのように吸収していくか問題」(サービス業)などの不安の声も寄せられています。
【原材料費の上昇を売上単価や客単価で吸収できない】
もう一つ、「景況調査」は、原材料仕入単価DI(「上昇」−「低下」)と売上単価・客単価DI(「上昇」−「低下」)に着目し、その比較から「売上価格・客単価に比べて原材料仕入単価が相対的に高まっており、その差は前期に比べて拡大している」と結論付けています。
実際の数値を見ても、中小企業全体の原材料仕入単価DIは32.6で、「上昇」が「低下」をはるかに上回っていますが、売上単価・客単価DIは▲16.5でいまだ水面下のまま推移し、その差は49ポイント。
原材料が大幅に値上げされている一方で、その値上げ分を売上単価や客単価に転嫁できず、経営状況の悪化を招いている中小企業が多数存在している実態が浮かび上がってきます。調査対象の企業からも「工事単価の上昇も見込めず、さらに原油高の影響で重機の燃料費、材料費の上昇により、適正な利益を確保することが困難な状態になりつつある」(建設業)とか、「石油化学製品の原料価格の高騰により仕入価格が頻繁に上昇。販売価格の転嫁が十分になされないので粗利益率が低下し粗利益が減少」(卸売業)、「燃料の高騰が続き、価格の先行きが見えない。そのなかで運賃への転嫁が進まない」(サービス業)など、全産業から悲鳴の声が上がっています。
【付加価値をいかに高めるか】
こうしたもとで、各中小企業はいかなる努力が求められているのか。
中小企業家同友会全国協議会が同様に実施した「景況調査」(略称DOR)では、経営上の力点について調査をしていますが、「新規受注(顧客)の確保」とあわせて、「付加価値の増大」(50.1%)、「社員教育」(40.3%)などが目に付きます。とくに「付加価値の増大」は、93年4〜6月期に「経営上の力点」の調査をはじめて以来、初めて50%を超えたとのことで、売上高が伸びても利益に結びつかない、原材料価格の高止まりのなかでの経営努力の方向性を示唆するものとして注目されます。
中小企業にとって今日の経営環境は、景気回復局面だからといってみんな揃って業況が良くなるのではなく、企業間の競争に打ち勝たなければ生き残れない厳しさを伴っています。同業他社に負けない中核的な資源・能力を磨くことで付加価値を高め、厳しい経営環境を乗り切る努力が求められています。
「戦後最長」記録更新する「景気回復」の中で苦闘する中小企業の課題を考える(その2)
【K社長の苦悩の日々】
「70を越えて、もういいだろうと思っているんだが、バトンを渡す肝心の相手がいないんだ」。都内で特殊電源装置等の設計・製作を手がける会社のK社長。
若くして独立・起業し、「朝のラッシュで時間をとられるのはもったいない」と毎朝5時半に千葉の自宅を車で出て、7時過ぎには出社するという生活をもう30年以上にわたって続けています。友人の経営する会社の突然の倒産で数千万円の不渡りをつかませられ、一時は「共倒れ」も覚悟しつつも、「倒れるわけにはいかない」と、長い不況期を乗り切ってきました。しかし、昨年妻を亡くし、気力も萎え気味。それでも「小さい会社といえども、うちには7人の従業員がいるし、その家族もある。待っているお得意さんもいる。だから死ぬまで辞められないんじゃないか。それまでになんとか後継者が見つかればいいんだが…」。苦悩の日々が続いています。
【後継者なく廃業7万社、雇用喪失35万人の危機】
中小企業の事業承継問題は、いまや日本経済全体にとっても深刻な悩みです。
『中小企業白書』(06年版)によれば、経営者が引退したいとする年齢は64.5歳。一方、法人企業代表者の平均年齢は58.5歳。その差は数年ほどしかなく、高度成長期に「大量に創業した経営者世代が、現在一斉に引退時期へさしかかっている」と指摘しています。
ところが、引退を希望しても「後継者がいない」ために「廃業」せざるをえないと回答する企業も少なくないのが実情です。『白書』の試算では、中小企業の年間平均廃業数約29万社のうち約7万社が「後継者がいない」ことを理由とする廃業であると推定しています。そして、これによって失われる従業員の雇用は毎年20万人〜35万人に上るといいます。
【「わかっちゃいるが…」準備に手が回らない】
にもかかわらず、中小企業にとって事業承継問題は、日々の業務に追われて先送りされがちで、全体として準備不足の観があります。また、周りの人々にとっても、現経営者が健全なあいだは日々の話題にしにくいという問題もあるようです。
実際、後継者が決定していると回答した企業のうち、「十分に準備している」とした企業はわずか20.1%にとどまり、一方、「不十分」64.0%、「何もしていない」15.9%となっており、後継者が決まっている企業においてさえ、「承継準備」となると不十分である企業が圧倒的です。
また、事業承継の具体的な準備として、@企業経営、A後継者教育、B経営環境、C相続対策の4項目をあげることができますが、とりわけ相続対策準備が遅れていることがわかります(表参照)。
【所有と経営の分離が不十分なもとで】
中小企業の場合、大企業と異なり「世襲」による事業承継が多いのが特徴です。それは、経営者が主要株主を兼ねており、会社の所有と経営が十分に分離されていないことに起因しています。たとえば、役員や従業員などの優秀な第三者に「代表取締役社長」の座を譲っただけでは事業承継とは言えず、自身の持株を譲る必要が生じます。ところが、通常、役員や従業員ではそれを買い取るだけの資金を調達することは困難で、また経営者自身が、金融機関からの借入に対する個人保証を背負っていることも多く、こうした事情が親族以外の第三者へのスムーズな事業承継の障害になっています。そのため、一方で後継者を選ぶ条件として「血縁・親族関係」よりも「経営能力の優秀さ」を重視したいと希望しても、結局は、後継者の続柄は息子・娘をはじめとする「親族」が圧倒的(約84%)ということになっているようです。
【時間をかけ、意識的・計画的な準備を】
この点では、「事業売却」も事業承継問題への一つのアプローチとして検討に値します。後継者がいなくても他社等に所有権を買い取ってもらうことで会社を存続させ、従業員の雇用も確保できるという点で売買双方にメリットがあり、承継すべき親族がいない場合の事業承継の重要な手段として注目されています。
いずれにせよ事業承継は、直面してからでは間に合わない場合が多く、最も計画性が求められる課題です。後継者が決まっていても、その準備に取り組まずに廃業に追い込まれたケースもあります。まずは後継者を決めること、そして、一定の時間を要する課題ですから、意識的・計画的な準備を進めることが大切です。
そのためには、法制面や税制面をはじめとして専門家のアドバイスも必要となるでしょう。日ごろから身近な相談相手を確保しておくことも、事業承継問題へのとりくみの第一歩です。
医療保険制度改正のポイント
〜事業主と被保険者にどう影響するか?
健康保険制度が改正され、平成18年10月より順次施行されています。「少子高齢化」と「保険料収入の伸び悩み」の中で「医療制度を将来にわたり持続可能としていくため」というのが改正の狙いですから、事業主にとっても被保険者にとっても、全体として負担増は避けられません。影響の大きい改正点を中心にポイントを整理します。
T 標準報酬月額・標準賞与額の改定
(平成19年4月から)
〜月額の上限・下限を拡大し47等級に、賞与の上 限額も変わります
【標準報酬月額の上限・下限が拡大】
現行の標準報酬月額等級は1級98,000円〜39級980,000円。所得の2極化が進み、最高等級と最低等級に該当する人が多くなっています。そこで、平成19年4月から上限・下限がそれぞれ4等級ずつ拡大され、1級58,000円〜47級1,210,000円になります(表参照)。
なお、この改定は、従前の標準報酬月額の算定の基礎となった報酬月額をもとに保険者(社会保険事務所等)が行いますので、事業主は特別の手続をする必要はありません。改定された標準報酬月額は平成19年4月から平成19年8月まで使用することになります。
【標準賞与額の上限が年間540万円に】
標準賞与額は、各被保険者の賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てた額ですが、現行は、支給1回につき200万円が上限となっています。平成19年4月からは年度累計(4月〜3月)で540万円になります。1回当たりの上限ではなく、年度の累計額が上限です。
《例:7月に250万円、12月に300万円、翌年3月に100万円の賞与が支給された場合》
現行では、下記のように、賞与支給の度に標準賞与額(上限200万円)に保険料率を乗じて保険料額を算出してきました。
7月賞与=200万円×保険料率 12月賞与=200 万円×保険料率 3月賞与=100万円×保険料率
平成19年4月以降は次のように変わります。
7月賞与=250万円×保険料率 12月賞与=290 万円×保険料率 3月賞与=0円
7月と12月の賞与を足すと550万円となり、すで に年度上限額540万円を上回ってしまうからです。
※なお、標準報酬月額等級の拡大及び標準賞与額の上限の変更は健康保険法の改定であり、厚生年金保険については4月以降も現行どおりです(標準報酬月額等級は1級98,000〜30級620,000円、標準賞与額の上限は1回につき150万円)。
U 傷病手当金・出産手当金の見直し
(平成19年4月から)
〜標準報酬日額の3分の2に引き上げなど
【支給率の引き上げ】
現行では、被保険者が療養のため4日以上仕事を休み、給料をもらえないとき、欠勤4日目から1年6ヵ月の範囲で、標準報酬日額(標準報酬月額の30分の1)の6割の傷病手当金が支給されます。同様に、被保険者が出産のため仕事を休み、給料をもらえないときは、出産日以前42日から出産日後56日までの期間、欠勤1日につき標準報酬日額の6割の出産手当金が支給されています。
平成19年4月からは、支給額に賞与の額を反映させるため、傷病手当金・出産手当金の額が、欠勤1日につき標準報酬日額の3分の2に引き上げられます。
【任意継続被保険者への支給は廃止】
退職すると自動的に健康保険の被保険者の資格を失いますが、被保険者期間が2ヵ月以上あった場合には、引き続き2年間は、個人で健康保険の被保険者になることができます。これを健康保険の任意継続被保険者といい、任意継続被保険者になると、保険料は全額自己負担となる一方、健康保険の給付は在職中と同じように受けることができ、現行では傷病手当金・出産手当金も支給されています。
平成19年4月からは、任意継続被保険者には、傷病手当金・出産手当金が支給されなくなります。これは、本来、傷病手当金・出産手当金は休業中の給料を保証するためのもので、在職中ではない者への給付はなじまないということのようです。なお、平成19年3月31日の時点で傷病手当金・出産手当金を受けていた人は4月1日以後も引き続きうけることができます。もちろん、療養の給付等の給付は従来どおり受けることができます。
【退職後6ヵ月以内の出産手当金も廃止】
現行では、引き続き1年以上被保険者だった人が、資格喪失後6ヵ月以内に出産したときは、出産手当金と、出産育児一時金が支給されています。平成19年4月からは、このうち出産手当金が支給されなくなります。出産育児一時金は従来どおり支給されます。
V 出産育児一時金・埋葬料の見直し
(平成18年10月から)
〜出産には手厚く、埋葬料は減額
【出産育児一時金を35万円に引き上げ】
改正前は、被保険者(または被扶養者)が出産したときは、1児ごとに30万円の出産育児一時金(または家族出産育児一時金)が支給されていました。平成18年10月から、出産育児一時金(または家族出産育児一時金)が35万円に引上げられています。
【出産育児一時金の出産前請求が可能に】
従来は、出産育児一時金(または家族出産育児一時金)は出産後に請求することになっていましたが、平成18年10月以降、事前(出産予定日まで1ヵ月以内)に請求を行うことができるようになりました。この結果、被保険者が医療機関に支払う出産の費用に出産育児一時金を充てることができます。出産後に出産の費用と出産育児一時金との精算が行われ、その差額を、被保険者に支払われる(出産の費用が少なかったとき)、または被保険者が支払う(出産の費用が多かったとき)ことによって調整します。
【埋葬料は5万円に定額化】
改正前は、被保険者が死亡したときは、埋葬を行った家族に、故人の標準報酬月額の1ヵ月分の埋葬料が支給され(家族がいないときには埋葬にかかった費用が埋葬費として支給)、被扶養者である家族が死亡したときは、被保険者に家族埋葬料として10万円が支給されていました。
平成18年10月からは、埋葬料の額が、故人の標準報酬月額に関係なく、一律5万円の定額となりました。家族埋葬料の額も5万円に引き下げられました。
W 患者負担の割合の見直し
(平成18年10月、平成20年4月から)
〜70歳以上の負担割合を引き上げ、2割負担を義 務教育就学前に拡大
【70歳以上の人の負担割合を引き上げ】
従来は、健康保険で医療を受ける70歳以上75歳未満の被保険者・被扶養者(高齢受給者)は、かかった費用の1割(現役並み所得者は2割)を一部負担してきました。これが次のように負担割合が引上げられました(所得区分の詳細は略)。
@現役並み所得者の負担割合が2割→3割(平成18年
10月から)
A一般・低所得者の負担割合が1割→2割(平成20年4月から)
【2割負担を義務教育就学前に拡大】
3歳未満の乳幼児は、現在自己負担額が2割に軽減されています。これが平成20年4月から義務教育就学前までに拡大されます。
上記以外の主な改正点を項目のみ列挙しましょう。
●高額療養費の見直し
〜自己負担限度額の引き上げ等(平成18年10月、平成19年4月、平成20年から)
●入院時生活療養費の創設
〜70歳以上は食費・居住費を負担(平成18年10月から)
●保険外併用療養費が創設
〜高度先進医療と差額ベッドなどの選定療養が、保険外併用療養費に再編(平成18年10月から)
●新たな高齢者医療制度が創設と保険料の見直し
〜75歳以上の高齢者医療制度が独立した医療保険制度となる。その支援のため保険料を見直し(平成20年4月から)
若年労働力減少時代にどう対応するか
〜中小企業の採用戦略を考える(その1)
◆厳しい若年労働者の採用◆
今、中小企業の経営、とりわけ人材問題をめぐって、切迫した問題が山積しています。団塊の世代の退職に伴う退職金資金の枯渇、バブル時代の採用増と不況期の採用控えに伴う従業員年齢構成のいびつさ、技能・ノウハウの伝承の危機などなどです。若い人の採用を求めても、中小企業の募集に対しては反応は減り続けている状況です。
働こうとする若者はいったいどれだけいるのでしょうか。今、日本の若年人口は減少し続けています。さまざまなデータがありますが、わかりやすく全国の新成人(20歳)の人口を過去20年間で見てみましょう。20年前の1986年に20歳人口は182万人、バブル崩壊後の1994年の207万人をピークにその後は減少し続け、昨年の2006年は143万人とピーク時の69%になりました。今後も減り続け、2015年には124万人になると予測されています(国立社会保障・人口問題研究所推計)。東京都では、さらに厳しく1986年の24万人いた20歳人口が2006年には半分近い13万人になっています。
さらに差し引かなければならないのは、学校卒業後すぐには就職しない層の増加です。大学院への進学、海外への留学、また、ニート・引きこもりの若者も増える傾向があること。一方、「景気回復」に伴い、大手企業の大学生の求人数が増加し、特に都心部での中小企業の大学生の採用は、実際の数字以上に厳しくなっています。
大学進学率は上昇し続けていますから、新卒採用を考えるなら大学生を無視して考えることはできません。2006年春の高校生卒業者の大学進学率は41.8%で昨年より上昇、短大への進学率は7.1%、専門学校への進学率(現役)は18.2%でそれぞれ低下。高校生の進学先が、短大・専門学校から4年制大学にシフトしています。学生の定員割れを起こしている大学も多い中、新規の大学、学部増が続いており、大学進学率が高まる傾向はまだまだ続きそうです。
◆今時の大学生の就職活動ってどうなってるの?◆
今回は、一昔前とは様変わりした、大学生の「就職活動」の実際を知ることから始めたいと思います。たしかに昨年くらいから、団塊の世代の退職と、大企業の採用増で、大学生の就職は、売り手市場となり企業の採用活動が激化しています。ただし、実際の学生は「売り手市場で楽な就職活動」というほど単純でもないようです。一口で言えば、企業側も採用するのが難しく、学生側も就職活動は楽ではない状況があるようです。
◆手取り足取りの就職指導◆
バブル崩壊後の「就職超氷河期」時代を経て、学校の就職指導内容も相当充実してきました。就職活動は3年生になったばかりの春先、学校での就職指導から始まります。連続で「就職講座」や「キャリアデザインセミナー」などの名称で授業を実施する大学も多くなり、その内容も、履歴書の書き方、企業への応募(登録)の仕方、面接の仕方、作文の書き方、適性検査の練習、学校によってはリクルートスーツの選び方、お化粧の仕方、マナー研修まで一昔前では考えられないような多岐にわたります。
◆一年以上続く就職活動◆
時期と期間はどうなっているでしょうか。以前は有名無実といわれながらも「就職協定」があり、理工系の一部の学生を除けば、大半の学生の就職活動の時期はある程度一定期間に保たれていました。就職協定がなくなった現在、学生の就職活動は、早期化と長期化の傾向が強まっています。採用内定が4年生の夏休み以降に決まる学生の場合は、学校の就職指導が始まる3年生の前半から1年半に亘って就職活動を続けることになります。当然、学校の授業もあるので就職活動と授業との両立も一苦労です。ゼミの先生からは「3年の後半から4年の前半はまともにゼミの授業ができない」と嘆く声も少なくありません。
◆人材不足でも企業側の採用基準は下がらない◆
一方で学生側から企業側へのアプローチも、3年時に「リクナビ」や「毎コミ」などと呼ばれるインターネットでの就職サイトへの登録から始まり、個別企業への応募、登録、数10社が合同で会社説明会を行う合同セミナーへの参加、個別企業のセミナーなどの、多くの段階を経て初めて採用試験までたどり着けます。
「景気が回復している」とは言っても気を抜けない厳しい経営環境であることには変わりなく、「人材はのどから手が出るほど欲しいが、採用の基準は下げない」というのがほとんどの企業の考え方です。そんな企業側の方針を反映して、採用試験も一回で済むところはほとんどなく、筆記試験、適正検査、作文を数回、面接試験も数回と積み重なります。挙句の果てに、最終の役員面接で落とされると、「交通費を掛け、授業を休み、ここまで何回も来るなら、早く落としてもらったほうが良かった」と嘆く学生の声も理解ができます。
◆みんな同じレールを歩き続ける◆
ほとんどの学生がインターネットを中心に同じサイトに登録し同じツールを使って就職活動を行っているので、情報源も偏り応募企業も集中することになります。業種を絞って活動する学生たちは、同じ企業に応募し、内定が出されていくのも上位の学生から順番となります。最近の学生は、内定を一つや二つもらっただけで就職活動を辞めてしまうということはなく、優秀でどこを受けても内定をとってしまうような学生が就職活動をやめない限り、内定をなかなかとれない学生は、いつまでたっても順番が回ってこない、そんな図式が出来上がっています。インターネットの就職活動という敷かれたレールから外れて独自の就職活動ができれば違った可能性も生まれるのですが、いまどきの若者にとってみんなと違うことをするのにはかなりの勇気がいるようで、就職活動が長引く学生ほど同じことを繰り返すだけの就職活動が続きます。
多くの学生の苦悩は企業側から見るより複雑な状況となっています。
若年労働力減少時代にどう対応するか
〜中小企業の採用戦略を考える(その2)
◆大学や専門学校を窓口として採用する◆
大学の就職窓口といえば「就職部」というのは一昔前の話。今の大学の多くは「キャリアセンター」という名称になっています。キャリアセンターの役割は従来の卒業後の就職を斡旋するというものから、「学生が職業生活を営む能力を身につけ主体的に将来設計をしていく」ことに引き上げられています。学生と企業との就職の仲介だけでなく、積極的にスキルアップのための講座を開いたり、インターンシップの受け入れ窓口になったりしています。キャリアセンターが主催して組む就職講座には、授業のひとつとして単位が認められている場合さえあります。
◆求人票を提出することが基本です◆
企業が採用のために学校に提出する最初の書類は「求人票」です。従来は、学校が独自の求人票を作っていることが多かったので、提出する学校ごとに企業側が手書きで作成し直さないといけませんでした。それが煩雑だったため提出しない企業もあったようですが、今、それぞれの企業が作成した求人票をそのまま受け付ける学校が多くなっています。また、学校のホームページから書式をダウンロードできたり、求人票の送付をメールでも受け付けるなど、学校によって様式やサービスは毎年変わっています。年々合理的な方向で変化していますので、求人票を郵送やメールで送るだけでも受け付けてもらえます。
それにしても、やはり求人票を提出した学校へは最低一度は訪問をしてキャリアセンターの方々と話しをすることをお勧めします。学校の職員は「学生から相談を受けた際、担当者の顔もわからない中小企業は紹介しにくい」とはっきり言っています。求人票からでは伝わりにくい自社の強みを直接話すことは大きなポイントとなります。「ここぞ」という学校には求人票と自社の資料を持ちアポをとって訪問するようにしたいものです。
◆理工系は教授と会うこと◆
理工系の大学の場合、採用に関しても職員ではわからない専門的な内容となることが多くあります。その場合は、キャリアセンターを窓口に、研究室の先生を紹介してもらうことが必要です。職員の中に技術的に細かいところまで理解してくれる人がいる場合もありますが、自社や学生の研究テーマと共通性があるかどうかは別の問題です。ぜひ関連するテーマの教授がいるかどうかを尋ね、いる場合は「研究室の先生を紹介して欲しい」とお願いしてみます。就職担当者を頭越しにするようで抵抗を感じる人も多いようですが、その企業の技術力や将来性に魅力を感じれば積極的に研究室の先生を紹介してくれるものです。
大事なことは、紹介するに値する企業かどうかを認めてもらうことです。そのためにも自社のアピールポイントを明確にして、「○○の事業展開のために○○の力を持った人材を採用したい」と説得できる中味を持って訪問したいものです。研究室のテーマと自社の技術とがマッチすることはお互いに大きなメリットとなります。さまざまな学校で機会あるごとに追求してみて下さい。
◆学内の会社説明会に参加する◆
多くの学校では、学内に企業を招いて会社説明会を開催しています。キャリアセンター主催で、「合同学内セミナー」と称し、講堂や大きな教室で民間のセミナーさながらに実施しています。参加企業のリストは、掲示板やEメールを使って事前に学生に伝えられるので、希望する学生は授業の空き時間を使って効果的に参加することができるので好評です。
企業の参加は無料なので希望する企業は多いのですが、スペースが限られている上に、センターが参加企業を選ぶ方式ですので、参加のハードルはかなり高くなります。参加できるかどうかの基準は、採用実績優先が多いようです。採用実績のない企業には狭き門ともいえますが、年に何回も時期を変えて開催する学校も多いので、採用実績がなくても訪問してお願いをしてみましょう。
いずれにしても、学校へは求人票を提出していることが前提ですのでくれぐれもお忘れなく。
若年労働力減少時代にどう対応するか
〜中小企業の採用戦略を考える(その3)
◆採用にインターネットは必須◆
大学生を採用するにはいくつかの方法があります。今回はインターネットを活用した採用活動をみてみます。
リクルート社が運営する「リクナビ」や毎日コミュニケーションズが運営する「毎コミ」などの「就職サイト」は、学校が積極的に学生へ登録を勧めていたり、学生の登録・利用が無料であること、24時間いつでも操作ができることなどから、ほとんどの学生が活用しているツールといわれています。学生は自分の能力や就職の希望条件を登録することにより、希望条件にあった企業をWEB上で探し出したり、逆に企業から連絡をもらうこともできます。会社説明会の日程を調べたり個別企業への応募もできることから、就職活動のほとんどの時間をコンピュータと向き合って過ごす学生も少なくありません。インターネットで登録した企業からの返信メールが来ないと、その段階で「この企業には落とされた」と判断し、その企業へは応募さえしない学生が多いのです。就職サイトに掲載されていない企業(あえて言えば有料広告を出していない企業)には、考えも及ばないほど学生は就職活動をインターネットに頼っています。
◆採用のため「就職サイト」に求人登録する◆
圧倒的多くの学生が利用している「リクナビ」「毎コミ」「日経ナビ」などのインターネット就職サイトを有効的な活用方法やデメリットについて考えてみましょう。
企業側は、募集要項を登録し運営会社に払う金額によってさまざまなサービスを受けることができます。たとえば、「都内の理工学部の四大生で留学経験のある学生」などかなり細かい条件で絞ってその学生に会社説明会の案内をメールで送ることも可能です。もちろん、サイトの運営会社から学生へ案内をしていく間接的なWEBシステムですから、学生の名前や連絡先はわからず、学生からの応募を待つしかないのですが、それでも、多くの学生に告知できることに加えて、特殊な技術を持つオンリーワン企業などは、自分の企業の事業内容にマッチする勉強をしてきた学生にピンポイントでアプローチすることができます。
最大の難点は、数十万円から数百万円のコストがかかることです。料金の考え方は広告と全く同じですから、多くの学生や数少ない優良学生を指定して案内しようとするとどんどん料金は上がっていきます。
また、学生側が希望条件にマッチする企業をWEB上で探す場合、一度に多くの企業が検索結果として表示されることから、中小企業の場合にはその中で学生からのアプローチ順位が下がることが多く、なかなか応募をしてくれません。そのため、一度アプローチしてくれた学生を少しでも説明会などへ呼び込むために、企業側からこまめにメールなどでアプローチをしないと待っているだけでは採用まで結びつき難いようです。便利なインターネットとはいっても、成果を出すには多少のコツと思いのほか手間もかかります。そこに専門の人員を配置できるかどうかは中小企業には大きな課題となります。
◆自社のHPを充実させよう!◆
さらに、前提として、その企業が自社のホームページ(HP)を持っていることが問われます。これだけインターネットに頼っている学生にとっては、HPを持っていない企業は企業として見ていないとさえいえます。大学生の採用を考える企業にとって自社のHPは必須の条件です。ただし、自社のホームページ上で採用募集をしていても、掲載しているだけで学生からの応募があることはまれです。他の採用活動や、就職サイトなどのツールとあわせて、学生からいつでも受け付けている窓口として考えましょう。
入管行政への不理解が招いた
不幸を繰り返さないために
〜 4年半の歳月をかけて幸せな国際結婚を取り戻したTさんの記録 〜
鎌田勝典 板垣義則
【メーデーのノボリ旗が出会いのきっかけ】
2006年5月のゴールデンウイーク明け、突然、日中友好協会本部副理事長のMさんから電話がありました。「日本人男性が中国の女性と正式に結婚しているのに、奥さんにビザがおりないそうだ。相談にのってくれ」というのです。
その日本人男性がTさん。現在61歳。ビル管理の仕事をしている実直そうな方です。後で詳しく紹介しますが、Tさんは上海出身の女性Sさん(現在44歳)と結婚し、可愛い6歳のお子さんもいます。そんなTさんが遭遇した事件とは、2002年の11月、妻のSさんとお子さんが、上海に一時帰国した後、日本に再入国できないままだというのです。
困り果てていたTさんが、5月1日、代々木公園の前を友人とたまたま歩いていたとき、偶然目にしたのがメーデー会場の「日中友好」のノボリでした。「ここならば相談にのってくれるかもしれない」、そんな藁にもすがる思いでMさんに話しかけたのです。実はこれが運命の出会いでした。
【出国時に不法滞在状態だった】
過去に遡りましょう。Sさんは、Tさんと出会う前の1993年、上海で、ある日本人男性と見合い結婚し、同年6月に来日しました。もちろん在留資格は「日本人の配偶者等」。ところが、その日本人男性は約束を守らない横暴な方だったようで、結婚生活はうまくいきませんでした。結局、Sさんの知らないうちにその男性は一方的に区役所(東京23区)に離婚届を出したのです。Sさんは、区役所に外国人登録の更新手続に行った時、離婚手続をとられていることをはじめて知りました。
通常、日本人と結婚していた外国人が離婚した場合、現在許可されている期限内しか日本滞在は認められず、在留資格の更新もできません。「あなたの在留理由はなくなった。直ちに帰国しなさい」ということになり、悪質な不法滞在とみなされれば強制的に国外追放となります。入管職員が悪いわけではないのですが、不法滞在となっている外国人にとって、入管は血も涙もない役所というイメージがあり、怖くて近づけない存在なのです。Sさんもその例外ではありませんでした。当時の彼女には相談する日本人の友人もおらず、精神的にも財力の面でもぼろぼろの状態でした。
TさんがSさんと出合った1994年の秋はそういう時でした。当時、Tさんが働いていた会社近くの食堂で、Sさんは在留期限切れのままアルバイトをしていたのです。毎日のようにそこで昼食を食べていたTさんは、Sさんの身の上話を聞くようになり、だんだん親しくなっていきました。同棲、妊娠、出産まで、それほどの時間はいりませんでした。お子さんが生まれたこともあり、Tさんは区役所に婚姻届を出そうとしたのですが、その時はじめてSさんからいま不法滞在状態にあることを告げられたのです。驚いたTさんは、“婚姻届を出すと妻が捕まってしまうのではないか”と考え(注:婚姻届を出しても受理されます。また、それで入管につかまるというようなこともありません)、子の出生届と認知届だけを済ませたのでした。
それにしても、この状態のまま平穏に暮らしていれば、Sさんはいずれ日本人の子の親として在留が認められるはずでした。しかし、悲劇は突然訪れました。2002年11月、Sさんの上海の実家から「お父さんが病気で危ない。娘(Sさんのこと)に会いたいと言っている。帰国できないか」という電話があったのです。中国人の家族の結束の強さは有名ですが、Sさんも意を決し、入国管理局に出頭し帰国の意思を表明しました。幸いにも入管はSさんが自ら入管に出頭したため、収容されることなく誓約した出国予定日に上海に帰ったのです。夫(Tさん)は、せいぜい10日、長くても1ヶ月ぐらいで妻(Sさん)と子はまた日本に戻ってくるだろうと考え、成田ではにこやかに“さよなら”の手を大きく振って見送ったのです。ある入管職員の「奥さんは一度出国すると再入国できませんよ。いいんですか?」と親切に言ってくれた言葉の意味がよく飲み込めなかったのです。
しばらくして上海にいるSさんから、「いままで不法滞在だったので、これから最低でも5年間は日本に入国できない!」と電話が入りました。そのときのTさんは、“入管に謀られた!”という恨みの気持ちでいっぱいでした。
それから3年半、Tさんは、年に1、2回、上海へ行って妻と子に会う(2005年3月には上海で結婚式も挙げ、その後日本でも婚姻届を出しました)一方で、繰り返し入国管理局に在留許可申請を行い、そのたびに入国管理局から拒否されるという日々でした。入管職員から「行政書士さんに頼んだらどうですか」と言われ始めてもいました。
【「反省がない!」ことが壁だった】
依頼を受けた私たちは、まずTさんが過去入管に提出した書類のすべてを届けてもらい、入念な検討を行いました。たしかに形式的には入管に出すべき書類を揃えて申請しているのですが、Tさんの反省の弁がどこにもない、これが最大の壁になっていることは一目瞭然でした。
不法滞在者に課される「再入国5年間禁止」のペナルティとは、いわば最低5年間は「反省期間」「謹慎中の身」だよという意味です。逆に言えば、仮に5年を過ぎても、反省しないまま在留許可申請をしても認められないということです。しかも反省は、ただ形式的にすればいいということではなく、心から反省しているという心証を入管当局に与えるものでなければなりません。
そもそも今回の悲劇は、日本人である夫(Tさん)が、日本の法律の知識を持ち合わせていなかった、あるいは持つ努力を怠ったところから生まれています。国際結婚をする以上、日本人配偶者が外国人配偶者に対して日本の法律を教える責務があります。Tさんに指摘したことはこのことでした。さすがにTさんも、「はい、申し訳ありません」とたじたじの様子でした。
【必要文書をそろえ申請へ】
入国管理局長および法務大臣宛のTさんの陳情書とSさんの謝罪文、婚姻の形式上および実質上の証明(偽装結婚ではないことの証明)を含め、以下の書類を揃えることにしました。
1.在留資格認定証明書交付申請書
2.写真2枚
3.返信用封筒(切手430円)
4.日本人の配偶者である場合の立証資料
@上海での結婚式の証明書(上海市公証印付) と日本語訳
A妻(Sさん)の出生届証明書(上海市公証印 付)と日本語訳
BTさんの戸籍謄本
CTさんの住民票
DSさんの上海での就職証明書
ETさんがSさんの身元保証人であることを明 らかにする身元保証書
5.その他参考となるべき資料
@夫Tさんの陳情書
A妻Sさんの謝罪文
BSさんのパスポート写し
C家族が日本で一緒に暮らしていたときのスナッ プ写真集
D退去強制後、Tさんが上海へ行ったときの家 族スナップ写真集(3回分)
ETさんの在籍証明書
FTさんの源泉徴収票(平成17年分)
G娘の出生届済み証明書写し
HTさんの自宅所在地地図
これらをすべて揃えるのには時間と労力がかかります。なにしろ外国にいる妻と手紙でやり取りしながら書類を集めるのですから、こちらが考えているテンポどおりにはいきません。日本の役所の公文書の有効期限は発行から3ヶ月ですから、あまり早く集めると逆に有効期限切れになってしまいます。それらを根気強く、かつ計画的にすすめて、東京入管に申請したのは、相談を受けてから半年ほど経った2006年11月9日でした。
【4年半ぶり日本での生活が始まった】
その後、追加資料として、@娘さんに対する神奈川の市教育委員会からの就学時健診のお知らせや入学通知書など、子の小学校入学が迫っていることを示す諸資料、ATさんの陳情書、B上海の娘さんからの陳情書等を提出しました。追加資料提出時には「すでに申請後4ヶ月経っているので審査官にお会いしたい」と面会も申し込みました。面会に応じてくれた審査官は、「大変遅くなりましたが審査は終了しました。法務省からもすでに書類が返却されましたので、来週にも通知ができると思います」という返事で、申請書類に対する問題点の指摘等は一切ありませんでした。
まもなくSさんの在留資格(=「日本人の配偶者等」)の認定証明書が送られてきました。日付は審査官と面談した2007年3月9日。同4月25日、「いま成田に着きました」(Tさん)、「I am happy!」(Sさん)、「おじさん、ありがとう」(娘さん)と立て続けに電話が入りました。「今日娘がクラスの友達にあいさつしました。元気に小学校に通っています」、Tさんの電話の声ははずんでいました。