| 2003.5-2003.9 | 2003.10-2004.2 | 2004.3-2004.7 | 2004.8-2004.12 | 2005.1-2005.5 |
| 2005.6-2005.12 | 2006.1-2006.12 | 2007.1- |
| 間接差別禁止を盛り込む男女雇用機会均等法へ(2006年1月) | |
|---|---|
【通常国会に改正案提出】 厚生労働省の労働政策審議会・雇用均等分科会は、昨年12月27日に意見書をまとめ、通常国会に男女雇用機会均等対策について改正案を提出する予定です。その概要は次のとおり。 (1)一方の性であることを理由に「権限の付与・業務の配分」において差別的取扱いを禁止する。(例:「自己の責任で買い付けできる金額の上限について男女で差を設けること」「営業部門において、男性には外勤をさせるが女性は内勤のみで外勤をさせないこと」等) (2)以下を理由とする解雇および不利益取扱いを禁止する。@妊娠・出産・産前産後休業の取得及び取得しようとした、A母性保護措置や母性健康管理措置を受けたこと及び受けようとした、B妊娠または出産に起因する能率低下または労働不能が生じた。 不利益取扱いには、「降格、雇用形態または職種の変更、退職勧奨及び雇い止め」も含まれることとし、これらも禁止の対象とする。また、妊娠中及び産後1年以内に行われた解雇は、事業主が妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを証明しない限り、無効とする。 (3)外見上は中立的に見える基準だが結果的に一方の性に不利益を与えるもの(間接差別)は、職務との関連性がある場合など合理性・正当性があるものでなければ禁止する。当面、以下の3つを禁止し、今後については「判例の動向等を見つつ…見直し」をする。@募集・採用における身長・体重・体力要件、Aコース別雇用管理制度における総合職の募集・採用における全国転勤要件、B昇進における転勤経験要件。 (4)セクハラに係り、@事業主の配慮義務規定を措置義務規定とする、A男性に対するセクハラも対象とする、Bセクハラに係る紛争を均等法上の調停の対象とする。 【国連の勧告、判例動向も踏まえて対応を】 間接差別をめぐり、労働者側委員からは「間接差別基準は限定列挙ではなく例示列挙にすべき」との意見が出され、使用者側委員からは「間接差別概念の導入」そのものに反対する意見が出たといいます。そういう意味では今回の意見書は妥協の産物といえます。 しかし、もともと間接差別をめぐる検討は、2003年に国連女子差別撤廃委員会が間接的な男女差別をなくす法整備を日本政府に勧告したところから始まっています。その後、コース別処遇をめぐる野村証券訴訟、住友電工訴訟など一連の裁判では、女性昇格で和解となっています。こうした流れをふまえた就業規則の整備等の対応が必要です。 |
|
| 中小企業や起業家を狙い撃ちする同族会社への新たな課税制度(2006年2月) | |||||||||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
昨年12月に発表された自民党の「税制改正大綱」で、一定の同族会社(※1)の社長給与の給与所得控除分を会社経費と認めず、法人税課税の対象とする旨が盛り込まれました(1月17日閣議決定)。 【課税対象はほとんどの中小零細企業】 対象となるのは、同族会社のうち、社長など業務を主宰する役員とその関係者だけで90%以上の株式を所有し、かつ、常勤役員のうち過半数の役員を占めている会社。社長など(業務を主宰する役員)に支給される報酬のうち、給与所得控除額に相当する金額を会社の経費として認めないとしています。 これには、適用除外規定(※2)が設けられていますが、それでも相当数の中小企業が課税対象になると考えられます。 中小企業家同友会の試算によれば、以下のケースの場合、従来法人税非課税だったにもかかわらず新たに71万円弱の法人税(実効税率30.85%)を負担しなければなりません。
合計金額の3年間の平均=900万円 上記の場合、役員給与1200万円に対する給与所得控除額230万円相当額の損金算入が認められず、新たに法人税が課税される。 【合理的根拠なく、経済活性化にも逆行】 そもそも今回新たな税負担の対象となっている同族会社のほとんどすべてが中小零細企業であり、それを他から差別して課税することに合理的理由はありません。また、役員給与の給与所得控除相当額がなぜ法人所得に上乗せされるのかについても合理性がありません。 それどころか、新会社法施行を機に事業を法人化して発展させようとしたり、起業をめざそうという意欲に水をかけることになり、経済の活性化に逆行することになるのではないでしょうか。 ※1<同族会社> 3人以下の株主(出資者)とこれらと特殊の関係にある個人や法人が総株式(出資金)の50%以上を所有する会社のことで、わが国の法人の90%以上が該当します。 ※2<適用除外規定> 会社の所得金額と役員給与の合計(3年間の平均)が、@800万円以下、あるいはA800万円超3000万円以下で、かつ役員給与額が合計金額の50%以下の場合。 |
|||||||||||||||||||||
![]()
| 労働者から事業主への訴えが増加?…4月より労働審判制が開始(2006年3月) | |
|---|---|
労働者と事業主との間に生じた紛争を、「迅速」、「適正」に、「実効性」のあるものとして解決するための「労働審判制」が4月1日より開始されます。 現在の労使紛争解決の手段としては、労基法等に基づく労基署の監督権限による解決の他、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」や「民事訴訟」等による方法があります。しかし、労基署による監督権限では使用者が異議を唱えた場合には強制することができませんし、「個別労働関係紛争・・・法律」では「あっせん」を打ち切られることが半数程度と多くの紛争を解決できない状況となっており、「民事訴訟」にいたっては解決までの期間が長いことや多額の費用が必要なことから訴訟に踏み切るケースは氷山の一角と言われています。 【労働審判制の特徴】 こうした実情を踏まえて制定されたのがこの「労働審判制」です。対象となるのは、労使の間の解雇問題や賃金・退職金の支払い等です。募集・採用については労働契約締結以前の問題ですので対象とはなりませんが、個人を請負や業務委託等で使用している場合に、労働者から「実質的に労働契約関係にある」との主張がされた場合には対象となります。 この「労働審判制」の特徴は以下のとおりです。 @迅速性・・・原則3回の期日で紛争解決 A適正・・・裁判官の他に2名の審判員(労働関係の 専門家)が労働審判の評議に参加 B実効性・・・裁判上の和解と同一の効力 【労務管理への習熟が課題に】 費用的には小額(100万円の訴額であれば5,000円程度)で行うことができますし、裁判上の判決にあたる「労働審判」に従わなかった場合には「強制執行」ができることになっていることから、今まで訴えを踏みとどまっていた労働者の多くが「労働審判制」への「申立」を行うことになるだろうと予想されています。 労働者の側からは申立てがしやすい制度になっている一方、企業にとってはこの申立てに対応するための費用は膨大なものとなります。したがって、労務管理によりいっそう習熟して不要な紛争を起こさないための企業としての対策が必要です。 【異議申立は…】 なお、この「労働審判」に異議を申立てることは可能ですが、この場合には自動的に地方裁判所への提訴が行われたものとみなされます。しかし、現在の民事裁判の上訴審判決同様に、「労働審判」が地裁判決で覆ることは少なくなると考えられますから、異議申立に大きな利益があるとはいえないでしょう。 |
|
![]()
| 労働契約法の骨格作りが本格的にはじまる(2006年4月) | |
|---|---|
労働契約法の骨格作りがこの4月から、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の分科会で本格的にはじまり、7月までに中間答申をまとめる予定です。厚生労働省は、すでに一昨年に「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」を設置し、昨年9月にたたき台となる報告をまとめました。労働契約法の狙いは?何が争点になっているのか? 【個別労働紛争の増大が背景】 個々の労働者と企業が結ぶ雇用契約については、労働基準法が最低限の基準を定めています。これを踏まえ、労働組合が経営者と交渉して労働協約を作り、労働協約と就業規則に基づいて雇用契約が結ばれてきたのがこれまでの日本の労働慣行です。 ところが労働組合組織率の低下などの中で労働者個人と会社が争う例が増え、一方その解決は裁判所の判例の蓄積だけが頼みというのが現状です。明確な法制化でわかりやすい処理ルールをという労働界などの要望を受けて労働契約法の作成がはじまりました。 【経営側にも労働側にも根強い反発】 労使関係のあり方を大転換する法制度だけに、経営側にも労働側にも警戒や反発が根強くあります。昨年9月の報告をめぐる争点の主なものを紹介すると…。 @労使委員会の活用…報告は、半数以上を労働者で構成する労使委員会を常設し、5分の4以上の賛成で労働条件を変更できるとします。これまで労働組合が担ってきた役割を組織率の低下に伴って補う制度が必要だということです。労働側は「労働条件の変更には個人の同意が必要。労使委員会では労使の対等性が保証されない」と反発します。 A解雇の金銭解決の制度…解雇が裁判紛争となったとき、現時点では、解雇無効か、解雇有効のどちらかしか結論はありませんが、報告は、金銭解決制度によって「解雇無効(または有効)・解決金支払・労働契約終了」という第3、第4の途を設けることを企図します。経営側は賛成ですが、労働側は「乱用される心配」を指摘します。 B雇用継続型契約変更制度…報告は、労働条件を変更しようとする経営側の申し出を労働者が受け入れなかった場合も、解雇されずに協議を続ける制度を設けるとします。労使にとっての意義や具体的手続をめぐって今後の議論が予想されます。 労働契約法とそれに基づく指針等が確立すれば、使用者が講ずべき措置が厳格に規定されることが予想され、中小企業にも大きな影響を与えるでしょう。今後の成り行きに注目しておく必要があります。 |
|
| スタートした会社法…上手に使って会社発展の契機に(2006年5月) | |
|---|---|
今月1日から会社法がスタートしました。当事務所でも、これを機に法人(株式会社)化して、心機一転を期しています。 新しい会社法、どんな特徴があるのか、中小企業にとってどのようなメリットがあるのか、あらためて見ておきましょう。 【有限会社、株式会社の区別をなくす】 従来、規模の大小を基準に会社を組織していくという想定のもとに、有限会社と株式会社が作られてきましたが、実態は、「取引上、株式会社のほうが有利」という風潮やイメージもあり、少なくない中小企業が株式会社の形式を採用してきました。そのため、こうした区別があまり意味をなさないのが実情でした。 そこで今回の会社法では、規模の大小にかかわらず株式会社に統一されることになりました。具体的には、今後有限会社の設立はできなくなりました。既存の有限会社については、望むならば一定の手続を経て株式会社に簡単に移行でき、望まないならば手続なしで、「特例有限会社」として存続し続けることが可能です。 【多様な機関設計が可能に】 会社法施行で、中小企業にとっての最大の変更点は、株式会社の設置すべき機関が多様になり、かなり自由に選択できるようになったことです。従来、株式会社として設置を義務付けられていたのは、株主総会のほかに、3名以上の取締役(任期2年)で構成する取締役会と監査役(同4年)でした。しかし、実質的に社長一人とわずかな従業員という中小企業も少なくありませんでした。 今度の会社法には、こうした実態が反映され、「株主総会+取締役1人」という最も簡単な機関設計も選択可能となりました。そして、その後の会社の発展や必要に応じて、取締役会や監査役、会計参与等を設置することになります。また、取締役や監査役の任期も定款で定めれば、10年まで延長が可能となります。 【会社の現状を自覚することから】 その他にも、さまざまな変更点や新制度があります。すでに多くの情報があふれていますが、選択肢が増えるということは、よく考えて選択しなければならないということであり、大切なことは、会社法施行を自分の会社を経営者がよく自覚するための契機にしていくことではないでしょうか。 |
|
![]()
| 行過ぎた成果主義“3罪”…三井住友銀行、損保ジャパン、社会保険庁(2006年6月) | |
|---|---|
【相次ぐ前代未聞の事件】 大手企業と官庁を舞台に、“ここまでやるか!”と驚かされる事件が相次ぎました。 三井住友銀行は、中小業者への融資の際に大銀行の地位を利用し「金利スワップ」という投機的商品を抱き合わせで販売、それが不公正な取引(独禁法)の罪に問われ、金融庁から一部業務停止命令の行政処分を受けました。銀行が独占禁止法違反で行政処分を受けたのは同行が初めてです。 損保ジャパンは、顧客が支払うべき保険料を社員が立て替える、顧客に連絡せずに顧客名義の印鑑を契約書に勝手に押すなど、契約や支払にかかわる業務で広範囲の法令違反があったとして、金融庁から一部業務停止命令の行政処分を受けました。 社会保険庁は、全国の社会保険事務所で、国民年金保険料の免除・猶予手続を、本人の意思を確認せず(あるいは電話で意思を確認した上で)勝手に行っていたことが明るみになりました。 【人件費削減とノルマの強制が背景に】 成果をあげた者がそれなりに報われるという意味での成果主義なら、賛成する人も少なくないでしょう。しかし上記3事件の背景には行き過ぎた成果主義があります。 三井住友銀行では、投機的商品を売らない限り収益目標は達成できないほど大きなノルマが行員に課されていました。しかも、成果をあげた者への配分は、毎月の給与から天引き(部長で3万5千円、一般行員で5千円)したお金を原資にした再配分だったのです。 損保ジャパンと社会保険庁の場合も厳しいノルマがありました。社会保険庁の場合、07年までに国民年金納付率を80%にするという「目標」がいつのまにか「必達納付率」という言葉に替わるほど圧力があったという内部告発も。事例が多数件発覚した地方の社会保険事務局長の責任にし、更迭してしまえば済む話ではとてもなさそうです。そういえば村瀬長官が損保ジャパンの副社長だったのは偶然の一致でしょうか? 【人材を宝とした経営を】 会社、とりわけ中小企業にとって人材は宝です。だからまじめな中小企業家は、人材の確保と育成に真剣な努力を注いでいるのです。 人件費削減のみを目的とし、過大なノルマを課すことに終始する歪んだ成果主義は、人材の育成とは無縁で、結局は経営にとってもマイナスです。3つの事件を対岸の火事としたくはありません。 |
|
| 福井総裁のスキャンダルで問われる日銀のコンプライアンス(2006年7月) | |
|---|---|
ゼロ金利解消問題で判断が注目される日銀ですが、もう一つ、注目されている問題があります。福井総裁のスキャンダルへの判断。富士通総研理事長だった1999年に「村上ファンド」に1000万円の資金を拠出し、03年3月の総裁就任以降も解約しないまま資金拠出を継続し、個人資産の運用で総額1000万円あまりの利益を得ていたというものです。 【“聞いちゃった”村上氏よりも責任の重い日銀総裁】 国全体の経済金融政策を決定・執行し、日本経済全体に大きな影響力を持つ日銀。市中銀行への指導やヒヤリングをはじめ、個別企業についてもその情報をいち早く収集可能(実際に収集)な地位にあります。「それって、インサイダーじゃない?」との疑問の声が出るのもあたりまえです。ましてその中には、この間話題になってきたニッポン放送株、阪神電鉄株なども含まれていたとのこと。 村上ファンドの代表が“聞いちゃっただけ”と弁解しても、「インサイダー取引」容疑で逮捕されたことからみれば、日銀総裁という公的立場にあり重い責任を持つ福井氏の事件は、とてもそれより軽いとは言えません。市場に対して規律を求めてきた日銀は、そのトップの自己規律が問われているのです。 【「問題なし」なのに、なぜ処分や寄付を?】 福井総裁をはじめ日銀は、服務規程に違反しておらず「問題なし」としていますが、その一方で、ファンドから得た利益だけでなく元本も全額寄付するとか、報酬の大幅カット処分を表明するなど自信のない対応。 とくに、「寄付」を表明した記者会見では、「コンプライアンスに問題はなかった」が、「世の中が不適切な利益をあげたと思っているなら、その元を受け取るのも気持ちが悪い」などと開き直る始末。「寄付をすれば問題はチャラになるの?」と聞きたくなるような後味の悪さです。 また、発表された日銀の新たな「内規」では、金融株式・債券の保有を禁じつつも一般企業の株式は対象外だったり、資産公開から不動産をはずすなど、中央銀行の信用を問う声にこたえる内容にはなっていません。 【サッカーならイエローカード2枚で退場】 福井総裁は、過去の副総裁時代に接待汚職事件の責任を問われ退任していますが、今回はいわば2枚目の“イエローカード”。サッカーならば退場か、次の試合は出場停止です。スポーツのルールのようなわかりやすさが、本来のコンプライアンスのはずです。 それにしても、ワールドカップ決勝でのジダン事件、真相とFIFAによる決着が気になります。 |
|
![]()
| キャノン・松下・日立…の偽装請負(2006年8月) | |
|---|---|
製造業を中心に偽装請負という違法な労働形態が横行していると朝日新聞は報道しました。この3年間で違法と認定された企業にはキャノン・松下・日立など日本を代表する企業がずらり。 さらに、トヨタの子会社は、偽装請負の発覚を恐れて「労災隠し」までやっていたのです。 【なぜ「派遣」ではなく「請負」なのか?】 そもそも「請負」とは、発注元から独立し、自前のノウハウ・設備を用いて商品を生産、納品するのが本来の形です。「偽装請負」とは、請負会社は労働者を発注元に送り込むだけで、指揮命令は発注元任せになっている状態です。 これは「派遣」と同じで、厚生労働省も派遣への切り替えを促していますが、切り替えてから一定期間を過ぎると、派遣労働者に直接雇用を申し込む義務が派遣先に発生し、結果的に人件費上昇につながるため、企業は派遣への切り替えには消極的です。 また、安全衛生上の義務を負わないことからも請負という方法は「重宝」されています。 そこで、松下の子会社は、正社員を請負会社に出向させ出向した社員に指揮命令させるやり方をとりました。他社の労働者を指揮命令して使用するには派遣契約が必要ですが、結ばれていません。形式上は偽装請負ではないので、違法とは言えないでしょうが、脱法行為であることは確か。 まして、松下の別工場では、派遣で雇って助成金をもらい、その直後(1年以内)に派遣から請負に雇用形態を切り替えていたというのですから、悪質と言わざるを得ません。 【技術の承継と人材育成を見据える必要】 一方で、偽装請負を完全解消するための取り組みをはじめた企業もあります。直接雇用によって技術力の向上を図るという目的があるようです。 この問題はコンプライアンスだけではなく、雇用・労務管理、安全衛生、技術の承継など、広範囲に渡ります。価格競争では日本に勝ち目はないので技術で勝負する、そのためにはじっくり人を育てるという考え方があっても良い気がしてなりません。 |
|
| 労働経済白書とワーキングプア(2006年9月) | |
|---|---|
| 【相次ぎ報告される所得格差の実態】 7月23日のNHKスペシャルは、「ワーキングプア」(=働いているのに生活保護水準以下の暮らししかできない人たち)を取り上げました。全世帯の4分の1、400万世帯以上が該当といわれます。 8月8日に発表された厚生労働省の労働経済白書は、所得格差の実態を分析し、格差を固定化させないための対策を訴えました。 若年層についてみると、派遣やアルバイトなどを中心に年収150万円未満が2割を超え、これらの層は「親と同居する者の割合が高く、有配偶率も低(く)…少子化の傾向をさらに促進する要因にもなっている」と指摘します。半面、年収500万円以上の20代もわずかながら増加しています。 一方、正社員の所得格差の拡大も顕著で、大企業の大卒男性正社員の月給について、90年〜94年と、00年〜04年の平均賃金分布を10段階に分け、最も高い層と最も低い層を比べたところ、40〜44歳では、その差が、月給で21.4万円から26.8万円に、45〜49歳では24.2万円から30.9万円に広がっています。 【雇用制度改革の処方箋を】 白書は、格差拡大の背景に雇用制度の変化による非正規雇用の増大があるという見方を初めて示しました。非正規雇用の増大は、労働者派遣法の制定、有期雇用契約の限度期間を1年から3年に延長したことなどをきっかけとした企業の雇用形態の変化が背景にあります。企業の側が非正社員から正社員への道筋作り、非正社員の賃金など処遇の改善を行うと同時に、厚生労働省自らもやるべき法整備についての処方箋を示すべきでしょう。 【人材育成が急務】 また、正社員の所得格差拡大の背景には、多くの企業で導入がすすんでいる成果主義による能力評価の影響があります。この点で経済産業省の「人材マネジメントに関する研究会」の報告書は次のような興味深い指摘をしています。「目標管理制度」が実際には「結果管理制度」になり、「部下が必要とする支援は行われず、インプットのないアウトプットばかりを要求される“疲弊”状況が職場に広がり、すでに長い時間を経過してきている」。 成果で処遇を評価する制度改革に終始するのではなく、成果を生み出すための能力向上策の具体化が企業に求められているといえます。 |
|
| 好景気――「戦後最長」の一方で…(2006年10月) | |
|---|---|
| 2002年2月から始まった景気拡大。今月でちょうど57ヶ月連続となり、戦後最長だった1960年代後半の「いざなぎ景気」と並びました。 【広がる人手不足感――人材派遣業にも影響】 たしかに、大手企業を中心に「過去最高益を更新」などのニュースを頻繁に目にします。 また、それまでの“労働力過剰=リストラ”という流れから、逆に人材不足が問題になり、中小企業では新卒採用を確保することもままならない状況すら生まれています。日銀の9月の企業短期経済観測調査でも、「雇用人員判断DI」(「過剰」−「不足」)が全産業でマイナス8となり、不足感が拡大しています。 とくに、人材派遣業をめぐってその影響は大きく、派遣スタッフのなり手が不足し、供給が追いつかない状況が生まれているとのこと。派遣料金がこの半年間で1割も上昇しています。 【期間は長いが、いびつな低空飛行】 しかし、「戦後最長の好景気」の割には、多くのエコノミストの分析もそれを報じるさまざまな経済紙誌も、あまり“景気”が良い口ぶりではありません。 というのも、今回の景気は期間が長いだけで、数字的には「低空飛行」、内容的に見てもきわめていびつな実態があるからに他なりません。 「いざなぎ景気」では57ヶ月の期間中に名目GDPが122.8%という驚異的な伸びを示しましたが、今回はわずか4.2%の伸びにとどまり、まったく実感の乏しいものとなっています。51ヶ月続いた「バブル景気」でも、期間中のGDPの伸び率は34.7%でした。 景気のけん引役ももっぱら円安と輸出に頼ったもので、設備投資はあまり芳しいものではありません。とりわけ個人消費は、ほとんど景気の主役になっていないばかりか、個人消費の土台となるサラリーマンの給料(名目雇用者報酬)は、この57ヶ月間で上昇どころか減額(▲1.6%)しています。景気拡大期に賃金が目減りしたのは過去に例がありません。 景気の見方について、大手企業と中小企業との間に大きなズレがあるのも今回の特徴です。改善が進んでいるとはいえ、中小企業の業況判断DI(「好転」−「悪化」)は、依然としてマイナス20ポイント前後((独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」)で、景気の良さを実感できない中小企業が圧倒的です。 日本経済の本格的な底上げを作り出すのか、それとも中小企業や国民の圧倒的部分が実感できないまま終わってしまうのか、これからが正念場です。 |
|
![]()
| 年金の離婚分割の開始で離婚率減少?(2006年11月) | |
|---|---|
| 平成19年4月から、離婚時等の夫婦の年金分割制度が導入され、平成20年4月からは妻(夫)が第3号被保険者であった期間は、自動的に年金分割される制度が導入されます。そして、この10月からは、妻(夫)が夫(妻)の年金情報を内緒で社会保険事務所から入手できるようになりました。 来年4月以降の離婚を虎視眈々と狙っている人が、今離婚するのを思いとどまっているのでしょうか?マスコミでは年金分割を前にした離婚率の一時的減少が取り沙汰されています。 【制度導入の背景は?】 年金額は夫婦の勤労形態の違いで大きな差が出てきます。とりわけ60代以上の場合であれば、夫は定年まで会社勤めで厚生年金+国民年金、妻は専業主婦で国民年金のみというケースが一般的で、定年後は二人の年金で夫婦の生活を支えることになります。 現行制度だと、離婚するとこの前提が崩れてしまい、妻は国民年金だけで生活しなければなりません。裁判で妻への仕送りが命じられたとしても、夫が死亡したら途絶えてしまいます。その結果、高齢単身女性の貧困問題が発生していると言われています。 このような現実から、権利譲渡・担保・差し押さえができないという年金権の一身専属制を維持しつつ、先述のような不利益を解消するために新しい制度が整備されました。 【本当にお得なの?】 この制度がマスコミに取り上げられ始めた頃は、金額が増えることばかり伝えられていました。 よく言われるのは「夫の年金が半分もらえる」ということですが、必ずしもそうとは限りません。 今回の制度は、言ってしまえば、結婚後の夫と妻の厚生年金に加入していた期間・金額を当事者の協議で決めた割合に分割する制度です。ということは、共働きのような場合は分割される金額も少ないですし、夫が結婚後自営業になった場合など、妻の厚生年金を夫に分け与えるという予想外のケースも考えられます。さらに、国民年金については分割対象外なので、国民年金の受給額が少ないことについては、どうしようもありません。 マスコミの情報は間違ってはいませんが、時間等の制約で伝えうる内容は限られます。よって、自分で調べたり、専門家に相談したりすることが必要です。そして、急を要さないのであれば、離婚後のライフプランを設計した上で最終判断を下す冷静さも必要なのではないでしょうか。 |
|
| 「国民の豊かさ」世界6位の実相(2006年12月) | |
|---|---|
| 【経済指標は軒並み下位】 12月1日、社会経済生産性本部は「国民の豊かさの国際比較」(2006年版)を発表しました。健康・環境・労働経済・教育・文明・マクロ経済の6カテゴリーにわたる56指標を偏差値化して総合化したのが「豊かさ指標」。それによると日本の国民の豊かさはOECD加盟30カ国中第6位でした(上位は、1位ルクセンブルグで、以下ノルウェー、スウェーデン、スイス、フィンランドと続く)。新聞報道は前年10位と比べ4ランク上昇したことに注目していますが…。 個別指標をみると、日本はほとんどの指標が前回とほぼ同順位で、前回上位だった国々の指標が悪化したことにより、結果的に日本のランクが上がったようです。日本の順位が高かった指標は、平均寿命(1位)、病院ベッド数(1位)、乳児低死亡率(2位)など。順位が低かったものはマクロ経済指標(全体で23位)で、その中でも経済成長率と政府累積債務は最下位、輸出額28位、輸入額28位、財政バランス28位などの指標がとくに悪くなっています。 【「格差社会」と富の再分配機能】 先日発表された今年の流行語大賞は「イナバウアー」と「品格」でしたが、「格差社会」もトップテン入り。好景気が喧伝される一方で、消費支出は伸び悩み、中小企業の景況感は大企業のそれと比べると必ずしも良くありません。 戦後日本経済の発展の中で、それなりに国民の「豊かさ」が築かれてきた背景には、国家による「富の再分配機能」がありました。@税と社会保障を通じた所得再分配、A各種補助金・交付税交付金による地域間の所得再分配、B農業・小零細流通業などへの保護規制と補助金による産業間の所得再分配です。 大手銀行が空前の利益をあげながら長期にわたって法人税支払いゼロ、医療・年金制度の相次ぐ後退、北海道夕張市をはじめとした過疎自治体の財政破綻、正規雇用と非正規雇用の二極化…これらの事実が示すものは、国の「富の再分配機能」の崩壊といっていいでしょう。 世界何位かよりも、未来の明るい、「品格」ある国民の豊かさを願いたいものです。 |
|
| バックナンバー INDEXへ |