弁理士 舩坂俊昭
じゅん特許商標事務所
東京都豊島区西池袋5−8−9−204
TEL:03(5957)0415
<INDEX>
特許制度の意義 (04年8月 第16号〜04年9月 第17号)
工業所有権の周辺 (04年10月 第18号 〜 04年11月 第19号)
「実用新案制度の圧殺と中小企業」 (04年12月 第20号 〜 05年1月 第21号)
日常生活の中にあふれる工業所有権 (05年4月 第24号 〜 05年5月 第25号)
| 特許制度の意義(上) | |
|---|---|
| 自分で発明したもの、自分で開発した技術は自分だけのものである。努力によって到達したこれらのものはそれを実施に移し、低いコストで数量も多く生産することができるならば、市場競争で有利な立場と高い利益を上げることができる。だがその努力の結果を社会に生かすことによって利益を生もうとすれば、それを社会に無防備のままさらすことは避けられない。その場合は競争相手に技術情報を提供することになる。その結果、努力の成果は無に帰することになる。自分の開発した技術をいかに秘密にするかは最大の問題である。 本来社会的な意義を持つ技術を秘密とすれば、社会の発展を阻害するし、技術の発展もゆがめられる。個人の開発した技術を社会に公にすれば、それを新しい出発点として複数の研究がなされ、さらに技術を発展させることができる。それと同時にその技術を開発した個人に利益を独占させることができれば個人の努力は社会に生かされ、さらに技術開発研究は旺盛となり開発された技術が社会の発展に資することになる。 特許制度の根幹は個人の努力によって得られた本来秘密の技術を国家の行為として旺盛な技術革新の自由競争の大海原に公開し、だれもがその技術を利用することができる状態にすること。そしてその技術によって生み出された富を新しい技術を生み出したその人に独占させること。特許制度の淵源は産業革命以前にまで遡ることができようが、この「公開と独占」こそ特許制度の原始からの核心であり、現代ではますます光を放っているばかりか、一刻も早い公開と独占が極限にまで達しようとしている。 |
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| 特許制度の意義(下) | |
|---|---|
| 一刻も早い公開と独占を阻むもっとも大きなファクターは、審査期間である。開発した技術が生み出す利益を発明者に独占させるに値する新規な技術かどうかを国家が審査するのに要する期間である。 特許制度は、一刻も早い公開と独占を追求する過程で、不要・無用と判断するものを次つぎに振り落として進む。 まず社会的に大きな価値を生まないとみなされるものを特許制度から放逐する。それらは審査に値しないものとして無審査の実用新案制度の対象とする。出願されたものを審査しないまま早期に公開することによって、重複する技術の開発研究の無駄の鐘を鳴らし、重複出願を削り落とす。 しかし、こうしてふるいにかけられた特許出願がすべて審査されるのではない。審査請求期間が定められていて審査を求める者には高額な審査請求料を課す。これに耐えられないものは出願を取り下げたものと見なされ削り取られる。 このように幾重ものフィルターを通過したもののみが審査の対象になる。 技術革新の企業間、国際間の競争がもたらす特許制度の純化の成り行きとして、制度の脇に追いやられたもの、高いハードルは特許制度の生活感を希薄にさせ、阻外されたものと見えるかもしれない。だが、投げ捨てられたもの、それらを有効に逆利用することもまた企業の特許戦略として成り立つのである。 |
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| 工業所有権の周辺 @ | |
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| 土地建物、車、貨幣、日常生活に関わるすべてのもの、これらは所有者個人の責任において物理的に所有・管理されている。だから権利侵害が生じた場合、当否の判断は容易で解決もはやい。だが、知的所有権は直接手に触れてその所在を確認できないもの、すなわち特許(発明)、実用新案(考案)、意匠(デザイン)、商標(営業上の信用)、著作(小説、音楽、絵画)、ノウハウ(企業秘密、秘伝)等である。今は死語となっているが、ひと昔前までは「無体財産権」と総称されていた。 今ここで問題とするのは、「無体」という権利の特殊性ゆえに制定された特許法、実用新案法、意匠法、商標法についてである。この四つに関わる法律を総称して「工業所有権法」という。 これらの工業所有権は、有形をとどめないから所有者の物理的な所有は不可能である。今日、工業所有権制度は、たびたびの改正を重ねて工業所有権の内容を明確化する点で精緻を極め、それを登録することで特殊性をおぎなっている。 しかし、工業所有権の権利侵害の当事者間の紛争件数は増加傾向にあり、賠償金が大型化し、国際化もしている。その要因は、各企業間先端技術が拮抗し、工業所有権戦略でしのぎを削っていることを反映しているといえよう。しかしそれだけではなく、意図的ではなく他人の権利を侵害する場合、権利の性質上模倣されやすく、あたかも空権にみえるこれらの他人の権利を自分の利益のために取り入れることに痛痒を感じない風潮、権利意識の未分化等をあげることができる。多発するこの種の権利侵害の解決には高額の費用と長時間を要し、時には企業の屋台骨をゆるがすことになる。 |
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| 工業所有権の周辺 A | |
|---|---|
| 工業所有権制度はこのような権利紛争を未然に防止することをも目的とするものだが、この無形の価値あるものを現代社会にふさわしい秩序ある体系に位置づけることがいかに困難なことかは、特許庁の存在そのものが、またこの分野の紛争の解決に当たる裁判所が抱える多大な訴訟の存在が雄弁に物語っている。今日では工業所有権専属管轄の高等裁判所が計画されている。 特許庁は、出願された発明、考案、意匠、商標を審査し、登録すべきと判断したものには所有権を認め、内容、存在期間を明確にし、誰の所有かを登録し、それを公報とインターネットで公開し、誰もが容易にアクセスできるようにしている。 今日工業所有権制度への関心はかってなく高まっている。企業の社員の発明が企業に多大な利益をもたらしたが、その社員は報われてこなかったことが裁判で争われ、大きな社会問題にもなった。「阪神優勝」の商標が個人に登録されたことの是非が、マスコミを賑わしたりもした。 このような傾向は、日本経済の国際競争力を高めるために工業所有権制度を活用するとの政府の重点政策もあり、ますます強まるだろう。同時にそれは、工業所有権紛争を一層増大させるに相違ない。 特許庁の宣伝をしているようで恐縮だが、事業を行っている誰もが、自分が開発した発明、考案、創作した商品のデザイン、商品、サービスのネーミングを工業所有権として確保することによって、紛争に巻き込まれることを回避する事を真剣に考えなければなるまい。これはいわば消極的な防衛手段だが、工業所有権制度を経営戦略に位置づけ積極的に活用することが求められてもいる。 |
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| 「実用新案制度の圧殺と中小企業」 @ | |
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| <出願件数から垣間見えること> 工業所有権制度はどのように利用され、社会でどのような役割を果しているだろうか。国際的な広がりをもち、国家、企業、個人生活に関わる制度、全産業を包括する制度は他の制度と相互いに浸透しあい、からみあっているのでその全体像を目に見える方法で表すのは難しい課題だ。けれど数値で表される様々のデータからその一端を垣間みることはできる。その一つは出願件数を分析することである。 特許、実用新案、意匠、商標のそれぞれの年間の出願件数は特許庁で毎年公表し、上位の大企業の出願動向等を分析している。が、中小企業、個人のそれらの実体を把握する分析は行っていない。確かに企業数としては少ない大企業が大量に出願していることと比べ、企業数が膨大で多分野の技術にわたって出願しているその実態を把握することは難しいのだが、そもそも特許庁にその気がないことが主要な理由であることは間違いない。しかし、様々の統計が表す指標によってある程度推し量ることはできる。 <実用新案法の改正> 日本国特許庁が受付けた2003年の特許、実用新案の出願件数は43万9千件、そのうち実用新案が8千件弱となっている。特許制度の効率を妨げる“足手まとい”である実用新案出願は、1988年には20万件を越えていたが、1994年の実用新案法の「改正」によって、今日見るも無惨に1万件を下回る出願件数となった。このときの改正内容は、審査制度を廃止し出願されたものは無審査で登録する、権利期間を15年から6年に短縮するものであった。実用新案制度はこの法改正によって「圧殺」された。 特許庁の統計によれば、特許出願の国内出願人比率は約95%が法人、5%が個人である。実用新案出願の国内出願人比率はは約60%が法人で、このうちの約45%は中小企業、約40%が個人の出願によりしめられている。この統計は実用新案法が改正された後の数値だが、法改正以前は中小企業の実用新案依存はもっと高率であったと思われる。 ここに日本の特許制度の社会生活の実体がよく現れている。特許は、主として大企業が膨大な費用と人員によって大量の特許出願をし、技術開発革新のために利用されてきた。もちろんそれは誰からも非難されるいわれはない。そしてそれは国の工業所有権政策と一致するものだった。 |
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| 「実用新案制度の圧殺と中小企業」 A | |
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| <実用新案を重視していた中小企業> しかし実用新案はどうであろう。実用新案は特許庁の統計に現れているように、中小企業の技術開発革新の手段として盛んに活用され、特許には及ばないものの年間20万件の出願を超える大きな需要があった。年間20万件を越える実用新案出願件数はアメリカの年間特許出願件数に次ぐもので、ドイツの特許出願を上回る数値である。中小企業が実用新案出願と権利を維持するための負担は、大企業のそれのための負担とは比較にならない重いものである。中小企業が技術開発革新のために実用新案を重視していたことは明らかである。年間20万件を越える出願、そこには自らの技術開発の努力を実用新案によって実らせようとする切実な意思の表明だった。 実用新案制度は1904年(明治37年)に制定されて以来、94年の改正までに90年の長い歴史をもっている。樹木にたとえれば、しっかり根を張り枝をひろげ葉をいっぱいに繁らせた大木であった。これを根本から切り倒したのだった。理不尽な中小企業政策をみる思いである。 <朝令暮改の法改正> 実用新案を事実上廃止しながら、形だけ残した新実用新案にはまだ多くの需要があるものと高を括っていた特許庁は、出願件数の劇的な減少に驚いたに相違ない。実用新案をこのような形にして残すという工業所有権政策は明確に否定された。 そこで特許庁は、来年には実用新案の権利期間を6年から10年にするという法律改正を予定している。朝令暮改の極みである。 |
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| 世界でも特異な日本の特許出願構造 | |
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| もう少し日本の特許出願の構造をみてみよう。日本の特許庁が特許、実用新案の出願を受け付けた件数は1996年が約37万件で、2002年は約45万件。ほぼ直線的な右肩上がりである。この間外国からの出願は4万件から5万件でやはり直線的な右肩上がりである。 そして1996年の国内出願中上位10社がしめるのは7万件で21%、この傾向は2002年もほぼ同じである。上位10社は年間1社当たり8千件、1日当たり平均33件、1時間当たり4件もの特許を出願しているのである。実に驚くべき出願といえるだろう。 1件出願するのに必要な出願料、手数料などを低く見積もって20万円としよう。これだけで16億円をこえる。これに審査請求料(約20万円)、登録された後の17〜18年分の登録料、人件費などを加えるとその金額は天文学的数字となる。だが、こんな事で驚いてはいられない。日本が外国の特許庁に出願している件数は、1999年には50万件を超えている(国内40万件)のだ。 日本からの出願を受け付ける外国特許庁は先進資本主義国だけではない。世界知的所有権機構(WIPO)が発表する統計の内訳を知ることはできないが、50万件の特許出願中上位10社が占める割合は国内よりも飛躍的に高いものとなろう。ただし、特許出願の内容は国内出願と同一のものがほとんどであり、同一のものを同時に複数の国に出願するのである。外国出願1件に要する費用は、国内出願にかかる費用をはるかに超えることになる。はたして、この膨大な特許出願は、そのために投下した金額を回収することができるだろうか。例外はあるが、ほとんどが否である。 このような日本の特許出願構造は他の国と比較し得ないほど特異であり、特許法の改正を審議する国会で議論の対象となった。「なぜ」の問いに、政府の答弁は「This is Japan」である。この事態が特許出願の審査期間を長期化させている。そのためアメリカから日本への特許出願の権利化が遅れ発明の成果が守られないと、しばしばきついお叱りを受ける。 日本の異常現象を1999年の「世界の特許・実用新案出願シェア」(WIPO)からみると、日本への出願(国内出願+外国からの出願)件数の世界全体(約726万件)に占めるシェアは6.2%、45万件である。同年アメリカは4.1%、ドイツは3.4%、イギリスは2.7%である。日本の特許出願構造の異常さは際だっている。その原因はどこにあるのだろうか。 (特許出願件数が一貫していないのは特許庁の統計が正確ではないためです) |
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| 大量に出願される特許の「質」は… | |
|---|---|
| 世界にまれな膨大な件数を記録している日本特許出願の質はどうであろうか。質と量の関係は多くの場合相反するものである。量は数字に置き換えられるから視覚によって判断される。特許出願件数の膨大さはあたかも日本の旺盛な技術革新を示しているかにみえる。しかし、その質も同程度に問われるべきはずである。 【出願総数の半分が拒絶査定】 04年5月、国会の「特許審査迅速化法」の審議の中で、特許出願件数上位50社の拒絶査定率(拒絶査定件数÷(特許査定件数+拒絶査定件数))が明らかにされた。01年43.5%、02年47.1%、03年47.3%だった。 02年の上位50社の出願件数を18万件と推定(特許庁からは、「上位50社」の出願件数は公表されていない)すると、そのうちの8万5千件が、特許権に値しないか、既存の特許権に抵触するとして拒絶されたのである。上位10社に絞れば、拒絶査定率はこれをさらに大きく上回ることは明らかである。 この事実を提示された特許庁長官は、「先行技術というか、従来技術の調査不足というのが圧倒的に多い」と、その原因について答弁している。 自らが位置する技術分野で、しのぎを削るライバル会社の最先端の技術を熟知していながら、まともな調査もしないまま膨大な特許出願をする。そしてその半分が査定を拒絶されているのである。なぜこのような事態が生まれているのか。 【莫大な補助金と大量の特許出願の因果】 その主な原因を政府の研究開発補助金に見ることができる。 03年に経済産業省が行った分だけでも、上位10社には410億8千万円が支払われている。第1位の日立製作所は86億9千万円、三菱重工業は75億円、東芝は55億2千万円。以下、富士通、川崎重工、三菱電機と続く。いずれも大量の特許出願をする企業である。 膨大な利益を上げる大企業に湯水のごとく注がれる研究開発補助金、ここに大企業による低品質の特許出願が膨大にされる大きな原因がある。一方この年500万社にのぼる中小企業への研究開発補助金はわずか73億円。日立製作所、三菱重工業一社に支払われた金額をも下回るのだった。 |
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| 日常生活の中にあふれる工業所有権 @ | |
|---|---|
| 特許法、実用新案法、意匠法、商標法は、それぞれ独自の体系を持ちながら全体として一つの世界を構成している、それは工業所有権制度である。そしてその世界は私たちの生活に密接に結びついている。 工業所有権制度が私たちの日常生活にどのように密接に関わっているか朝起床し、夜就寝するまでの一日の生活に見ることができる。 朝起床し食事をする。食料品、使用する食器にはたいてい商標が付されている。食事をしながら読む新聞の紙名は商標であり、その新聞に掲載されている広告、折り込みの広告には商標があふれている。見ているテレビももちろん商標が付され、コマーシャルは商標の宣伝である。そのテレビは特許権の固まりで、その形状は意匠登録がなされている。食事が終わると○○マークの歯ブラシに××印の歯磨きをつける。使用するシェーバー、化粧品、化粧品の容器は商標が付されその形状もまた意匠登録されている。 出勤に着るスーツ、ワイシャツ、靴、ハンドバック、腕時計にも商標が付されている。昼食をとるレストラン、その後の喫茶店の店名も商標である。通勤に使用する自動車、自転車、利用する交通機関、携帯電話、職場で使用するOA機器、生産現場で駆動する産業機械器具等々。生の動植物以外の自然法則を利用するものすべてが特許の対象であり、最近では自然法則を越えるビジネスの方法でさえもが特許の対象となっている。 |
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| 日常生活の中にあふれる工業所有権 A | |
|---|---|
| 夜の繁華街はイルミネーションにより商標があふれ昼間のごとくである。もし商標がなければおそらく街の夜は暗く、活気のない街になるに相違ない。夕べの食卓にラベルの無いビールが出されたらどうであろう。工業所有権制度は私たちの日常生活には切っても切れない関わりを持っているのである。 このような事実をあらためて振り返ってみるのは、中小企業者が国民の生活全体に広く、深く関わっている工業所有権制度を自分の事業に十分に有効に活用していないのではないかと考えているからである。 たしかに「特許紛争…中小に勝ち目なし!?」「無効審判繰り返され消耗『泣き寝入りしか…』」(日経5月9日付)等の報道にも見られるように、中小企業が工業所有権制度を活用しにくい大きな要因として、国の中小企業政策や法制度上に問題があることは明らかである。だが理由はそれだけではない。この制度は中小企業によって積極的に、能動的に活用すべきである。 |
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