<中小企業にとって新会社法とは>
05年7月第27号
【中小企業に大きな影響を与える新会社法】
新会社法が成立し、06年4月から施行される見通しです。@商法第2編「会社」、A「有限会社法」、B「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」の3つに分かれていた会社に関する法令を、会社法として一つの法典として再編成しました。
97年の商法改正以後、毎年のように商法が改正されてきました。しかし、それらは主に大企業を対象にした改正や部分的な改正だったため、中小企業の経営にはそれほど大きな影響を与えませんでした。今回の大改正は、この間の改正の流れを汲みつつも、同時に会社法制の全面的な見直しであるため中小企業の経営にも大きな影響を与えます。
【新規設立は株式会社のみ】
新会社法では有限会社が廃止となり、新規に設立できるのは株式会社に一本化されます。なお、いまある有限会社は、そのまま有限会社として存続し続けるのか、株式会社になるのか、どちらかを選択することになります。
現行商法は、会社を「大会社」「中会社」「小会社」の3つに分類していますが、新会社法は、「大会社」と「大会社以外の会社」の2つに分類した上で、それぞれについて「株式譲渡制限会社」と「株式譲渡制限会社以外の会社」に分類します。現在の日本の会社は有限会社(約150万社)と株式会社(約100万社)が97%を占めます。株式会社の大部分は、定款に「株式を譲渡するには取締役会の承認を受けなければならない」とする規定を置く非公開的な会社です。新会社法は、こうした「株式譲渡制限のある株式会社」と「有限会社」の2つの会社類型の統一を図る狙いがあるのです。
【最低資本金規制の廃止など】
新会社法によって、株式会社設立が簡単になります。その理由を列挙すると…。
@最低資本金規制が撤廃…設立の際に必要な最低資本金(株式会社1,000万円、有限会社300万円)が、新会社法では撤廃されます。現在でも、最低資本金の特例により、いわゆる「1円会社」を設立できますが、この特例が一般化されるのです。
A役員の数や任期が変更…現在は、株式会社は取締役3人と監査役1人の役員が必要最低数で、任期は取締役2年、監査役4年とされています。新会社法では、株式譲渡制限会社で定款により取締役会を設置しないとする会社は、取締役1人だけでよく、任期も定款で最長10年まで延ばすことができます。
B類似商号規制の廃止、株式払込金保管証明書が不要に…現在は、会社設立に際し、同業他社の商号と類似の商号は禁止されていますが、この規制は廃止されます。また、登記の際に必要な金融機関の株式払込金保管証明書の発行が不要となり、残高証明書または通帳のコピーで間にあうことになります。設立実務が簡便になるわけです。
05年8月第28号
【定款自治の拡大と機関設計の自由化】
新会社法は、従来の有限会社がもっていた内部的な自治を、会社法制全体の中で大幅に認めるという性格が濃厚です。その典型が、定款自治の拡大、機関設計の自由化です。
現在会社設立時の定款の絶対的記載事項は7事項ですが、新会社法では5事項(@目的、A商号、B本店の所在地、C設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、D発起人の氏名または名称および住所)です。従来定款は同じ雛形で作ることにこそ価値がありましたが、今後は機関設計の多様化などと相まって多様な定款が予想されます。
機関設計についてみると、現在、株式会社は、@取締役会と監査役は必置、A取締役の数は3人以上、B任期は取締役2年、監査役4年という一律の厳格な規制があります。その結果、取締役・監査役が名目的に設置されている株式会社が少なくありません。
新会社法では、特に株式譲渡制限会社について、最低限の機関設計のみを定め、企業の成長段階に合わせた柔軟な機関設計の選択を認めました。具体的には、@取締役1名をおけば、取締役会も、監査役および監査役会も設置しなくてもよく、A取締役・監査役の任期は、定款で定めれば最大10年までとすることができます。
【会計参与制度の導入】
また、新会社法は新しく会計参与制度を導入しました。現在、会計監査と業務監査を行うのは監査役です。しかし、中小企業にとってそうした本来の役割を担う監査役の確保は困難です。会計参与制度は、税理士(または公認会計士)が、取締役と共同して計算書類の作成を行うことにより計算書類の信頼性を高めようという狙いです。会計参与を設置するかどうか、監査役に代えて設置するか、監査役と同時に設置するか、すべて任意です。
たしかに最近の金融機関の融資姿勢は、物的担保等を中心とする審査から、企業の財務や計算書類等の信頼性などを重視する方向へ変化しています。融資の獲得という観点から見れば、一考の価値ある制度です。
【新会社法下の機関設計の視点】
さて、新会社法下で中小の非公開会社は、実に17通りの機関設計が考えられることになります。@取締役会を設置するかどうか、A監査役を設置するか、限定監査役(会計監査に限定された監査役)を設置するか、いずれも設置しないか、B会計監査人を設置するかどうか、C会計参与を設置するかどうかなどを考え、その組み合わせを判断し、さらに役員の任期なども選択しなければなりません。
選択・判断のためには、第一に、経営の実態に即した機関設計をするのか、社会的信用を重視した機関設計をするのか、意図・目的を明確にする必要があります。第二に、将来の経営・リスクを想定した戦略的発想が必要です。役員の任期一つとっても、商業登記費用の節約だけを考えれば10年という判断になるでしょうが、社内の内紛等のリスクも考慮する必要があります。また、家族経営の場合は取締役非設置会社でいいでしょうが、他人の出資を受け入れる場合は、取締役設置会社の方が株主総会の権限も限定され効率的という判断も生まれます。よく考えたいものです。
05年9月第29号
【有限会社はどうなるのか】
新会社法の成立により有限会社法は廃止となります。そうすると現存する有限会社はどうなるのでしょうか?2つの選択肢があります。
1つは、株式会社になる道です。手続は、@定款を変更してその商号中に「株式会社」という文字を用いた商号の変更を行い(新しい商号は変更前の商号と類似の商号である必要は全くありません)、A有限会社の解散の登記と、移行後の株式会社の設立の登記を行うことです。いったん株式会社に移行したら有限会社に戻ることはできません。
もう1つは、「有限会社と名乗る株式会社」(「特例有限会社」と呼びます)になることです。旧有限会社の社員は株主となり、持分は株式となり、出資1口が1株となりますが、商号は「有限会社○○」のまま維持されます。原則として株式会社に対する会社法の規定の適用を受けますが、旧有限会社が持っていた数々の「特例」(取締役の任期がない、決算公告は不要など)を受けることになります。
「労せずして有限会社を株式会社にできる」と喜ぶ向きもありますが、事はそう単純ではありません。今後「1円会社」も含めすべての会社が原則「株式会社」を名乗るわけですから、世間は“株式会社だから使用できる”とは単純に見なくなるでしょう。有限会社の「特例」を受けられないデメリットと株式会社に移行するメリットについて、考えどころです。なお、新会社法後は有限会社を設立できないことになります。はたして有限会社をなくす必要があったのか疑問の残るところです。
【新しい会社類型=合同会社・有限責任事業組合】
ノウハウや技術、アイデア、頭脳、特化商品などを持ち、それらを生かそうとする個人やベンチャー企業たちの要望の中で生まれたのが、合同会社(LLC)と有限責任事業組合(LLP)です。これらはアメリカやイギリスですでに行われている新しい会社類型で、アメリカではS・スピルバーグ監督らが設立した映画会社など、この10年間で80万社のLLCがつくられています。LLCは新会社法施行(18年4月)によりスタートしますが、LLPはこの8月1日にすでにスタートしました。
それらの主な特徴は、@出資者の責任は有限責任、A内部自治の原則(損益の配分や組織内部の取り決めは自由に決められる)などです。LLCとLLPの違いは、LLCは法人に課税されるのに対し、LLPは出資者に直接課税される(構成員課税)ということです。構成員課税ですから、出資者が個人の場合は会社の損失と個人の所得を足す(節税する)ことができます。出資者が会社の場合だと、出資先の子会社には税金がかからずに出資元の親会社のみに税金がかかることになるので、子会社が大きな損失を出しても親会社の利益と相殺して、親会社の税金を減らすことができるという節税メリットが出てきます。
NTTドコモ、JR東日本など3社は、今秋に電子マネー「スイカ」の普及に向けたLLPを共同で設立するとのこと。中小企業分野でも、大阪の機械部品を作る町工場の仲間が、組み立てメーカーへの営業活動や設計を、LLPをつくって一本化する計画などが報道されています。各企業のもっている技術を生かしながら、お互いの不得意な分野を補う、そんな活用の仕方が期待されます。
07年6月第50号
新会社法が昨年5月に施行され1年が経過しました。経営に対する影響がさまざま取り沙汰されていましたが、実際のところ、企業側の対応はどうだったのかを中小企業庁のサンプル調査を中心に見てみます。
【有限会社の株式会社への移行は11.1%】
まず新会社法の特徴のひとつである、「有限会社の廃止」についてです。施行以降は、有限会社の新規設立は出来なくなりましたが、既存の有限会社については、「特例有限会社制度」の元に、有限会社の商号をそのまま使用できたり、簡易な決算方法が認められるなど、従来とほとんど変わらず経営を継続することが出来ます。一方で、今まであった「最低資本金」の枠(株式会社1000万円、有限会社300万円)がなくなり1円から会社を設立することが出来るようになりましたので、有限会社が株式会社へ移行する場合、手続きとしては、商号の変更と登記だけで容易に可能となりました。では、実際に有限会社から株式会社へ移行した会社はどれだけあったのでしょうか。まだ正式な統計は出されていませんが、中小企業庁によるサンプル調査では、11.1%が株式会社へ移行しています。従業員数の多い有限会社ほど株式会社へ移行する傾向が強く、株式会社化へのきっかけになったことは確かなようです。しかし、有限会社にとっては、株式会社化による信頼性向上への期待よりも有限会社のメリットに対する満足度の方が優り現状維持派が大多数となりました。
【機関設計の柔軟化への対応】
次に、株式会社の機関設計の柔軟化への対応についてです。今までは、株式会社は、有限会社に比べてかなり厳格な機関設定がなされていました。その中には、形骸化したものも多く、たとえば、必要な3名の取締役や監査役をそろえるために、実質上名前だけということも多く見られました。3ヶ月に1度必須の取締役会は、名前だけの人間を集めることが出来ず、書類だけで開催したことになっていた場合も少なくありません。新会社法は、実態に合わせていこうと柔軟な考え方となりました。たとえば、取締役会の書面決議も実際の会議を開催しなくても可能となりました。新たな制度のうち、既に企業が導入または導入予定の制度は下記の通りです。1:取締役会の書面決議=30.9%、2:取締役の任期延長=28.1%、3:監査役の任期延長=15.2%、4:監査役の廃止=14.2%、5:取締役会の廃止=11.4%。また、取締役会を設置する場合、監査役に変えて「会計参与」という税理士などの専門家が担う内部機関を設置することが出来る制度が新たに加わりましたが、すでに決算を顧問先の税理士や会計士に依頼しており、必要性が感じられないといった声が多く3.2%にとどまっています。その他にも、設立登記時の類似商号の調査不要や『会社の事業目的』について、法務局に相談に行く作業の簡素化など、特に新たに起業していく際の制度軽減があげられます。
新会社法は、さまざまな制度の変更点がありますが、まだ十分には認識されてはおらず、制度改正が実際の会社運営に反映されてはいないのが実態です。今後、株主総会を繰り返すたびに、各社が実施した結果のさまざまな情報交換と試行錯誤とが繰り返され、よりマッチした制度を導入し、企業作りに活かされていくものと考えられます。

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