◆遺言・相続の関連記事


04年3月第11号

もめる遺言書と新しい贈与制度

 今回は、亡くなられた両親の土地の相続をめぐる4人の子どもたちの相続事件です。当初、4人の子ども(長男、次男、長女、三男)はそれぞれに結婚し、独立して世帯を構えていました。その後、老親の介護のため、長女夫婦がマンションを手離し、実家に戻って両親とともに暮らしてきました。正月には兄弟も集まり、多少の介護の苦労はあっても長女はまさかこんな事態が身に振りかかるとは思いもせずに過ごしてきたのです。

 母が亡くなって8年後、父を看取った後、遺言書が発見されました。その内容は、「長男に10分の3、介護の労に報い長女に10分の3、次男、三男はともに10分の2ずつとし、家はできる限り売らないでほしい」というもの。主たる遺産は、長女夫婦が現に10数年も住みつづけてきた実家の不動産のみでした。

 こうして長女は、49日も終わらぬうちに相続ならぬ争族事件の渦中の人となったのです。「応分の金を払えるのか。払えなければ住まいを売って払ってくれ」と男兄弟3人から攻め立てられます。すでに土地の名義は遺言どおり4人兄弟の共有名義にされてしまい、「知らないうちに売却されてしまい、住むところもなくなってしまうのでは」という不安にかられ、しまいには不眠症から心身症を引き起こし、兄弟たちの顔を見るのも口も利くのも怖くなって相談にみえました。家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをし、第三者機関を通して、早期に解決をはかることにしました。

 今回問題となったのは、父親が兄弟互いに争わぬようにとの思いから遺した遺言書の中身です。つまり、「不動産は売却して換金しない限り分けにくい」という落とし穴がわかっていなかったために、矛盾した内容の遺言から争いが生じてしまったのです。

 ちなみに、平成15年度に「相続時精算課税制度」という新しい贈与制度が創設されました。親が生きている間に自身で、子ども1人につき2千5百万円までは税金がかからずに財産を贈与できるというものです。せっかくの遺言、書くその前にちょっと専門家に相談することも「争族の予防」として大事です。


03年8月第4号

江戸時代にタイムスリップした相続事件

 行政書士は職務上、戸籍謄本などを全国各地の役所に請求できます。

 ある高齢の方から依頼された相続事件。亡くなられた夫(Aさん)が残した遺言書は「自筆証書遺言」でしたので、家庭裁判所に「検認」の手続をしてもらわなければなりません。Aさんの戸籍をたどり法定相続人を特定するわけですが、昔の人は兄弟姉妹も多いので、30通ぐらいは戸籍謄本の請求が必要だろう、それでも登場する年代は「明治」まで、と思っていました。

 しかしありました。「安政五年」「嘉永五年」。Aさんの祖父、祖母が生まれた年です。現在の戸籍簿は、一組の夫婦を中心に編成され、子が結婚すると別の戸籍が作られます。ところが明治民法下の戸籍は、戸主を基本とし、一戸ごとに編成されています。戦前までつづいた家督相続制度。Aさんの祖父がAさんの父に家督を相続した結果、Aさんの祖父、祖母がAさんの父の戸籍に入っていたのです。

 「安政5年」(1858年)といえば「安政の大獄」の年。アメリカ総領事ハリスの激しい開国要求、尊皇攘夷派の勃興という江戸幕府の難局を乗り切るために登場した最後の切り札=大老・井伊直弼。井伊らによって吉田松陰、橋本左内ら「反幕」とみなされた者が一網打尽に処刑された空前の大獄でした。

 「嘉永」といえば遠山の金さんが活躍した時代。「この桜吹雪が目に入らぬか!」と裁く庶民派の名奉行。若い頃の放蕩生活も有名ですが、背景には複雑な家庭事情があったようで、彼の出生届は実際より一年遅れて出されています。金さんが町奉行を辞任したのは「嘉永五年」(1852年)、Aさんの祖母が生まれた数日後でした。

 井伊大老と遠山の金さん。同じく「権力」をもつ身でも、その矛先は正反対に向いていました。さて時は2003年8月。権力におもねらない姿勢を貫きたいものです。


03年11月第7号

お年寄りの願いと遺言書  (相続事件PART2)

 今回は、配偶者も直系卑属(子や孫)もいないお婆ちゃんの遺言書の作成です。まず願いを聞くところから始まります。

【前の遺言と後の遺言】

 「死に水をとってくれる人に相続したい」というのは誰しも思うこと。最初はAさんと思っていたら、Bさんの方がよく面倒をみてくれたということはよくあることです。遺言書は何回書いてもよく、後に書いた遺言で前の遺言を取り消すことができます。自筆証書遺言方式が一番簡単で、前の遺言の取り消しも容易です(他に公正証書遺言、秘密証書遺言の方式がある)。

【遺言執行者の指定と祭祀承継】

 遺言書には何を書いてもいいわけですが、法律上保護される遺言の範囲は、認知、財産処分、相続分の指定、遺産分割方法の指定など10種類に限られています。

 遺言の内容によっては不動産の登記変更など事務手続きが必要な場合があります。「遺言が確実に実行される保障をつくって安心したい」と思われる場合、遺言書で遺言執行者の指定をしておく方法があります。

 また、「お墓を守ってほしい」というのも当然の願いです。祭祀の主宰者、お寺の住職さんとの話し合いなど「祭祀承継」のことを遺言書にしたためておきましょう。

【突然の病の不安】

 遺言ではありませんが、「いつ突然倒れるかわからない」という不安もあります。

 誰が入院その他の面倒を見るのか、預金通帳等の管理をどうするのかなどをいまから信頼できる人との間で委任契約を結んでおくことをお勧めします。任意後見人という制度もありますが、家庭裁判所が後見監督人を選任するまで数ヶ月かかってしまい、意外と実効性の乏しい制度です。